-アルム。-
「これで・・・これで・・・お終いだ。あは、あはは・・・世界はこれであるべき姿になるんだ!」
広間に響き渡る声。
全く・・・。
「・・・ガキがギャアギャアとうるせぇんだよ・・・。」
完全に闇の中に沈む前に掴んだ。
魂を、"オレ達"の魂を・・・。
「どうして?!神器で完全に急所を突いたのに!」
「ばぁか、テメェに・・・何が、コイツの・・・"アルム"の何が解んだよ。」
アルムがどれだけ苦しんだか・・・。
足に力を込めて、立ち上がる。
久し振りだが、大丈夫だ。
「オマエがギャアギャア騒いでる間、どれだけアルムが必死だったか・・・テメェの絶望?復讐?なんだそりゃ。それでもアルムは前ぇ向いてんだよ。歯ァ食いしばってなぁッ!」
だから、オレはここに居る。
ずっとアルムが心の中で語りかけてくれたから。
だから、"オレは消えずにここにいる。"
ずっとずっとアルムの声は聞こえていた。
憎しみと絶望の嗚咽も。諦めない力強さも。他者への愛情も。
それに比べ、目の前のヤツは・・・。
「ちっせぇんだよ、テメェの器はよォッ!」
身体から生えるように出ている剣に手をかける。
大丈夫だ。
"コイツ"はオレ達を害さない。
オレの魂がそう教える。
「ぐぬぅ・・・あ゛・・・がぁぁーッ!」
渾身の力籠めて身体から剣を引き抜く。
恐らく、心臓は止まったままだろう。
ドバドバと血が流れ出ているのもわかる。
ヤベェ、ヤベェが・・・。
オレはまだ存在している。
アルムが不安定なオレの名を呼び、存在させ続けてくれたから。
人の本当の死は忘れられた時ってのは、ホントみてぇだ。
「なんなんだ?!なんだんだよ、オマエ!」
「あ゛?」
自分の思い通りにならねぇ、理解の範疇を越えると、すぐコレだ。
全くガキだな。
「オマエが、一生手に入んねぇもんだよ、オレは・・・。」
視界が霞む。
ん?
目も片方ヤラレてんのか・・・このままだと・・・。
「オイ、アルム、起きろや。得物は取り戻してやったゼ?あとはあそこのクソガキをブチのめすだけだ。」
この偶然が重なりまくって出来た奇跡とやらは、そう長くはもたねぇだろう。
でも、逃すわけにはいかない。
どういう仕組みかはわからねぇ、神っていうヤツの仕業ってんなら、粋な事をしてくれんじゃねぇかと、今だけなら信じてやってもいいとさえ思う。
「何時まで寝てんだよ、コイツはオマエの物語だろ?」
オレにとってはオマケの物語だ。
ただの延長戦。
ロスタイムでもいい。
それなりに楽しくはあったけどよ・・・。
知ってたか?
アルムの声どころか、見ているものまで解ってたんだぜ?
辛い事も嬉しい事も全部、オマエと一緒だったんだ。
「だから、これからもずっと一緒だ・・・もう立てねぇってんなら、アルム!オレの魂丸ごと、全部オマエにくれてやらぁ!護るんだろ!大事なモンを!」
なぁに、悲しむ事はねぇよ。
オレはコレでアルム、本当にオマエと完全に一つになるんだからな。
変な罪悪感とか感じる必要もねぇ、そうすればきっともう二度と身体に変調なんて起きねぇからよ。
手にした剣が一層輝きを増す。
アルムを、剣の主人を守護するように。
あぁ、そうか・・・アルム、オレは何なのか解ったぜ、オレ達の魂がなんなのかをさ。
「なぁ、アルム・・・オレの、"トウマ"ってヤツの人生は、きっと満更じゃなかったゼ。またな、"相棒"。」
次に、オレ達が会う時はアルム、オマエが"寿命"で死んだ時な?絶対だぞ?
じゃねぇとまた怒鳴ってやっからな?
・・・頼むゼ。
オマエも・・・オレ・・・の生きた・・・証・・・。
「・・・・・・あぁ。絶対だ・・・。」
誰よりずっと一緒にいたんだ。
これからも・・・。
「オレは・・・同じようにこの世界は間違っていると思う・・・思ってた。」
何も、何も、もう感じない。
ずっと一緒にいてくれた存在がオレの中に還って逝って。
悲しみも何もかもが麻痺してしまって・・・。
ただ、これだけは言える。
もう充分だ。
これで完璧。
「でも、"無かった"コトなんて出来ないよ。」
皆、生きているから。
無かった事で終わらせるなんて出来ない。
・・・この罪でさえも。
それを否定してしまったら、オレはもう二度とトウマには逢えないから。
「だから・・・オレはオマエを止める。殺してでも。」
それがオレの"アルム・ディス・ヴァンハイト"の贖罪。
この間違った世界の皆に胸を張れるように、大好きな人達へ笑いかけられるように。
「だから・・・今だけでいい。」
手の中の黒剣が鳴っている・・・いや、告げている。
「そんなのはただの偽善だ!詭弁だ!」
「あぁ、そうだよ?だから何だ?嘘つきでも悪でもいいさ、そんなのとっくに解ってる。それでも、オレはオマエを止める。」
信じろ、前を向け!
そんな言葉が何処からか聞こえたような気がした。
身体の傷は塞がっている。
何時の間にか目まで見える。
苦しさも全然ない。
心臓から伝わる脈動が、剣先にまで届いている感覚。
オレはまだ戦える、大丈夫。
腰を落とし、目の前の敵に向かって全力で突進した。
ようやく会えた。
そして永遠に別れた。
いや、還っていった。
大切な相棒の物語を完結させる為に。
さぁ、アルムよ、再び立ち向かえ!
・・・タグ通りの真価を発揮した回でした。
というか、この回の為にこの話は始まったんだよね、きっと。