81 野良パーティでロロクの遺跡ダンジョンへ
ひたすら難産でした……。
・前回のあらすじ
妹が留守なので一人で野良パーティに参加した主人公。
そこで出会ったのは――
かつて異世界で共に旅をした“ミミア”と瓜二つな女性だった。
――ミミア。
僕たちのパーティにおける治療法師であり、なにかと灰汁の強いメンバーを抑え、僕たちを助け続けてくれた女性。
パーティの支えであり、鎹とも言える女の子。
――いや、十年近くも一緒にいたのだから、もう女の子というよりも立派な女性か。
「あの、え? ええと?」
「……すまん、人違いだ。昔の知り合いと良く似てたものでね」
そのミミアにそっくりな女の子が、そこに居た。もちろん本人であろうはずもない。
彼女は今も異世界“グランスモール”にいる筈なのだから――
「ナンパの常套手段みたいなセリフだよね」
「よしてくれ。本当に見間違えただけなんだ」
剣士の青年が横から茶々を入れてくるが、それを否定する。
「すまなかったね、気を悪くしないでくれ――ええと」
「あの、“ミア”です。お知り合いの方と名前までそっくりだったので私も驚いてしまいました……」
そうか、そこまでニアピンとはね……。
世界には、同じ顔の人が三人いると云われているが、異世界まで混ぜたら、いったい何人が同じ顔をしているのだろう。
異世界と呼ばれるものが、僕の行ったグランスモール以外にも複数あるとすれば、それだけで倍々に増えてしまうな……。
「人も埋まったし、ヒーラーも入ったことだし、もう行かねぇ?」
と、槍・アタッカーさん。
名前はたしかロンギさんだったか。
なんだか唐揚げを連想しそうになる名前だな。
「そうですね。それじゃ行きましょう」
パーティリーダーである、タンクのギムネマさんの言葉を受けて、僕たちは募集部屋を出てロロクダンジョンに向かう運びになった。
◇
ロロクを出てから南東の方角。
森と沼地の間に、アンコール遺跡に似た朽ちかけの建造物が姿を現した。
タ・プロームのように樹木に侵食された石の遺跡は、今にも崩れ落ちそうなほど風化しており、その巨大な樹木の脇を通り抜けて遺跡の内部へと入る。
このロロクダンジョンは、かなりの人気の狩り場スポットという話で、、僕たちだけではなくかなり大勢のプレイヤーが遺跡の周りに集まって来ていた。
荘厳さと時代の重みを見せてたたずむ遺跡が、まるでショッピングモールのように見えるほど、大勢の人間が出入りしている様は、僕の胸に妙な違和感を感じさせた。
とは言っても、僕たちもその違和感要員の一人なのだろうが……。
まぁ、観光地にでも来たと思えばいいか。と開き直り、遺跡の奥へと進む。
「あっ!?」
「おっと」
遺跡に張り巡らされた木の根に、ミアが足を取られた。
僕は咄嗟にミアの手を取って、転倒を防ぐ。
そういや、ミミアもよく転ぶ娘だったな。
まぁ、自分が治療法師だったので、そのぐらいの傷なら簡単に治せていたが……。
「あの、ありがとうございます。あの、えと……」
「あ? ああ、すまん。足元には気を付けるんだよ」
つい、ミアの腕をじっと見つめてしまった。
ミミアの腕には、濁流王ダル・ダージの強酸で付けられた傷痕がある。
――当然、ミアの腕は傷一つない綺麗な肌だった。
「感傷、か」
勇者の時代の姿を模した、このキャラクターの右腕にはダル・ダージから受けた傷痕が“グラフィック”として残っている。
――その傷痕が、少しだけじんわりと熱を持った。
―― …… ―― …… ―― …… ――
「では、ここからがダンジョンですね」
タンクのギムネマを先頭に、僕にとって初めてのロロクダンジョンへの挑戦は、この即席パーティと共に始まった。
ロロクダンジョンはいわゆるローグライクに近い構造のダンジョンだ。
僕は以前、ここの事をローグライクライクと表現した覚えがある。
ローグライクといえば、ひたすらに地下を目指す種類のゲームで、突入するごとにレベルが1に戻ったり、アイテムや装備の持ち込みが制限されたりするものだ。
だがこのロロクダンジョンはそういう制限はない。
ただ、ダンジョンに入るごとに毎回ダンジョンの形が変わるのはローグライクと同じで、規定の地図は作れない。
