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科白空白  作者: アサクラ サトシ
第二章 黒豹の小冊子
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黒豹の小冊子 その六

黒豹の小冊子 その六です。

 店を前にして僕ら四人は横並びになった。

「二人はお店の中に入ってなよ。あたしと加藤はここで、邪魔が入らないように見張っているから」

 中村さんが加藤の肩に手を置いた。

「俺だって腹は減っているんだ。見張りをするならお前一人でいいだろう」

「双子の邪魔をするのがあんたの役目なんでしょう? 悠長にハンバーガー食べてても言い訳?」

 分かったよと加藤が頷く。そして財布から二千円を取り出して僕に手渡した。

「この店、テイクアウトも出来るはずだから適当に選んでくれ」

「美味そうなのを選んでおくよ」

 僕は加藤に答えながら受け取ったお札を財布に収めた。加藤と中村さんを残して、僕らはヴィレッジ・ヴァンガード・ダイナーへ入店した。

 店内の内装はアメリカの田舎にありそうなレストランという趣があった。木製のカウンターに同じく木で出来たテーブルと椅子。店員だけが黒髪の黄色人種だ。店内に飾られている小物が七十年代のアメリカンな雰囲気を醸し出している。

 僕らは窓際のテーブル席に案内されて席に付いた。軽く食事でもしようにも、この店で出されるハンバーガーはどれもボリュームたっぷりなので、いま食べてしまうと胃がもたれてしまう。僕はコーヒーとフィッシュ&チップスを注文。加藤用にチーズフォンデュバーガーをテイクアウトにした。桜子ちゃんはというと、いまだ十代だと言わんばかりに、チーズバーガーとオニオンリングとオレンジジュースを注文した。いくら若いとはいっても食べ過ぎではないかと心配になる。

「テイクアウトの品はお帰り際でよろしいですか」

 丁寧に店員が質問してきたので、一緒に作ってしまって構わないとだけ答えた。ドリンクだけは、先に出してほしいとだけ伝える。

 店員が下がるのを見計らって二冊目の小冊子を取り出してテーブルの中央へと置いた。

「ここで、ひとつ確かめたいことがあるんだけど」

 僕は桜子ちゃんの前に小冊子を移動させた。

「さっき公園でも言ったけれど、自分の出した答えは半信半疑なんだ。本当にこの小冊子には不思議な力が作用して、僕以外読むことが出来ないのか確かめてほしい」

 桜子ちゃんは目の前に置かれた小冊子をまじまじと見つめるだけで触れようともしない。彼女の目が僕に読んでもいいのかと訴えかけた。僕はどうぞという感じで右手の手の平を見せた。

 恐る恐る小冊子に手を伸ばした桜子ちゃんは、小冊子を開こうとした。が、表紙を捲ろうとしても指が弾かれてしまう。それは何度やっても同じで、わざと開こうとしないようにしか見えなかった。

「本当に開けないの?」

 僕の問いにムキになった桜子ちゃんは口をへの字にして、両手を使って力いっぱい小冊子を開こうとしたが、接着剤で密着しているかのように開くことが出来なかった。

「いけんわ。これ無理」

 桜子ちゃんは匙ではなく小冊子を僕に向けて投げた。

 僕はテーブルに置かれた小冊子に手を伸ばして表紙を摘む。桜子ちゃんが何度やってもめくれなかった表紙がいとも簡単に捲れた。

「いったい、どういう仕組みなんだ」

「ほんにな。不思議だわ」

 僕も桜子ちゃんもめくれ上がった小冊子に驚いた。

 中村さんの話を聞く限りでは魔法ではない別の技術がこの小冊子には施されている。しかし、その技術は僕らには分からない。こういう現実があるのだと、本当に受け入れるしかないようだ。

「はや読んでみーさ」

 そう出雲弁で促されて小冊子を読み始めることにした。

 読んでいる最中。僕らが注文したコーヒーとジンジャエールが並べられた。テーブルにドリンクを置いた店員が「ドリンク以外、ラストオーダーになります。追加のご注文はございますか」と口添えしてきたが、大丈夫ですと答えて小冊子の文字列に目を落とす。

 小冊子を読みながらコーヒーに口をつけた。ありきたりなアメリカンコーヒーではあったけれど、香りは良かった。

二冊目の小冊子を読み終えても残りの注文品はテーブルに並べられなかった。二冊目のベージ数は一冊目と変わらない長さだった。

 二冊目の冒頭は一冊目の続きとなっていた。狼の背に乗って逃げている二人。自分よりも巨大な狼の背に乗せられていることで混乱している優太に対して、桜子は本に書かれた絵を読むことで動物を呼び出せると話した。桜子は更に詳しい説明をする。動物を呼び出す本は大昔に作られた不思議な本だという。この本を作り出す人間のことを職人と呼んでいたらしい。そして元の持ち主である佐藤と渡部姉妹はその職人の祖先だという。

 このまま逃げきれるかと思ったが、上空から巨大な二羽の鳥が現れる。鷹の背中に佐藤、鷲には渡部姉妹が乗っていた。追ってから逃げようとする優太たちだが、運悪くそしてタイミングも悪く二人が乗っていた狼が消えてしまう。

 すぐに新しい動物を呼びだそうとしても出てこない。桜子曰く、動物が消えてしまった理由は優太の精神力が尽きたせいらしい。本が使えないとわかると、二人は車を盗んで逃走する。しかし追手は上空からだ。盗んだ車など簡単に目測され二羽の巨鳥に襲われて車は大破してしまう。

