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73 突発! 防衛クエスト

「っと、セイくん。立てるかい?」


「……」


 セイの腕を掴んで立たせる。

 とりあえず、彼との勝負もこれで終わりだ。



「それで、セイくん――」

「悪かったよ……」


 ボソリと呟かれた言葉。


「ストーカーって、アンタじゃないんだろ? リン姉が泣いてたから、ついカッとなっちまった。勘違いして悪かったよ」


「……いいさ」


 あの、アイダリンが妙な勘違いをした時の話か……

 どうしようもないことが原因になったもんだな。


「セイっ! もっとちゃんと謝りなさい!」


「アイダリン、いいんだよ」


 ぷいとむくれながらの謝罪。微笑ましくていいじゃないか。

 何よりも自分自身の意思で謝ったんだ。それが一番大きい。


「無理やりに頭を下げさせられるより、ずっと真摯な謝罪だよ。少しぐらい素直になれない口調ぐらい、仕方ないことさ」


 ――それこそオトコのコだもん、ね。



「……ちっ」


 バツが悪そうに顔を背けるセイ。

 うん、かわいいかわいい。



「師匠がそう言うんならいいんですけど……」


「アイダリン。アレ(・・)の件はちゃんとセイくんに話してなかったのか?」


「あ、はい……。申し訳ありません師匠。あの話は、何かの時にポロっと言ったような覚えもあるんですが、それをこの子が覚えていたと思ってなくて……」


 なるほど、ちょっとした行き違いか。


「なんかすみません……。さっきこの子が勘違いしちゃったのも、私が原因みたいですし……」

「ま……過ぎたことは仕方ないさ」


 だけど、これに懲りたら無暗矢鱈に暴走する癖はなんとか抑えてくれよ……?



「それはそうとアイダリン。やっぱりその子はアイダリンの弟? さっきから『リン姉』って言ってる」


 ウチの妹さんの疑問。


 そうだよな? アイダリンに弟が――ついでに言うならその弟が“brand-new World”をプレイしているなんて、今までに聞いた覚えがない。


「あ、はい。リアル弟なんです。なんか最近始めたみたいなんですよ。……ゲーム内で会っても、“リン姉”って呼ぶなって言ってあったんですけどね」


 そう言って恨みがましくセイを睨みつけるアイダリン。


 まぁ、それは……慣れない内は仕方ないんじゃないかな?

 僕も気を抜くと、今だに『ライム』ではなく『未来』って呼びそうになるしね。




 ――いやしかし、そうなると、だ……。


「な、なぁ、アイダリン。アイダリンは『兄妹もの』にやたらと執着していたよな……?」


 アイダリンとセイは兄妹ではないが姉弟。『きょうだい』であることには変わらないということ。


――つまり……?



 と、僕が疑問を口に出し切る前に、アイダリンは「ハッ」っと鼻で(わら)った。



「ないわー」



「リ、リン姉ぇ……」


 パタパタと手を振って否定するアイダリンにショックを受けているセイ。



 ……どうやら、お姉ちゃんが大好きでしょうがないのは、セイの方だけらしい。


 ――あ~、なんだ。

 僕が言うのもなんだが、ガンバレ?



「にーちゃは早く、自分が恵まれていることを自覚したほうがいい」


 おっしゃる通りです……。

 自覚していないわけじゃないんだけどね。


 “すまんな、未来”


 ――と、そう謝ることもできない自分が、とても情けなかった。








 ―― …… ―― …… ―― …… ――







「よし、まぁ丸く収まったことだし、とりあえず――」



 ――『ン、ヴィイイーーッ! ヴィイイーーッ! ヴィイイーー!』


 町中に、突如鳴り響くアラート音。

 僕たちのPVPを見物していたであろう、周囲のプレイヤーがにわかに騒めき始める。





 ――――【緊急クエスト発生!】――――


・[クエスト内容]

 モンスターの大群がファアートの街に攻め込んで来ました!

 これを撃破してください!


・[説明]

 モンスターは“北の門”、“東の門”、“西の門”にそれぞれ分かれて出現します。

 そのいずれかを選んで、防衛に参加してください。

 1時間モンスターの襲撃を食い止めればクエストクリアとなります。


 ※一度選択したエリアを途中変更することは不可能です。



【北の門】:上級者向け。


 大型のモンスターが多く、敵数が多い。

 こちらは腕に自信のあるプレイヤーが参加してください。



【東の門】:中級者向け。


 上級者向けと初心者向けの中間の、ごく一般的な内容になっています。



【西の門】:初心者向け。


 大型のモンスターは出現せず、一人のプレイヤーに襲い掛かる敵の数は最大一体のみとなります。

 プレイを始めて間もない初心者の方はこちらを選択してください。



 ※こちらのクエストイベントは、現在“華の街ファアート”周辺にログインしている方のみのイベントになっております。


 ただいまより30分後からスタートいたします。

 このクエストイベントに参加せずに街の外に出たい方は、南の門をご利用頂けるよう、お願い致します。





――

「な。なんだこりゃ?」

「突発の防衛クエストだね、にーちゃ」


 どうやらこのゲームでは、時々こういったイベントが行われているらしい。

 街が攻められた――となっているが、防衛に失敗したらこの街が破壊されてしまったりするのだろうか?