遺跡の地上に出ている部分の奥に地下への階段があり、そこからダンジョンはスタートする。
そうして、地下へ地下へと目指して進んでいくのだ。
ロロクダンジョンは、石造りの迷宮になっており、四角い通路が続く、いわゆる3Dマップダンジョンのようになっていた。
「ええと、地下三十階が最深だったか……」
「そ、ここの遺跡系ダンジョンは三十階までだよ。三十階でボスが出ておしまい。ラス部屋はレアが出る可能性が高いらしいけど、ま、今回はそこまでは無理かなー」
と、僕の独り言に黒魔道士の☆みかっぱ☆さんが答えてくれた。
――ところで、
「その☆はなんて発音したらいいんですか……?」
「? ただの記号だよ。スルースルー」
あ、そうでしたか。
「たまに(´・ω・`)の人とかもいるけどさ、アレも名前呼ぶ時に困るよなぁ」
と、剣士ケンケンさん。
「だなぁ……」
「あたしは『かおもじさん』って呼んでるわー」
「あの、それって(*^-^*)さんと(´・ω・`)さんが一緒にいたりしたら困りますよね……」
それは『ニコニコさん』と『ショボーンさん』と呼び分けるしかないな。ミアさんよ。
ロロクダンジョンはインスタンスダンジョンなので、他のプレイヤーと鉢合うようなことはなく、序盤は文字通り“気楽に”進めた。
敵も最初の方は、まるで相手にもならないような雑魚ばかりだ。
それにしても、MMOのはずなのにインスタンスが多いゲームだな。
スライムLv1とか、一角ラビットLv1なんて敵を軽く倒しながら、奥へ奥へと進んでいく。
――
この遺跡ダンジョンは地下に進むほど敵が強くなる。
最初はスライムLv1、一角ラビットLV1に始まり、
地下二階はスライムLv3と一角ラビットLv3とレッサーコボルトLv1。
それより下に進んでいけば、スライムLv10にレッサーコボルトLv8。一角ラビットに置き換わり、たぬ太郎Lv5が出て来る――といった感じだ。
ちなみにこのダンジョンでは、その階数が基準になって敵の落とすアイテムが変化する。
ダンジョンの外と同じ名前の敵でも、落とすアイテムは別らしい。
つまり、ここでいくらたぬ太郎を倒したところで、アイダリンの欲しがった【ブルー・ライト・リーフ】は出て来ないわけだ。
余所見をしていても倒せるような雑魚を倒しながら進み、
恙なく地下十階まで進んだ頃に、段々と敵が強くなってきて、流石に鎧袖一触とはいかなくなってきた。
まだ苦戦すると言うほどではないが、新品の鎌で草を刈るような感覚では通用しなくなってきたのだ。
「ヒーラーさん。バフ切れてる」
「え? あの……」
そして地下十二階を進んでいる時、槍士ロンギがミアに声をかけた。
少しイライラした様子に見える。
――今は非戦闘時。
バフなんて必要なのだろうか? と、僕の心には疑問符が浮かんだが、当のミアも僕と変わらない様子で困惑している。
「AGIバフがないと移動速度が遅いし、先にかけておいて貰わないと戦闘に入った直後にバフ待ち挟んじゃうのでお願いします」
「あの、は、はい」
慇懃無礼に命令を下すロンギ。それに萎縮して言葉通りに動くミア。
……この辺りから『なんか変だな』と雰囲気がパーティの間で生まれ始めたと思う。
――
――「魔法使いさん。土属じゃなくて火属でお願いできますか? 燃焼のスリダメ入るんで」
――「タンクさん。もうちょっと殴ってDPS出して下さい。まだここらへんじゃ盾役いらないんで」
――「剣使いさん。スプエジは控えてくれませんか? ノックバック入って追撃入らなくなるんで」
と、段々とパーティメンバーに対するロンギの指摘が増えてきた。
「えーっと、魔法剣士さん? 杖なしで魔法使うぐらいなら、剣スキル使った方が強いと思うんスけど? え? 剣スキル覚えてない? ……そっスか」
ロンギの発言がだんだんと増えて来て、その分、他のメンバーの口数が減ってきていた。
パーティメンバーから笑顔が消え、リーダーであるギムネマは眉尻を下げて困窮した様子を見せる。
「えーっと、ロンギさん?」
「なんスか」
「あー……いえ、なんでもないです」
結局、少し気の弱そうなギムネマは、曖昧に笑うしか出来ずにいるようだ。
