74 迫り来る敵
――ワァァァアアァァ――
――――ワァァァアアァァ――
さざ波のような歓声とともに、東門の前に集ったプレイヤーたちが、我先に、と門の出口へと押し寄せる。
その様子はさながら、元旦の福袋商戦か、ゲームの新機種発売日の秋葉原といったところだろうか?
最近の記憶では、VRの新機種の発売日にテレビ越しに見た光景がこれに似た状況だったような気がする……。
――と、その最前列が門の外に出ようとした瞬間。
ズ……ズゥン
と、ちょっとした地揺れと共に、閃光が瞬いた。
方向は北門のほう。
……一体、北門にはどんなモンスターが現れたというのだろう?
北門に向かったプレイヤーは大丈夫なのだろうか?
「ライム……あれは――」
「あー、さっそく暴れてるね。ガチ勢が」
……んん?
「モンスターではなく?」
「モンスターではなく」
……どうやら、今も連続して起きている揺れと光は、敵モンスターによるものではなく、味方であるプレイヤーによるものらしい。
「確かににーちゃは強い。プレイヤースキルも凄い。――でも、あいつらはそんなんじゃあない」
ライムの硬い声に、僕の喉が無意識の内にゴクリと音を立てていた。
「にーちゃが剣士としていくら強くても、あいつらは銃を持っている。それに対抗して、にーちゃが銃を手に入れたとしても、あいつらはその時にはマシンガンを持ってくる。――にーちゃが銃の扱いに慣れようと四苦八苦している頃に、あいつらは戦車を。にーちゃがアサルトライフルを手に入れた頃には、あいつらは爆撃機と空母を手に入れている」
……な、なんと。
「あいつらに張り合おうとなんて考えちゃダメ。こっちが10分でクリアしているクエストを、あいつらは3分で三周まわして、それで手に入れたお金と素材で、次は2分で五回こなすようになる。――そして集まった素材を売り払って、今度はもっと良い狩り場に向かう」
すごいなガチ勢……。
北で暴れているのは、敵のモンスターではなく、味方のモンスターだったのか……。
「だから北門は選ばなかった。わたしたちが戦う前に、敵が『蒸発』しちゃう」
「なるほどな……」
今だテカテカと光る北の空を見て、眩しさに目を細めた。
――腹に響く轟音。わずかに揺れる大地。そして幾度も瞬く閃光。
「まるで、花火大会だな……」
――――“神”よ。
僕なんかじゃなく、あいつらを異世界に召喚したほうが良かったんじゃないか……?
―― …… ―― …… ―― …… ――
まぁ、そんな過ぎたことを言っても仕方ない。
僕たちは僕たちとして、今はゲームを楽しめばいいだけだ。
東門の前の人だかりが幾分ゆるやかになったのを見計らって、僕たちも街の外に出た。
門の外の平原では、すでにいくつものパーティが戦闘を始め、場は錯雑していた。
「にーちゃ、横殴りには気を付けて。そんなことで他のプレイヤーと争いになるのはバカバカしい」
「了解」
「セイもよ。分かってる?」
「ふっ……愚問だな。我が手を出す必要もない。奴らは奴らで勝手に戦うだろう」
それはいいがセイ。
君は何かを喋るごとに、顔の前に手をかざさないといけないのかな? 正直疲れない?
「よし、それじゃ敵を探そうか」
ここに居てもまともに戦うことは不可能だろう。
プレイヤーと、それと戦闘中のモンスターの合間を掻き分けて、東門とは逆の方向に進んでゆく。
どうやら、そちらの方向に進めば進むほど敵が多くなっていくようだ。
――
「この辺りでいいかな?」
周囲のプレイヤーはいい感じにバラけている程度の場所まで進んだ。
少し離れた場所で他のパーティが戦闘しているが、この辺りであればお互いの戦闘範囲に入ってしまうこともあるまい。
「クククッ……。良いだろう。我の能力の、ほんの一部――キサマらに見せてやる」
ファーストアタックはセイが飾る気らしい。
わらわらと湧いたたぬ太郎に向け、マジックダガーをかざすセイ。
その間にライムは補助魔法を、僕はプロボークステップを発動させておく。
「其は爆炎。其は蔓延。赫き焔にて、全ての敵を屠る劫火成り。死は等しく彼を覆い、死は不条理に彼を連れ去らん――“炎界の戒淵”!」
だから詠唱が長いって!
