四冊目
小冊子小説 音読解読 四冊目 です。
鉄格子の外から渡部姉妹が桜子に向かって笑みを浮かべていた。
「職人の末裔が本を使用して混乱を招いた場合のみに現れる、女泥棒。こうも簡単に捕まってくれると拍子抜けしちゃう」
手を叩きながらユミコが笑う。
「あたしもある双子の家庭事情を知っているけどね。職人の技術を現代でも受け継ぐ稀な一族。双子は本の力に魅了され一族の禁を破り、自ら作った本で遊び放題。目に余った一族の長である父親は双子を追放。親不孝な双子が居たものね?」
空間内に鉄を叩く音が響く。ユミコが拳で鉄格子を叩いたのだ。
「黙れ」
「別にあなた達、姉妹の事を言っているんじゃないの。あら、そういえば二人とも顔がそっくり。二人は姉妹で双子なの? 偶然ってあるものね」
「黙れ!」
激高したユミコが叫ぶと、囲っていた鉄格子が急激な速度で幅を狭めていく。
「やめなさい、ユミコ」と、ヨウコがユミコの肩を触れる。
ユミコはヨウコにそっぽを向いて自身を落ち着かさた。
「石田さんもご自分の立場を理解されたほうがいいですよ」
「立場はあたしと同じだろ。職人の末裔を見つけては、原本と複製本を盗んでいたんだからさ」
「そう、だから私たちはあなたの存在を知った。罪を犯した末裔たちから本を盗むのは正義の味方気取りですか? 虫唾が走ります。しかし、あなたのくだらない正義感のおかげで、私達はあなたを捕らえることができた。上出来ですよ」
「あんたらの思惑通りなわけだ」
桜子は舌打ちをして空を仰いだ。
「桜子。お前、原本を盗んだら処分するんじゃなかったのか?」
「泥棒の言うことを真に受けるバカがいるんだな」とユミコ。
「うるさい。脳筋バカ。処分はするよ。あたしにも事情があるんだ」
「私たちからすると、あなたの事情がなんであれ、原本と複製本が存在しているのなら、あなたから原本の在り処を聞くまでです」
「教えてあげてもいいけど、あたしがいなければ、原本のある場所には入ることすらできないよ」
「それなら、一緒に来てもらう。隣にいる男はここで待っていてもらうけれど」
ユミコが鉄格子を叩きながら言う。
この空間の中に取り残される、桜子の人質ということを意味していた。
「俺に構うことはないと思うけどな」
本心だった。優太は自分勝手に桜子と共に行動しただけ。ユミコから義理人情を与えられるような人間でないと自負している。切り捨ててしまえばいいはずなのに、桜子の表情は固かった。
「別にこっちの男でも構わないけどね」
ユミコが佐藤の首に足をかける。軽そうなユミコの体でも体重をかければ簡単に折れるだろう。
「わかった。一緒に行く。だから、そいつも、彼にも手を出さないでくれ」
「偽善者って大変ね」
クスクスと笑うヨウコの笑い方が癪に障る。
「騒ぎを起こすのはいつものことだけど、人が死なれるのは困る」
手榴弾を投げておいて、その言い草はないだろうと優太はひっそりと思う。それでも、人を傷つけることはしないという気持ちは本物だとわかる。
優太は隠し持っていた複製本を桜子に手渡す間際に、これから言うことを表情に出すなよと釘を刺して耳元で囁く。
「鉄格子が解けたら、ユミコを取り押さえろ」と。
「どうするの」
桜子は渡部姉妹を見つめたまま質問をしたが優太は答えない。
鉄格子越しに渡部姉妹の前に立った桜子。
「この鉄格子が消えないと、出られないんだけど?」
「先に複製本を渡してくれなければ、私たちと信頼関係は築けませんよ。それに偽物を渡される可能性だってありますからね」
手にしていた複製本を渡部姉妹に掲げてから、ヨウコに向けて投げた。
「この際だから、教えてやる。あたしは本を盗むけど使うことはないんだ」
「だから逃げている時もあなたは絵を読まなかったのね。盗品を集めることだけが目的というわけ?」
「さぁ、どうだろうね」
ヨウコは複製本を開いてざっと目を通した。問題ないことを確認してユミコに鉄格子を開けるように指示を出した。
ユミコが片手で持っていた本が音を立てて閉じると、鉄格子が消えた。
「さぁ、行きましょう」と自分に差し出してきたヨウコの手を振り払った桜子はユミコを取り押さえる。
優太はポケットから織り込んだ紙切れを取り出し開いて、描かれている絵を読んだ。
『梟』と。
紙から飛び出した梟は徐々に巨大化し大きく拡げた翼で渡部ヨウコをなぎ払う。巨大な爪に驚いたユミコが逃げようとして走りだすが、梟の体当たりにより数メートル吹き飛んで動かなくなった。
使命を果たした梟は紙の中に戻った。
「職人は一枚一枚作って、それをまとめて本にしたっていうからさ、もしかしたら一枚だけでもいけるかなーと試したんだ」
「もし出てこなかったらとか考えないわけ?」
「ピンチの時は考えたって無駄だ。直感がすべて正しい」
「呆れた男ね」
「褒めるなよ」
「褒めてない」
意識を失った渡部姉妹を放置して、空間から出ようとしたが佐藤が叫びながら立ち上がる。
なにを叫んでいるのかも聞き取れない。目の前にいる男は狂気そのものだった。
桜子の前に優太が立ち、無闇に突っ込んできた佐藤を掴んでそのまま投げ飛ばした。
大の字に佐藤もまた、渡部姉妹同様に意識を失っていた。
「傷めつけてくれたお礼だ、馬鹿野郎」
庵のある空間からでると、日は完全に昇り切っていた。
「いい天気だな、おい」
「ねぇ、さっきの梟、もう一度、出してくれる」
優太は梟の絵が書かれた紙切れを取り出して拡げた。
「これからどうするんだ?」
「渡部姉妹が盗んだ佐藤家の原本を盗みに行くんだけど、どうする?」
「面白そうだな。付き合うぜ。嫌と言っても無理やり付き合ってやる」
「あたしはそういうとこ、けっこう好きかも」
優太は梟の絵を読む。
太陽の方角に巨大な梟が飛んでいる。その背には優太と桜子が乗っていた。
〈了〉
「 」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
小冊子小説 音読解読 四冊目は如何でしたでしょうか。
明日は最終章を投稿します。
物語の終わりが見えてきました。
最後までお付き合いしてもらえると幸いです。
よろしくお願いいたします。