……うん、馬鹿でもわかる。これはちょっと良くない空気だ。
「てか、ヒーラーさん。“慈愛の杖”持ってないんスか? あれがあればヒールの回復量が増えるから、今みたいに何回もヒール使う必要ないと思うんスけど?」
「あの、ええと……ここの二十階から出るって聞いたので、それで出たらいいなーって思って、遺跡ダンジョンに来たんです」
「あ、そっスか……」
そう言って言葉を打ち切るロンギ。
――地下16階。
『ああも言われて』という気持ちが皆にあったのだろう。
パーティメンバーの皆はどれだけ早く敵を倒せるかに傾倒しはじめ、その隊列が縦に細長くなってしまっている。
使用するスキルも攻撃力一辺倒になり、その派手さが増している。
「ん?」
みかっぱの炎魔法が猪課長Lv10を襲い、爆炎と爆音を上げる。猪課長の高い鳴き声が迷宮に木霊し、僕の耳を狂わせた。
「何か、羽音の様なものが聞こえなかったか?」
「えー! なんだって?」
聞こえなかった僕の問いを余所に、剣士ケンケンは突進系のスキルで敵陣に突っ込んでゆく。
突進系のスキルを使い、前線を押し上げる前衛。
それに遅れじと前に出る魔法使い。
突進系スキルで基軸が突然に前進することで、咄嗟には追い付いて行けないヒーラー。
そんな状況だった。
「……やっぱり」
やはり聞こえた。羽音だ。
位置はパーティ後方――そこに居るのは当然最後尾のミア。
「ミア! 後ろだ!」
パーティのちょうど真ん中に陣取っていた僕は、最後尾のミアの下へと駆け出す。
これまでに出てきた敵ならば十分に迎撃出来る筈の間合いだった。
――【ドレーン・ドローン】――
それは、今までに見たことのない敵だった。
妙に機械っぽい印象で、金属の光沢を持つ、真っ黒なハチに酷似した敵。
よく耳をすませば、『ブーン、ブーン』という羽音が耳に掛かる。
普通のハチの場合“針の出る箇所”
黒バチは、そこから管のような物が射出した。
――その管は、ミアの背中に向かって真っすぐに迫る。
「避けろ、ミアっ!!」
「あの、え?」
管を斬り払おうとしたが、間に合わない――――
「あっ…………」
――ドスリ――
ミアの背中に突き刺さる黒バチの管。
それが脈動し、ミアの中から“何か”が抜き取られてゆく――
「クソったれがっ!」
遅ればせながら、その管を叩き斬った。
斬れたということは、破壊可能部位だったようだが……、それで吸い取られただろうミアの“何か”が戻ってきたわけではない。
「大丈夫か、ミア!?」
「うっげぇ!! 『ドレドロ』じゃん!」
僕の問いは宙に浮き、ミアに迫ってきたのは、先ほどまで前線にいた槍士のロンギだ。
そうこうしている間に黒バチは迷宮の向こう側へと逃げ消えてしまっていた。
「え? 吸われちゃったの? どのくらい?」
ロンギの剣幕に、ミアは怯えた表情で答える。
「あの、ええと、半分――くらいです」
「ぐっうぇあ! まぁじかぁ……、こんなトコでヒーラーのMP無くなるとかありえねーでしょー……」
どうやら、さっきの黒バチの攻撃はMPを吸い取る類いの攻撃だったらしい。
「あの、すみません……」
「あー、こりゃ20階も行けねーな、せめて20階まで行かないと、まともなレアも出ないのによ」
「……」
「っハァ~~」
そういってロンギは盛大に溜め息を吐いた。
――『ついた』ではなく『はいた』だ。
――
もうパーティの雰囲気は淀み、誰しもの心に澱みを作ってしまっていた。
と、まぁそんな空気の中で、即席のパーティが長続きするはずもなく……
「あ、俺たちちょっとフレに呼ばれたんで行きます」
――と、剣士ケンケンが声を上げるのも当然のことだったのだろう。
「え?」
……みかっぱさんの方は何のことやら分からなそうにしているけど。
彼らはセット参加だったので、みかっぱさんを置いていくわけにはいかないか。
「じゃ、抜けます。ほら、行くぞみかっぱ」
「ちょ、待って――……っと、OK。それじゃ、すみませーん」
――ぴろんっ。
その瞬間、僕のアカウントにメールが届いた。
差出人は☆みかっぱ☆。
――フレンド登録はしていないんだが、それでもメールは送れるのか?
