清掃
「どうして、俺まで」
硬く絞ったモップを片手に、ラルク・マッカーノは呟いた。見渡せば廊下のそこかしこ、女官の指示に従いながら、大兵が身を縮めて床を擦っている。
「隊長が示しを付けなさい」
通り過ぎるエレインが、にべもなくラルクにそう言った。半分は隊が違う、などと言ったところで、どうせ言い訳にもならないだろう。王女殿下のお願いだからと、調子に乗って走り回った衛士たちが悪い。
エレインが近づくと、マリエルとコルベットが跳ねるように背を伸ばした。慌ててモップを滑らせる。従騎士が殿下を諫めずどうするか、と皆の前でこってり絞られた上に、清掃を課せられている。
まったくもって容赦がない。身分も何も関係がない。エレインはキャスロードにもモップを握らせた。クランと張り合って床拭き競争などしたものだから、余計に掃除の範囲が広くなった。
皆の具合を目で追いながら、エレインは問題の二人に目を遣った。クランがモップの柄を支えに座り込んでいる。背中合わせにキャスロードも同じ格好をしていた。丸めたクランの背に伸し掛かっている。
二人とも眠りこけていた。
「モルダスさまが、あれを呼んだって?」
ラルクに気づいて、エレインは表情を隠した。
「ご存知なかったのですか?」
問うエレインに、小さく肩を竦めて見せる。魔術師の秘密主義には慣れていた。
「さっき聞いたところだ、部屋に書き置きがあったとか」
行方を訊ねられたこともあり、モルダス老がクランを探していたのは知っていた。だが、この役職のためだとは。かつての功労者とはいえ、今の宮廷には、どこの馬の骨とも知れない男だろうに。
「私も詳細は存じませんが」
言葉を切って、エレインは目線を二人に落とした。クランが年齢不詳のせいか、まるで兄妹ようだ。だが、王女殿下の友人としては、決して最良の相手ではない。
「モルダスさまが撤回されるまでは、受け入れるほかありません」
無表情に言うエレインに、ラルクは邪気のない笑顔を向けた。
「また騒がしくなりそうだ」
「いいえ」
少し否定が早かっただろうか。再び表情を隠して、エレインは応えた。
「いいえ、私が許しません」




