兄ちゃんと梅説教される
おまけみたいな話です。読んでいただいて嬉しいです。有り難うございます。
「 おう梅!」
兄さんが帰ってきた。
「 ちょっと兄さん!美人さんが茶屋にいらっしゃって、」
兄さんが汚れた足袋を脱いで私のほうに投げた。
「 もう!信じらんない!やめてよ!」
涼しい顔で私の非難を無視した兄さんが続けた。
「 おう来たか。今日店の近くで見つけて、飯食ったぞ」
「 どうせ、無理やり連れてったんでしょ。失礼だから止めなさいよ」
兄さんが呆れたように私を見て言った。
「 お前、失礼失礼ってなあ。美人で役者かもしれんが、あいつも俺らと同じ人間だぞ。年回りも俺と似たようなもんだろ。一緒に飯食って何が失礼なんだよ」
兄さんが失礼なのは間違いないはずなんだけど、正しいことを言われているような気もしてとっさに言い返す言葉が出なかった。
「 現にダチになったぞ。あいつは中々良いやつだな。お前の客としても上々だろ」
兄さんはご機嫌で言った。
「 信じられない。あの上品な美人さんが兄さんと友達だなんて」
兄さんがにやにやしながら近づいて来た。
「 何言ってやがる。お前俺が好きすぎてあいつに焼きもち焼いてんだろうが」「 そっちこそ何言ってんのよ!」
頭をでっかい掌でがしっと掴まれ、小脇に抱え込まれて腕で首を絞められた。
「 止めてよ!汗臭いって!」
一日働いて、しかも酒場に寄って戻って来た兄さんの臭いは最悪だ。
「 何だとこの野郎」
兄さんががっちりと私を抱えたまま、にやにやしながらさっき脱いだ足袋へ手を伸ばすのが見えた。
「 ぎゃーーーーー」
「 ちょっとあんた達!二人ともいい歳していい加減になさい!」
足袋攻撃から私を救ってくれた仏様ならぬ、鬼ハハ様の到来だ。
「 毎日毎日子供みたいに騒いで!ご近所で笑われるのは私なのよ!」
兄さんがいつもの調子で言った。
「 がはは。何言ってんだよ。笑われてんのはどう考えても俺らだろ。なあ梅」
「 誰の所為で私まで笑われてるのよ!」
「 やかましい!あんた達二人の所為で私が笑われるんだって言ってるでしょうが!」
いい歳した二人並んで、説教を受けた。