――〔 ケンケン がパーティから脱退しました 〕――
――〔 ☆みかっぱ☆ がパーティから脱退しました 〕――
「あ」
と、メールの内容を確認する前に、二人は転移してしまった。
「あー、じゃ、解散っスね。お疲れさまー」
――〔 ロンギ がパーティから脱退しました 〕――
二人に続いて、言うが早いか、槍士ロンギの姿は早々に消えてしまっていた。
この場に取り残された形となった、僕を含めた残りの三人。
その間に、微妙な雰囲気が流れる。
「あ、それじゃあ解散ってことで……その、なんだかすみませんでした」
パーティリーダーだったタンクのギムネマは申し訳なさそうに何度も頭を下げながら、光の中に消える。
――〔 ギムネマ がパーティから脱退しました 〕――
確かにパーティリーダーだったわけだし、仲間の輪を保ち先導するのが彼の務めだったのだろうが、もう今さら言っても詮無いことだ。
結局、まるで風化した洗濯ばさみのように、パーティはボロボロと瓦解してしまった。
「はぁ」
こんな状況だが、やっと一息つけた気がする。
“気楽”なんて言葉とはまるでかけ離れた時間だった。
ここに残されたの僕とミアの二人きり――
「あの……すみませんでした」
「ん?」
突然ミアに、深々と頭を下げられた。
「あの、私、その、失敗ばかりで……あの槍の人も怒らせちゃって」
「ああ、いや」
どちらかと言うと、僕の方が彼には睨まれていたような気がする。
最終的な起因になったのは、ミアがあのモンスターにMPを吸われたことなんだろうけど。
「あの、私、下調べとか全然してなくって、色々な決まり事とか知らなくて……」
「いや、それは僕もなんだけど」
“誰でも”とか“気楽に”なんて表題に乗っかった結果が、あんなに気の休まらないパーティになるとは思わなかった。
……野良って怖いね。
「ああそうだ。みかっぱさんから君にメールが来ていたよ」
「はい?」
どうやらみかっぱさんからのメールは、ミアに送るはずだったものを間違えて僕に送信してしまっていたらしい。
彼女が抜ける時はかなり慌てていたしね。
「ええと、『まぁこんなのはネトゲにはよくある事。気に病む必要はないし、気にするだけバカバカしいよ』――だってさ」
「そうですか――」
その言葉を聞いて、すこしホッとしたような表情を見せたミア。
――でもコレ、続きがあるんだよね。
この文面があったから、宛先が間違っているって気付いたんだが……。
「あと、『その“ユーシ”って人、たぶんアンタのことを狙ってるから、気を付けた方がいいよ?』――だとさ」
「えっ?」
…………
……
「…………」
「…………」
「ふっ……ふふふっ」
「はは、はははっ」
「あは、あははっ!」
「ハハハ!」
まったく! 誰にメール送っちゃってるんだよ、みかっぱさん!
「あー、可笑しい。もう、みかっぱさんってば」
ま、送信先は失敗はしたけど、大成功だよ。みかっぱさん。
ミアが笑顔になってくれた。
「じゃあ、よろしければレディ。この後、続きをしないか? “気楽に行けるところまで”ね」
かつての仲間によく似た子と、これっきりの縁だというのは余りに勿体ない。
だから僕はそう口にしていた。
……無論、変な下心なんてない。
「え? あの、でも……、私、何も出来ないですよ……」
それがどうした。
「なんでも出来る人の代名詞、『スーパーマン』だって、恋人を守れなかったんだよ」
まぁ、その後には超パワーで無かったことにしちゃってたけどね。
それに――
何も出来ないヤツでも“勇者”ぐらいにはなれるんだぜ?