「というか、敵が湧きまくって経験値が美味しいから、みんな参加する。だから街までモンスターが近づいたことがないから、よくわかんないよ。にーちゃ」


 起きた事のない事案は分からない――か。

 当然と言えば当然の話だな。


「とりあえずマイテたちと連絡は取ったけど、今はロロクだって。参加できないね」


 確かファアート近くのプレイヤーしか参加できないんだっけか?

 今から来てもクエストを受注できないようになってるんだろうな。


「とにかく準備しよ、にーちゃ」

「ああ、そうだな。了解」


 わたわたわさわさと人が蠢く街の中を、僕たちは進んでいった。







 ―― …… ―― …… ―― …… ――






 道具屋で少々のポーションを購入。準備といってもそれぐらいだ。


 とはいっても他の人には他の人の準備がある。


 準備の為に散り散りになった僕たちは、この間僕がクエストを受けたパン屋の前を集合場所にして決めて集まった。

 僕たちと同じくして、クエストの準備に取り掛かっている他のプレイヤーに埋もれてしまわないようにだ。



「じゃ、とりあえずここの人でパーティを組もう。みんな異論はない?」


「了解」

「はい、お願いします」

「ふんっ……良かろう。我が深淵の力、キサマらに貸してやる」



 と、まぁ特に、アイダリンもその弟さんも、他の人と組む予定はないようだ。


「じゃ、【東の門】でいい?」


 うん?


「かまわないが、ライムなら上級者向けの【北の門】を選ぶかと思っていたんだが……」


 いつも割と無茶なことばかりをしたがる(やらせたがる?)妹さんにしては珍しい。


「あー、うん。北の門だと、だぶん何もできなくて(・・・・・・・)終わっちゃうと思うよ、にーちゃ」



 ……?

 なんだかわからないが、ライムがそう言うなら東の門の方がいいのだろう。


 僕たちはパーティを組み、そして中級者用の東の門へと向かうことになった。



「では、東門へごー」






 ―― …… ―― …… ―― …… ――






 そして辿り着いた東門の前には、「どこにこんなに潜んでいたんだ?」と(いぶか)しむほどに大勢のプレイヤーがひしめき合っていた。


 なるべく前の方に行こうとする人が押し合いへし合い、そうでない人も門の扉が開くのを、今か今かと待ち望んでいる。


 かなりの人だかりだが、妹さま曰く「たぶん、東門が一番混んでいるかも?」とのこと。


 まぁ最初の街とはいえ、もう真っ新(まっさら)な新規プレイヤーよりは中級者ぐらいのプレイヤーが多いだろう。

 それにあのライムでさえ二の足を踏む上級者の道に届く人も少ないのではないだろうか?


 まぁ、往々にして中級者というものは世に多く存在するものである。

 初心者は慣れた頃にいずれ中級者となり、中級者が今の上級者と同じレベルになっても、上級者はすでに次のレベルまで上がってしまっている。

 一握りの人が上級者として存在し、その他のほとんどが中級者として存在することになる。

 中級者というものは、幅がおそろしく広いものなのである。



「ラッキーでしたね師匠。このクエスト、経験値ががっぽがっぽらしいですよ? セイも良かったね。まだロロクに行けてないんでしょ? たしか」


「ふんっ……我が封印された能力(チカラ)を解き放てば、例え魔王と呼ばれるものでも、その程度の木っ端、刹那の刻も無く消し去る事が出来よう……。ただしその時は、この大陸も巻き添えに吹き飛ぶだろうがな。――まったく、我のチカラに耐えきることも出来ぬこの脆弱な現し身(アバター)には呆れたものだ」


 なんかよく分からんが、すごい自信だ。


 魔王を刹那でかぁ……。羨ましいな。

 そんな力が僕にあったら、あんな苦労もなかったんだろうな……


「にーちゃ、にーちゃ」

「ん……?」

「中二的な発言を真に受けてゲンナリしてもいいことなんてないよ」

「……それもそうだ」


 ま、セイくんの言う魔王は、僕の戦った魔王とはまったく別の存在だと思おう。


「それよりもにーちゃ、そろそろ始まるよ」


 古代コンクリートのような物で作られた門。

 その扉の中央に描かれていた薔薇のマークが真っ二つに分かれる。




 今まで閉じられていた巨大な門が、今、ゆっくりと開かれようとしていた――。 

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