80 記憶の中の姿
・前回のあらすじ
妹が遊びにいってしまったので、今日は一人の主人公。
そのせいでそわそわしっぱなしの主人公は、もの寂しさに“brand-new World”へログインする。
――【“brand-new World”へようこそ】――
ロロクの市場にログインした僕は、その足で市場を出て、噴水広場にある転送陣に乗ってファアートへと向かう。
そしてファアートの市場街で、露店巡りをすることにした。
昨日ロロクの市場街で買い物をしたばかりなので、別に他に買うものも無いが、他にやる事も思いつかなかった。
ロロクではなくてファアートの市場街に移ったのは、昨日、ロロクの市場は散々見て回ったのと、ファアートの市場の方が掘り出し物が出る可能性が高いからだ。
「とは言っても、特に欲しいものも無し……か」
拭いきれない倦怠感を誤魔化すために露店を冷やかしていると、とんとんとん、とリズミカルに肩をつつかれた。
「よ、アイダリン」
「え? あ……流石は師匠。振り返らなくても私だってわかるんですね」
ま、知った人の気配ならね。
背後に立っていたのはアイダリン。昨日ぶりだが、何か用でもあるのだろうか?
「あれ? 今日はライムさんはいらっしゃらないんですね?」
「うん、今日はリアルで友達と遊びに行くってさ」
僕たちはいつもセットみたいなものだったからな。
それを聞いたアイダリンは「ありゃ」と、少し残念そうな声を出した。
「そうでしたか、師匠を見つけたのでちょうど良いかと思ったんですが……」
「うん? ライムに何か用か?」
するとアイダリンはストレージから、なにかを取り出す。
銀色に光るそれは、大きめの腕輪のような形をしていた。
【力のバングル】:装飾品
:STR + 5
「昨日、【ブルー・ライト・リーフ】を譲ってもらっちゃったんで、他の方に少しはお返しをしなきゃな、って思って」
ちょっとゴツめの、ネイティブアメリカンバングルだ。
効果はSTRが+5か。
物理攻撃力ではバフ効果は乗らないが、キャラ本体の攻撃力だとバフ効果が乗るので、結構良いものなんじゃないだろうか?
「これは僕にか?」
ライムに渡すには、ちょっとゴツすぎる代物だ。STR上昇という効果も、ライムには必要とは思えない。
「はい、このアイテムを買うために、ちょっと貯金してましたので、みんなに少しは還元できればと――」
そう言って、耳につけた青い葉のイヤリングを、嬉しそうに撫でるアイダリン。
「で、ライムさんにも別のものを用意したんですけど」
「ああ、今度渡してやってくれ。あいつも喜ぶ」
プレゼントの類いを僕が受け取っておくのもなんだしね。
早速、アイダリンから貰ったバングルをつけてみる。
銀色のゴツイ腕輪は、僕の手首に吸い付くように馴染んだ。
うん、なかなか良い感じだ。
ゲームだからか、腕に何かをつけている煩わしさも感じない。
「ありがとうアイダリン」
「いえ、こちらこそです。――セイにはマジックリングを上げたんですけど、「フンッ」とか言っちゃって、全然かわいげがないんですよ?」
ほぉ?
「で、その指輪。セイは左手の薬指につけてたりしなかったかね……?」
「あ、はい。その指につけるものじゃないよーって教えたんですけどね。「どの指につけようと我の勝手だ!」とかナマイキ言ってました。まだよく意味が分かってないんでしょうね」
そういって微笑ましいと笑うアイダリン。
……うん、よく解ってないのは、アイダリン。
お前のほうだと思うぞ?
セイは中学生ぐらいだろ? いくらなんでも左手薬指の指輪の意味ぐらい知っているだろうに……。
――なんというか、我が身のことだと分からないもんなんだな、こういうのって……。
「アイダリン。セイくんの事、よく見てやってくれよ……」
「はい? はい」
僕が何か言えた義理じゃないけどね。
◇
そしてアイダリンは去っていた。
なにやら、今日はセイくんがファアートからロロクに行く為の手伝いをしてやるらしい。
なんだかんだでアイダリンもいいお姉ちゃんをしているようだね。
結局、ファアートの市場街を見て回っても、やはり買うような物もなかったのでログアウトする。
ちょっと早めの昼食を取ることにした。
――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――
「ふう」
VR酔いが治まるまでじっとしているのも、なんだか億劫で、VRギアを付けたままダイニングへ向かう。
ついでなのでミニ妹ズも召喚しておいた。
冷蔵庫の中に入っていた、豚のすき煮の入ったタッパーを電子レンジで温め、ドンブリに盛った米の上からそれをかける。
豚のすき焼き風丼だ。
テーブルの上できゃいのきゃいのとはしゃぐ妹ズの前に腰掛け、その丼物をいただく。
僕が昼食を取っている様子を、妹ズがじぃっと見つめてきたので、あーん、と食べさせる真似をしてみた。
まぁミニ妹は立体映像だから実際には食べられないけどね。
嬉しそうに口をもごもごさせる妹ズ。
よく噛んで食えよ。それを作ったのはおまえたちのオリジナルだ。
僕もその料理を口に運ぶ。
美味い。確かに美味いんだが……、未来にしては珍しいことに、少し味付けを間違えたのだろうか? なんだか一味足りない気がした。
電子レンジで加熱したので、風味が飛んでしまったのかもしれないな――なんてことを考えながら、もそもそと昼食を終えた。
