美人さん兄ちゃんとご飯の後来る
数日後、美人さんは昼下がりに再び現れた。
「 こんにちは。先ほどお兄さんとお会いしましたよ。相変わらずなお方ですね」
「 いらっしゃいませ。はい、兄は不変です」
ふふふ、と微笑まれた美人さんは今日も天女の生まれ変わりのようにお綺麗。
美人さんと出会う前にすでに散ってしまっていた桜は、青々と新緑を茂らせている。
美人さんは縁台に腰掛けられた。どうやら今日もお客様として来てくださったようだ。
「 兄が失礼をしたでしょう?すみません」
「 ああ、それは色々と。断定的ですね」
笑顔になられた美人さんへお茶をお出しした。
「 ?・・・あ、そうですね。普通は何か失礼をしませんでしたか?って尋ねますよね。でもうちは、したに決まってますから」
美人さんはくすくす笑われている。良かった、兄の失礼に対して怒ってはいらっしゃらないようだ。
「 普通は、お兄さんに会ったと言われても失礼をしたかなんて聞きませんよ」
確かに。うちの兄は特殊だ。
切れ長の目を細めくすくす笑いながら美人さんはおっしゃた。
「 それに、あなたが謝られることではありません。私ももう気になりませんし。こちらこそ申し訳ないことをしましたね」
やはり怒ってはいらっしゃらないようだ。でも、何に対して謝っていらっしゃるのかしら。
首をかしげる私に美人さんは穏やかな口調で続けられた。
「 この間お兄さんに文句をつけようとしたのは全く検討違いでした」
お話が続くのだろうと黙って美人さんの言葉を待った。
「 商売柄見られることには慣れているのだけど、自分の見えるところでひそひそ噂されるのが好きじゃなくてね。しかし、狭量だったと反省しました。中にはあなた達兄妹のような悪意のない人達もいたはずだと気付かされましたよ」
今までのように毅然と笑顔ではいらっしゃったが、本当に反省しておられるご様子だったのであわてて言った。
「そんな、こそこそと自分のことを話されるのが好きな人なんていませんわ。ご気分を害されて当然です。本当に先日は失礼しました」
美人さんは困った顔を、胸の前にあげた両手と一緒にふるふると振られた。可愛い。
これが、艶やかな着物を召して綺麗に髪を結い上げた美人さんの仕草だったなら、目にした殿方は一人残らず惚れるに違いない。
うっかりすると性別の壁を越えて私も惚れてしまいそうだ。
「 やめてください。もう謝らないで。私の勘違いだったんですから。これ以上あなたに頭を下げられると、恥ずかしくてここに来られなくなってしまいます」
「 まあ、それはすみま・・・、止めますね」
また謝ってしまいそうになったので、冗談交じりに答えると、美人さんがほっとしたようににっこり微笑んでくださった。
「 ありがとう」
やっぱり可愛い。
昼食を食べ過ぎたという美人さんはお茶のおかわりも遠慮なさった。
「 お茶も飲まないのに長居しては悪いですね」
「 いいえ、そんなことおっしゃらないでごゆっくりなさって下さい。お話しに寄ってくださるだけでとても嬉しいんです。毎回じゃ私もちょっとだけ困っちゃいますけど、最初にあんな失礼してしまったのにいらして下さって本当に嬉しいんですよ。さっさと帰るなんておっしゃらないで下さい」
何か余計なことを言った気がする。案の定美人さんがくすりと笑っておっしゃた。
「 可愛らしく本音を挟みましたね」
「 まあ、挟んだなんて。全部本音です。嬉しいのもゆっくりして頂きたいのも、」
「 毎回茶も飲まずに長居されては困っちゃうのも?」
私を面白そうに眺めていらっしゃる美人さんの顔を見ながら、また、顔に血がのぼり始めるのを感じた。美人さん、わざとなのですね?
「 それにしても、お兄さんは気持ちが良いくらい真っ直ぐな人ですね」
「 はあ、確かにそうですけれど」
今日も猪みたいに走ってたのかしら?小首をかしげる私に、天女さまらしからぬ可愛らしいいたずらな笑みで答えが返った。
「 ちょうど昼時に出会って、食事を一緒にと誘われたんです」
ええ!?兄さん!いくら男装してらっしゃるからって、若いお嬢さんをいきなり食事に誘うなんて!常識知らずにも程があるわ!
「 最初の日も私がせずとも、ご自分から声をかけて下さるおつもりだったようですし」
「 はあ、今にも行っちゃいそうな感じでしたけど・・・・はっ、まさかいつもの店に誘ったんじゃ!?」
「ええ、そうおっしゃってましたよ」
し、信じられん、善太郎!だって兄さんが食事するところって言ったら、言っては失礼だけれど味と量が売りの汚ーい男臭ーい店ばかりよ!
あんな店に天女を連れて行こうだなんて、特大の罰があたるわ!
その天女はあははと朗らかに笑われながら「 美味しかったですよ」とおっしゃた。
「 !いらっしゃったんですか!?」
「 ええ。何だかすでに友人として認められていたようです」
「 強引に連れていかれたんですね・・・・・・」
「 ええ、でもご一緒してよかったですよ。とてもお兄様が好きになりました」
「 !!!!」
天女が兄さんをす、す、す、スキだって言ってるよ!サエ!助けて!
「 驚きすぎですよ。勿論友人としてですよ」
美人さんがちょっとだけあきれた顔でおっしゃった。
「 あ、そう、そうですよね。あの兄ですもの当然です。失礼しました」
私があせって謝ると、美人さんもあわて始められた。
「 いえ、そう言う意味ではなくて、お兄さんはとても魅力的な人です。きっと女性からは引く手あまたでしょう」
「 まあ、お優しいんですね。 はあ、あの通りですから男性の友人はたくさんいるんですけど・・・・・女性の方はさっぱりで・・・・・」
兄さんのむさ苦しい男友達衆を思い浮かべていた私が、よほど変な顔をしていたのか、美人さんはくすくす笑い出した。
本当に笑顔の可愛い方だ。
「 あなたもお兄さんがお好きなんですね。仲が良くてうらやましいな。私も負けていられないね」
私たちの兄妹仲が何かを刺激したのか、美人さんが私の目を覗き込みながら負けず嫌い発言をされた。
まさか兄さんと仲良くしてくださるのかしら?
私の方へ少しだけ傾いだ紺の着流しの肩を、癖のない艶やかな黒髪がすべり落ちた。
読んで下さって有り難うございます。嬉しいです。
次話短いです。今後予告や注釈なしに、一話が短かったり長かったりするかと思います。ばらばらですいません。




