act.final
遂に最終話です。拓海の容態や如何に!?
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ここは、何処だろうか。目を開ければ果てしなく続く白い空間の中に、俺は立っていた。眩い光を放つでもなく、そもそも光という存在自体を忘れさせるような感覚だ。
「……拓海。一つ、謝らせてくれ」
「……ゼウス、テュポン? ここは……」
「……お前らの世界で言うとこの天国に近い。最も……完全に死んだわけじゃあない」
「どういう……事だ?」
「すまない、拓海! お前は……死んだ。いや、正確には死にかけている」
「知ってるよ」
「な!?」
「んなことも分からない程バカじゃあないしそれを受け止めない程拒否してるわけじゃないからな」
「ふーむ、お前は強いなぁ……で、俺達ができる唯一の償いとして……選択権を一つ与えようと思う」
「選択権……? 何の?」
「元いた世界に戻るか?」
「それともこの世界に留まるか?」
つまり……どちらの世界に生きるかを決めろ、か。だが一つ、疑問が残る。答え次第では決めた答えも揺らぐかもしれない。
「どちらかを選んで……その結果はどうなる?」
「つまり?」
「俺が選んだ選択肢でどういったプロセスを踏むか、だ」
「……元いた世界に戻るなら……既に存在自体消してしまったから元の姿では戻れない」
「つまり、お前は赤ん坊からやり直す事になる。記憶は残るし名前も変わらないように出来るが……」
うぅむ、流石にそこまで世界に干渉はできないのね。
「で、お前が今さっきまでいた世界ではお前は死亡したことになる。まああれだけの傷だしな」
なるほど、そりゃ当然だな。で、もう一つはどうなるんだろ?
「そしてそのままもう一つの世界に残るなら単純なことだ」
「お前が死なないってことにすりゃあいいんだからな」
「なるほど……なら、記憶も周りの環境も変わらない、と?」
「そういう事だ。少し、時間をかけて考えてみてくれ」
「いや……今聞いた事で俺は決定できた」
もし、地球の方に戻っても記憶だけではなく環境も変わらないなら、俺は迷ったかもしれないが。まあ生憎と向こうでは戻れないらしいしな。
「この世界に……とどまろうと思う」
「……そうか。しかし、本当にすまない!」
「ん?」
「お前を勝手に巻き込んで危険な目に合わせて……」
「挙句の果てに殺しかけた。いや、殺したと言って良い」
「……まあ、それはそれで退屈しなかったし楽しかったさ。ぶっちゃけ、日本にいたよりも。だが、最後に一つ聞かせてくれ」
「何だ?」
「俺がこうなると……予想はしてたのか?」
「こうなるって……死にかけるってことか? ……いや、していなかった。そもそも、もっと簡単に斃れる筈だった魔王が、予想以上に力を蓄えていたんだ」
「それを聞いて安心した。なら……礼を言わせてくれ。楽しかった。ありがとう」
「おいおいおい、拓海。別れのあいさつみたいなこと言ってるんじゃねぇよ」
「そーだそーだ。まだお前との繋がりはあるんだからな。望めば、いつでも会える」
肩をすくめて笑う二人につられ、俺も笑みをこぼす。
「そうか。じゃ、暇になったら呼ばせてもらうよ」
「ゲーム途中じゃなければいつでも良いぜ」
「……テメーは神だか怪物だか知らんが自覚を持ちやがれっ!」
「ククク、全く。じゃ、そろそろ送り返すか。多分お前が目を覚ますのは病院。下手したら土の中な」
「ちょっ!? 何故に!? Why!?」
「なに、お前が死んだらあそこの文化で土葬されるだけ」
「だけって……ゼウス、俺は風と雷は使えるが両方土の中じゃ無理だぞ」
「あー……そしたら、諦めろ」
「ま、そーゆーこと。と、冗談はここら辺で終わり。じゃ、送り返すぜ?」
そう言われ、視界を眩い光が覆う。そうして、俺は再び目を閉じた。
「……い! ……せ……せい!!」
う……ん? なんだうるさい……
「先生! しっかりしてくれ!」
あー? ここは……って。
「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!」
まったく、眠ってる人の横で。……眠ってる?
あー……思い出した。うん。どうりでコイツらが横で騒いでるはずだ。ぽかーんとする国王直属部隊をみて、俺は文句をぶつけた。
「ったく、おめーらは人が気持よく寝てる時に……ったく」
多分、俺の顔は笑ってる。次第に、俺が生きてるってことを認識したのか、取り巻きが脱力したのがわかる。分かりやすい奴ら……
「生き……てる?」
「勝手に殺すな、レム。いや、死にかけたのは事実か……?」
ゼウスとテュポンの情報だと、だが。
「し、しかしあれは致命傷だったはず……?」
「いや、振り向いて右肺は貫かれたけど……」
なんというか、そっからは質問攻めだった。やれどうやってそんなタフになった、だのやれどうやって魔王は倒した、だの……なんというか、死んじゃいないけど流石に労わってはほしい。怪我はしてるんだから。ま、こういうのも平和として良いのかもしれんけどさ。問題が一つあるんだよねぇ。
「しかし、これでやっと平和に……」
「いや、それは無い……」
国王が笑顔で言うのを、俺は遮る。俺はある確信があった。奴が逃げず、命を賭して俺を殺しにかかった理由……
「多分……王位は継承済みだ……前回逃げた奴が、今回は命を捨てたのが良い証拠。多分次の魔王の障害を消そうと思ったんだろう」
まあ、それはご都合主義で無駄だったわけですが。残念!
「ぬぅ……平和はいつになったらやってくるというのか……」
「まあ……しばらくは侵攻もないでしょう。平和は……努力すればいずれ」
「確かに、のう。よし、お前達! 今宵は宴じゃ! 復帰祝いじゃぁぁぁぁぁ!!」
国王様、お言葉ですがその人物はまだ『退院』しておりません……
まあ、しかし。そんな風に俺は今も生きてる。
その後ははしゃぎ過ぎた国王をなだめるのに大変だったらしいが……まあ俺は知ったこっちゃない。
そんな彼らを見ていて、俺はここが軍隊の集まりだってのを忘れてた。多分、まだまだ戦争は続く。それでも、俺はこの世界で生きる事を選んだし、それに後悔はしない。
彼らとはきっと、長い付き合いになる。何せ、俺はまだ十代なんだ。周りの全員いつ死ぬかは知る由もないが、それでも俺には確信めいたものがあったのだ。
俺の人生は、まだまだ終わらない――――
――――――――――fin.
ようやく、完結することができました。ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました!
異世界トリップもの、と何番煎じかもわからぬ上かなりの駄文。それにもかかわらずお読み頂いた方々には何と御礼申し上げていいのか私にはわかりかねます。ただ、ありがとうございました。そう申し上げるのが精いっぱいです。
続編その他はいつ投稿できるか分かりかねますが、できる限り近いうちに投稿したいと考えている所存ですので、よろしければそちらの方も御贔屓の程、よろしくお願い致します。
2011/5/28 John.Doe