――【“brand-new World”へようこそ】――
昼食を終えてやることも無くなったので、僕は早々に“brand-new World”にログインした。
今日は“野良”に挑戦してみるつもりだ。
――“野良”とは、基本的に、知り合い同士で組むパーティではなく、『一緒にパーティを組んで○○をしませんか?』という募集をしている人と、一時的なパーティを組むことを言う。
だいたいは、普段一緒にいる固定メンバーと時間が合わなかったり、そもそも固定メンバーを持っていない“野良専門”と呼ばれる人が、この野良募集を利用するのだ。
そこで知り合った、気の合う人とフレンドになったりすることもあるが、残念ながらそういった事はあまり多くはない。
その場でパーティを解散して、フレンド登録もしないのがだいたいだ。
そう考えると、クラスメイトなどの狭いコミュニティに人を押し込んで、その中で友人を作らせるという方針は、あながち間違っていないのかもしれない。
選択肢が広すぎても、人は何かを選ぶのが難しいものなのだ。
……いやまぁ、学校でぼっちの僕が言っても説得力はないんだけど。
――
とりあえずロロクに飛び、ロロクの冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドが野良募集の場になっているらしい。
武骨な石造りのギルドの中に入ると、そこには多くのプレイヤーが中をたむろしていた。
向かって右側奥がギルドの受付。
こちらはクエストの受注やその他もろもろの機能を使うための受付だ。
左手奥には掲示板が立っており、そちらの方が人が多い。
どうやら、こちらがパーティ募集の掲示板のようだ。
少し前まではギルド内部は不思議空間に直通だったので、冒険者ギルドの外が野良募集の場になっていたそうだが、前のメンテでギルド内部に野良募集の掲示板が置かれるようになった。
もちろんネットで言う掲示板ではなく、まさしく文字通りの掲示板だ。
掲示板の前には人だかりが出来ていたが、掲示板の近くに行くだけで専用のメニューウインドウが開いた。
そちらにメンバーを募集している人の一覧とその詳細が出たので、別に掲示板本体を見る必要はないようだ。
掲示板の前を離れ、近くにあった椅子に座る。
「ふむ……」
妹さんの話によると、“まったり”だとか、“誰でも”などと謳っているパーティを選んだ方がいいとか。
逆に細かく職種を限定しているものや、効率を謳っているものは避けるべきだとも言っていた。
まぁ、当然だろうと思う。昨日の上級者のポイントを見ておきながら、効率云々の場所に入れる気がしない……。
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〔☆気楽に☆ロロクダンジョン☆誰でも☆〕
:とりあえず行けるところまで。メンバーが埋まるか、五人以上集まった場合13:00から出発します。
現在人数:4
★ギムネマ “タンク”
ケンケン “剣士”
☆みかっぱ☆ “黒魔道士”
ロンギ “槍・アタッカー”
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そして一つの募集項目に目が止まる。
――うん、この辺りがちょうど良いかな?
早速そのパーティ募集をタップすると、確認表示の〔Yes〕をタップする。
その瞬間に、ふっと景色が変わり、どこか知らない部屋の中に転移させられていた。
「あ、どうもー、いらっしゃいませー」
真っ先に声をかけてきたのは、どうやらこの募集主でパーティリーダーのタンクさんらしい。
盾を持った鎧姿で、歩くたびにガシャガシャと金属音を立てている。
「よろー」
「よろしくー」
次に声をかけてきたのは、剣士さんと黒魔道士さん。
黒魔道士さんの方は女性だ。
二人はテーブルに向かい合い、部屋の備え付けであろうミニゲームに没頭していた。
あれは将棋――いや、軍人将棋だろうか?
だいぶ渋いものをやってるな……そんなの僕はルールも知らないぞ……。
「あれ? ヒーラーじゃないの?」
と、最後に声をかけてきたのは槍・アタッカーの人。
彼はウインドウをなにやらをずっと見ていた。
「ああ、はい。基本は剣で戦って、少し魔法も使います」
「……ふーん」
と、彼は興味なさそうにウインドウを操作する作業に戻ってしまった。
なんだろう? 彼にはあんまり歓迎されていないような……。
それとも人見知りなだけだろうか?
失礼をしたのなら謝りたいが、そもそも野良は全然してこなかったので、なにか気に障ることがあったのかどうかも僕には分からない。
と、考えを巡らせていると、部屋の中に新たに人型の光が生まれる。
人型の光はすぐに輪郭を整え、色が着き、それは人型から紛ごうことのない人間へと変わっていった。
そこに現れたのは、杖を持った白色の法衣を纏った女性。
「あの、あまり上手ではないヒーラーですが、よろしいでしょうか?」
彼女の姿を見た瞬間、僕は目を疑う――
灰茶色の髪。
琥珀色の瞳。
長い睫毛に、くっきりとした二重まぶた。
色は濃く、薄い唇。
「あ、え……?」
いくら目を擦っても、その姿は変わりなくそこに在った。
それは、“昔”と呼ぶにはまだ近しい日々に、毎日顔を合わせ、共に過ごしていた彼女そのものの姿で――――
「…………ミミア?」
僕は思わず、その名を口に出してしまっていた――――