 車から這い出ると二羽の鳥と佐藤、渡部姉妹が待ち構えていた。

 桜子は隠し持っていた手榴弾を投げつけて逃げ出す。どうやら爆発の影響で佐藤たちは動物を出せない様子だった。

 精神力も平常に戻った優太は夜に紛れる動物として黒豹を呼び出して背に乗った。家々を飛び越えて、体を休める場所としてビジネスホテルを選びチェックインした。

本編の内容はここまでで、次のページには三冊目の隠し場所が記されていた。


「二人が休んだ部屋は三○一。

部屋に目的の本はない。

流せば自動で水が貯まる白い陶器の樽の中にそれはある。

蓋を開ける時は二人で開けることが条件である。」


 一冊目と比べると安易な文章だった。水が自動で溜まって、白い陶器といえばトイレの貯水タンクしかない。映画などでは定番の隠し場所だ。たまにはホテルに宿泊するのも悪くないかもしれない。自宅の風呂は足が伸ばせるほど広くはないからな。

 問題は、あの二人が泊まったというホテルをどうやって探すかだ。ホテルは実在していても、春生のことだ。ホテル名を変えている可能性は十分にある。

 二冊目の小冊子を閉じて表紙に書かれた黒豹を見る。大昔に作られた本だと作中に書かれていたが、黒豹なんてそんな昔からいたのか疑問だ。でも、この黒豹は三ヶ月前に目撃されている。かくいう僕も動画サイトで黒くて大きな四足歩行の動物が駆けているのを観たことがあるからだ。

 僕が唸っていると、トレイに注文品を乗せた店員が近づいてきた。意外と早く届けてくれた。

 フィッシュ&チップスは予想通りというか、イメージ通りの品だったが、桜子ちゃんが注文したハンバーガーには目を見張った。丸い白皿にイメージしていた大きさよりも二倍はあるだろうハンバーガーと山盛りのフライドポテトが添えられている。女の子一人で食べきれる量だとは思えない。

 テーブルには、注文した三品が置かれた。店員は桜子ちゃんに向かってハンバーガーを綺麗に食べるコツを教えていた。ハンバーガーはあまりにも大きいので、手で持つと中身がこぼれ落ちてしまう。そこでハンバーガー専用の包み紙に詰めて食べるのだと教えてくれた。それなら初めから包み紙に詰めて皿に盛り付ければいいのにと考えてしまったが、ハンバーガーをそのままにしたのはボリュームのある見た目の美味しさを味わうための演出なのだろう。素直じゃない大人の僕と違って、桜子ちゃんは店員の言うことを素直にうんうんと頷いていた。

「食べきれそう?」

 店員が立ち去った後、桜子ちゃんは包み紙を持ちながらハンバーガーと睨めっこしている。

「いけるっちゃーいけるけど、ポテトはキツイかもしれん。井上さんも食べて良いで」

 ああ、うんと曖昧な相槌を打った。フィッシュ&チップスなので、僕のほうにもフライドポテトが盛られている。この脂の量を考えるとドリンクだけの注文で良かったのかもしれない。せめてコーヒーではなくて、炭酸系か烏龍茶を注文すべきだった。

 とりあえず、揚げたてのフィッシュをタルタルソースに付けて口に含んだ。うん、可もなく不可もない味だけど安心して食べられる。白身魚の淡白で素っ気ない舌触りに衣の食感が丁度いい。見た目ほど油は感じられなかった。これならいけそうだ。

 フィッシュをもう一つと思って手を伸ばすと、黒豹の絵が目に止まった。

「二冊目、読んでみる?」

 桜子ちゃんに促すと、彼女は自分の手よりも大きいハンバーガーを専用の包み紙に入れるところだった。

「いいの? うち、読むの遅いで」

「ゆっくり読めばいいさ」

「食べるのは早いけどな」

 と、桜子ちゃんは包み紙にいれたハンバーガーに齧り付いた。口元にケチャップがついていたけれど、下品に見えるどころか可愛らしく見えた。

 紙ナプキンで口元を拭った後、桜子ちゃんは小冊子を読み始めた。

 女の子の食べている姿を観察するのはいい趣味ではない。僕はマグカップに視線を落として、一冊目の小冊子を手に入れる前のことから整理し始めた。

 一週間前、ある特殊な本を手に入れた石田春生は三ヶ月前の出来事をフィクションとして四冊の小冊子を書き残して消えた。消えた同日、妹の桜子と僕に宛てて手紙を残し、狼と黒豹の小冊子は特殊な本を専門とした泥棒である中村千弦に託した。

春生が消えた一週間後の今日、僕は中村千弦から一冊目を渡される。

 時系列はわからないが、渡辺姉妹は春生が特殊な本を手に入れたことと、本の手がかりが小冊子と僕の存在を知る。そして、双子の行動を見張っていた加藤が僕らの前に現れる。

 加藤のお陰で僕と石田桜子は渡辺姉妹から逃れることが出来た。

 そして、僕ら三人は井の頭公園で二冊目の小冊子を中村千弦から受け取ることになった。

 早い話、春生は僕に厄介な本を残したということだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

黒豹の小冊子 その六 は如何でしたでしょうか。

楽しんで頂けたのであれば、嬉しい限りです。


明日も投稿します。

よろしくお願いいたします。

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