表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現世の魔法使い  作者: yuki
第二章
49/56

それぞれの戦い-2-

 銀の岸に向けて香澄が槌を投擲する。接近と共に巨大化する質量の塊を、騎士は盾で以ってどうにか防ぎきる。

 槌の一撃が弱いわけではない。現に攻撃を受けた騎士は事前にしっかりと抱えていたが軌道を反らす過程で背中からひっくり返っていた。

 敵が1体ならこの隙に好き放題攻撃を叩き込めるというのに、もう1体の騎士がそれを許さない。

 ミョルニールによる攻撃は一時的に武器が手元から離れるせいで次の攻撃までインターバルができてしまう。

 回収までの時間を伏せって待ってくれるような敵ではなかった。

 近距離戦闘に持ち込んだとして、魔力が格段に上がっていても身のこなしはまだ素人だ。

 2体同時に相手するにはいささか以上のの不安が残る。

 しかしいつまでも遠距離攻撃に頼っていては埒が明かない。

 

 何度目かの敵の攻撃を避けたとき、騎士の身体が駐車場に生えていた電灯を蹴り飛ばし、火花が散った。

 僅かな間点滅を繰り返した電灯を見て、香澄はハッとして周囲を見渡す。

 広い駐車場と住宅街には高い建築物がなく、遠方が見渡せる。そして、それはあった。

 近いとは言えない微妙な距離。対象物の間には民家さえある。けれど、迷っている時間はなかった。

 騎士の攻撃を避けながら槌を牽制に使いつつ騎士の誘導を始める。

 大通りには朝早い時間が功を奏してか車が一台も停まっていない。エイワスの術中であれば新たに人が混入することはないだろう。

 アスファルトが足型に凹むのも気にせず、ただ周囲の民家が攻撃されないよう細心の注意を払いつつ誘導した先には3つの捻くれた鉄で作られた塔が一際高く聳えていた。

 人の作った高圧電流が流れる電塔。

 迫り来る騎士に向かって香澄が全力で槌を投げつける。1人が迫りくる攻撃に対し膝をつき、所々がひしゃげた盾を突き出した。

 後方の騎士は前に構える騎士が攻撃を防ぐタイミングで飛び出してくるつもりか力を溜めていた。

 騎士の動きが僅かではあるが停止する。そしてそれこそが香澄の求めた決定的な時間だ。

 

「集まって!」

 人の手で作られた電流が騎士の周辺を取り巻く形で展開される。対象は騎士ではなかった。騎士を取り巻く気体に対し高電圧をかける事で超高熱を持ったプラズマが生成される。

 町中の電気が次々と落ちるのも気にせず、プラズマが成長し騎士へと接触した。

 苦悶に満ちた唸り声が大気を、鉄塔を揺るがす。紫電の向こうで銀色の液体が流れ出した。

 身体中を焼かれる痛みに騎士が暴れ狂う。プラズマへと手を突っ込み何かが焼ける酷い匂いがそこかしこに満ちた。

 やがて鉄塔からの電力供給が滞り、生成されていたプラズマが光を失った。

 身体中からもうもうと白い煙を吐き出す騎士は、しかしまだ息絶えていない。

 暗い眼孔にあらん限りの憎悪と殺意を迸らせ、四肢は上手く動かないのか引きずるように香澄へと近づく。

「悪いけど、急いでるの」

 ぱしん、と軽い音がしてミョルニールが手元へと戻ってきた。躊躇う事なく、振りかぶったそれを投擲する。

 盾はもうどろどろに解け落ち、銀の山に変わり果てていた。胸の中心に突き刺さった槌は留まる事を知らず、鈍い音と共に胸を貫き、骨を砕き、反対側へと突き抜ける。

 倒れるまでもなく騎士の身体が闇色の粒子となって空へ散った。

 

 残されたもう1人の騎士が仲間の消失をどこか呆然と見送っている。

 槌を投げる必要さえなかった。未だ飛翔を続ける槌が立ち尽くしている騎士の首にたたきつけられる。

 ごろり、と地面に丸い何かが落ち、次いで身体が沈みこみ、最後には何も残らなかった。

 舞い散る粒子を背に香澄はもと来た道を猛然と戻り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