其は皇子か創り上げた世界。 (アイシャ視点)
「怯むな!我等の身体は盾なり!堅牢なる城壁也!」
などと叱咤激励したとしても、気力や根性で埋められる差の限界はとうに超えている。
超えているが、諦めるわけにはいかんのだ。
私を信じてついて来てくれる皆の前で、私が諦めるわけにはいかない。
「状況は?!」
「は!現在、敵の第一波は引きました。」
「そんなのは見ればわかる、損害はどうだ?」
「幸いこちらは軽微です。何人かは馬に蹴られましたが、脳震盪程度です。姫のご指導の賜物です。」
「世辞はいい。」
アルムとの訓練の成果だ。
しかし、守備に一長があっても攻撃に移れないのでは・・・。
現状はどんどんこちらが疲弊してゆくだけ。
「敵の様子はどうだ?」
「再編成中です。どうやら、兵をいくつかに分けて波状攻撃を仕掛けてくる模様。」
重装兵は長時間戦闘に秀でていないからな。
その弱点を解消すべく日夜の体力作りは欠かさない。
でも、それでも限界はある。
「・・・アルム。」
どうしても今はここにいないあの人を思い出す、呼んでしまう。
アルムならどうする?
攻めに出るか?それとも・・・。
水に落とした油のようにアルムは、私という水を全部包み込んでしまった。
大丈夫。
私は、アルムの言っている事が、アルムの生き方が間違っていると思えないから。
「敵の波が引いたと同時に前進して少しずつ戦線を上げるぞ!」
私もアルムに恥じない生き方をするの!
だから、この戦いは負けない。
他国だろうと何だろうと、こんな侵略戦争は認めない。
アルムだってそう言う。
彼は国家間の争いを最後まで回避しようとしていた。
奪いたくもない命すら、自らの手で奪ってまで。
「敵!来ます!」
「大盾構えーッ!」 「構えーッ!」
私の号令の復唱があちらこちらで聞こえる。
「斧槍起こせぇーッ!」 「起こせーッ!」
土煙を上げて迫る敵の一陣の影を見ると私も戦列に加わり、鉄仮面の面部分を下ろす。
段々と近づいてくる影と馬の蹄の音・・・が、二方向?
後ろ?!挟撃された?!
「手槍放て!」
その声と共に我が軍の頭上を槍が飛び越えて、前面の敵軍の進路上に降っていく。
後ろからきた馬群は、槍を携えて私達の集団の迂回して、そのままセルブ軍に突撃していく。
「アイシャ様!アイシャ様!」
聞いた事のある声だ。
「ここだ!」
面を上げ、声のする方向に叫ぶ。
「アルム様の侍女のミランダです!援軍に参りました!」
「ミランダさん?!援軍て・・・でも、この軍は?」
使っているのは双剣じゃなくて槍だし、旗印も緑地に槍に絡み合う双頭の蛇。
「クロアート帝国のアイシャ・エル・クロアートさまですね。私、今は亡き国の樹海王の補佐役、クラムと申します。古の姉弟の盟約に従い、我等"姉であるクロアート姫"を助けに参りました。」
どういう事だ?
「国は無くとも、名を失おうとも、神器に籠められた誓いは永遠に消える事はないのです。」
それって・・・英雄の・・・?
「と、ともかく次の陣が来る前に態勢を・・・。」
「あッ!」
視界にはためく軍旗。
「白地に勝利の杯と五つ星に剣・・・。」
敵の第二陣に横合いから突撃する騎馬隊。
「あの旗印は・・・ラスロー王子の・・・どうして・・・。」
これは反乱では?
「わかっているのですよ、アイシャ様。誰の目にも、この戦は間違っていると。」
「そうか・・・。」
もっと増えればいいのに・・・戦力の事じゃない。
戦争なんて間違っているという人間が、アルムのように他者の痛みが解る人間が、もっともっと増えればいいのに・・・。
アルムの考えが、彼の存在が世界に認められていく気がして、私は涙が出そうになる。
「ははっ!アレは何処の軍か私にも解るぞ!」
ラスロー王子の軍と反対の横合いから流れ込む軍の旗。
それを見たのも初めてだし、情報の欠片すら持っていないが、一目でそれが誰の軍か私達には解る。
蒼地に黒と白の二本の長剣を背景に、黒い鳥が口に銜えるのは小さな赤い林檎の実がついた木の枝。
蒼はヴァンハイトの国色。
彼の腰にある二本の長剣と特徴的な黒という色。
そして、林檎はリッヒニドスの特産品だ。
何処をどう見ても、あれは間違いなくアルムの軍。
それ以外に考えられない!
「ザッシュさんたら、面白い図案ね。」
「でも、アレがアルムらしくていいだろう?」
「えぇ。」
戦場には全く似つかわしくない笑顔が咲き誇る。
全くアルムの優しさは凄いな。
軍の中には人間も亜人も獣人もいて、ダークエルフもいる。
国の垣根を超えれば、種族も超える。
アルムの生き方は、全てを考え直させる。
流石は、私の・・・"私達の皇子様"だ!
「全軍前へ!我等は他の同盟軍の盾となる!」
高らかな私の声が戦場にこだまする。
この戦いは・・・きっとすぐに終わるだろう。
皇子の存在は確実に、皆の心に・・・。
旗のデザインはコレしかないでしょう?
林檎、最後まで引っ張りますぜぇ(苦笑)
ザッシュ君もいいセンスで。