詠唱の長さはともかくとして……
セイの魔法が先陣を切り、モンスターの群れの中に火球が投げ込まれる。
――爆発。
この魔法も見たことがある。以前にアイダリンが使っていた【ファイアボム】といっただろうか? その魔法と同じものだ。
もしかして、セイは習得している魔法全てに別の発動キーワードをつけているのだろうか……?
『ファイアボム!!』
もう一度、今度はアイダリンから放たれた魔法が敵の集団を吹き飛ばす。
どうやら、セイの使った魔法も【ファイヤボム】で、間違いなさそうだ。
……で、なんでそのファイアボムで、あんな大仰な詠唱が必要なんだろうな?
「にーちゃ、それは触れずにいるのがやさしさというもの」
「お、おう?」
まぁいいや、魔法使い諸君はそうして遠間から大まかに敵を殲滅していてくれたまへ。
「残りが来たな……ライム、あまりここから動くなよ?」
「はいはーい」
魔法使い姉弟の討ち漏らしが、僕たちに接近する。
見たところ、敵のほとんどは小型のモンスターだ。
多くの敵はファアート周辺のダンジョンで出てきた敵ばかりで、その中に少数ではあるがアンクレッドディアーや猪課長、オオリクガメなどの大型のモンスターも混じっている。
「っ疾!」
ライムを背に、僕はモンスターに襲い掛かる。
たぬ太郎にモグモグ男爵、レッサーコボルトにリトルビッツウルフ。クレセントベアーにエテモンキーと、ファアート周辺のモンスターのそろいぶみだ。
スライムなどのフィールドエリアに出る最弱モンスターは、おそらく初心者用の西門のほうに出張っているのだろう。こちらには姿が見えなかった。
次々と襲い掛かってくる敵を、バスタードソードとなった、新しい芋剣で斬り伏せてゆく――
……ちくしょう。
少し長くなったせいで、確かに重くはなってしまったが、やはり長年使い続けていたタイプの剣なだけあって、以前よりも格段に使いやすい……。
片手剣だった頃に比べて、攻撃力も幾分か高くなっているようだ。
無理にクリティカルを狙わなくても、小型のモンスターなら十分に倒せる。
「にーちゃ、新しい剣の調子はどう?」
「使いやすいよっ! ちくしょーっ!!」
新しい芋剣は、ずんばらりと簡単に敵を斬って倒せた。
いや、たしかに剣は斬れる事が一番だと思うよ? 自分自身、武器なんてものは質実剛健だとか言った覚えもある。
しかし――しかしだ。
別に、芋剣じゃなくても良くない? ねぇ。
「“炎界の戒淵”!!」
あ、詠唱やめたんだね? セイくん。
ドゴンドゴンと敵陣の中で魔法が弾け、敵は大まかに数を減らしてゆく。
その後穴あきとなった群れの、残りの敵を僕が仕留めて回る。
――それを繰り返してしばらく、景気よくポンポンと敵の群れを倒していた魔術師二人の魔法が、息切れでもするかのように絶え絶えになった。
「くっ……魔力が足りぬ……先日の“世界の歪み”との戦争で失った魔力が、まだ回復しきってないと言うのか……?」
「師匠、私の魔力もそろそろ無くなりそうですっ!」
まぁ、あんなふうにどっかんどっかんと範囲魔法を使い続けていれば、そりゃ魔力も切れるよな。
それとセイ。おまえはいったい何と戦っているんだ?
「ライム」
「はいさ」
「しばらく、二人のところにまで下がっていてくれるか?」
「おけ、がんばってにーちゃ」
さて、この敵の群れに対して、僕一人でどこまでやれるか……
試してみようじゃないか。




