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わがまま王女の迷宮譚  作者: marvin
宮廷講義(2/6)
17/48

魔術師体系

「さて、告発するだの何だのと、不穏なご意見を賜った訳だが」

 教壇に立ったクラン・クラインは、神妙な顔でそう告げた。

 相変わらず不貞腐れたキャスロードと、興味本位のコルベット、マリエルは睡魔に抗い頬を抓っている。今日も顔を出したパルディオは、講義室の後ろから鹿爪らしい顔で睨んでいた。

「なので、今回は無難に魔術師について話をしよう」

 おもむろに振り返り、白板に大きく書き殴る。


 魔術師にヒゲは不要


「あんな白髭を伸ばしているのは、サルカンの爺くらいだ」


 魔術師には階位と種類がある。大きく分けると、四つと二つ。下級、中級、上級、大魔術師の階位。種類は、魔術師と理論魔術師。これは、呪文を唱える者と作る者の違いだ。

 施術には、生まれついての才能が必要だ。これを資質(タレント)と呼ぶ。一方で、頭さえよければ術式は誰にでも組める。凄くよければ、の話だが。それが魔術師と理論魔術師だ。

 当然、魔術師は理論魔術師を兼ねることができる。自ら術式を組む魔術師も多い。本来、どちらに重きを置くかで厳密な切り分けは難しいが、階位は敢えてそれを明確にしている。


「魔術の使えない魔術師は、当然、差別されて来た、とはいえ、施術には術式が必要だ、優秀な術式は喉から手が出るほど欲しい、そこで、あなたも立派な魔術師ですよ、と理論魔術師にも階位を設けた訳だ」

 パルディオが咳払いをした。思い切りクランを睨んでいる。

「まあ、今はそう酷い差別もない、アーデルトだって宮廷魔術師に任じられるほどだ、ただ、繊細な問題には違いない、こういった慣習は繰り返すからな、故に、魔術師の階位は呼び方ひとつで喧嘩になる、気をつけることだ」


 魔術師見習いのコルベットやアディは准魔術師(ニオフェイト)。理論魔術師も同じ呼び名だ。有資格魔術師としては最下位だが、取得できるのは三〇台の中頃が普通だ。二人は相当、優秀だと言える。

 コルベットが、むふう、と鼻息を吹いた。

 以降の階位は先の通り、二つの呼び名がある。下級魔術師(ゼレータ)理論魔術師(セオリカ)中級魔術師(プラクティカ)理論魔術師(フィロソファ)上級魔術師(ゼレータ=アデプタ)理論魔術師(セオリカ=アデプタ)だ。

 上級魔術師ほどになれば、上級魔術師(アデプタ)のひとつで済ませることも多い。最高位の大魔術師(メイガス)に至っては、それを超越して区分がない。魔術大国のこの国でさえ、サルカンただ一人だ。


「最高位は大魔導士(イプシシマス)もだぞ、フースークは大魔導士(イプシシマス)だ」

 キャスロードがいきり立って口を挿んだ。フースークは幾多の英雄譚に登場する悪役だ。戯曲化された魔竜戦争には、調伏の姫(アフェリア)がその身を犠牲にフースークを湖の底に封じる名場面がある。

 大英雄シリウスの試練に次いで、大好きな物語だ。

「あれは嘘だ」

「うそ?」

 ぽかん、とキャスロードが口を開く。隣でマリエルも同じ顔をしている。何を今さら、といった顔で、コルベットは二人を眺めていた。

「あんなのを協会が叙位するわけないだろう、悪役を大魔術師(メイガス)なんて呼べるわけもなし、創作か自称だ、箔が欲しかっただけかも知れん」

 唐突に、厚い教本がクランの頬を掠めて白板に撥ねた。

「嘘を吐いているのはおまえだ」

 キャスロードが真っ赤になって立ち上がり、机上の物を片端から投げつけた。薄手の本や帳面が、宙で開いて明後日の方に落ちる。慌てて伏せたクランの後ろに、硬筆が突き立った。

 英雄譚を小馬鹿にされて、よほど腹に据えかねたのだろう。ガタガタと鳴る音に、クランがそっと目を遣ると、キャスロードが椅子を掴んで投げようとしている。マリエルが必死に押し留めていた。

 パルディオが静かなのは、怒りで首を絞められたようになっていたからだ。怒るなら王女にだろう、との言い分も通じそうにない。コルベットは自分の机ごと、さっさと脇に避難していた。


 当然の如く、講義はそこで中断してしまった。

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