幽霊の噂
「やっぱ、何もないわ、これ」
崩れるようにしゃがみ込んで、コルベットは言い捨てた。うんざりした声が水音に混じって木霊する。第四市環の中央を通る用水路に建てられた浄水橋、その地下に二人はいる。
「魔晶石があるかもって、乗り気になってたのはおまえだろう」
床に放り出されたランタンを拾い上げ、マリエルは栓を閉じて壁に掛けた。
「さあ、殿下に報告に行こう」
隙間に外光の漏れる扉を指して言う。立てないと不貞腐れる相方の手を無理やり引いて、マリエルは借り出した鍵符を取り出した。朝から、さんざん歩き回ったものの、結局、手元には何もない。
目的は勿論、魔術師塔で見つけた手掛かりの探索だ。エレインに禁足を命じられたキャスロードに代わっての調査だった。欲に駆られたコルベットには、別の狙いもあったようだが。
いずれにせよ、消えたモルダスが監禁されていた訳でもなく、山のような魔晶石が隠されていた訳でもない。魔術で高効率化された循環機器が黙々と動いているだけだった。
「本当だって、」
浄水橋の外に出て、二人が陽光に目を瞬かせていると、声がした。浄水施設は橋の基部に入口があり、地盤面までは階段を上る。その会話が聞こえたのは上の方、橋の袂だ。
「青白く光って、後ろが透けて、あれは、あれは」
何とはなしに、耳を傾ける。マリエルとコルベットは、思わず顔を見合わせた。
「幽霊だよ、間違いなく」




