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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
最終章:黒の皇子は三度生まれる。
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其は皇子の友。 (ハディラム視点)

「アルム!」

 森を抜けて馬で進んでいる最中、突然アルムが落馬した。

違う、突然じゃない。

日に日にとは言わないが、時折アルムの体調が悪くなるのをよく見る。

「大丈夫だ。」

「オマエは馬鹿か?!それしか言わへんやんか!」

 アルムに肩を貸して、何とか楽な体勢をとらせる。

「すぐに治まる。」

「これから戦いに行くっつーのに。」

 全く、なんでこう強情なんやろね。

「オマエさぁ、そんなになってまで戦ってどないすんの?」

 思わず口から出る。

聞くまでもなく想像はつくんだが、だからって・・・なぁ。

「選んでもらえたから・・・。」

 アルムが俺様に向かって微笑む。

「選ぶ?」

「生まれた時からオレは何も期待されなかった・・・けれど・・・子供の頃、大病を患って死にかけた時・・・。」

 俺様は空を見上げる。

どんよりと曇った嫌な空だ。

「乳母とその娘だけが心配してくれた・・・兄上もいたけれど。オレに会いに来た女性がそうだ。」

 ぐっと俺様の腕を掴む。

「それなに・・・オレは彼女の、ずっと一緒に過ごしてきた大事なミラの名前がすぐに出て来なかった・・・。どうやらオレは確実に壊れ始めているらしい。」

 そんなにアルムの身体は・・・。

「ハディだってそうだろう?」

「あん?」

「好きで槍を持っているわけじゃない。でも槍に選ばれたから、それが出来るのが自分だけだったからだろう?」

「あー、まぁ、な。」

 でも、たとえ槍に選ばれなくても、それに近い事はしてたかもな。

「彼女達はオレを選んでくれた。オレの傍にいる人間達、一緒に笑って泣いて愛してくれる者達・・・生まれてきたからには、皆の為にオレも何かを残したい。オレの全てを使ってでも。」

「馬鹿か!」

 俺様はアルムを引き起こし、馬の背に乗せる。

「オマエは本っっっっ当に馬鹿で不器用やな。」

 そのまま、俺様も同じ馬に乗る。

アルムを背に背負うようにして、腕を自分の腰に回し、服の紐と一緒にくくりつけて。

鎧が背中に当たって痛いが、しゃーない。

「身体をおっつけて、下を噛まないようにして寝とれ。着いたら起こしたる。」

 場所はわからなくても、俺様の神器が今なら教えてくれる。

「悪い・・・な・・・。」

「そう思うならシャンとせぇ!」

 アルムはアルムなりに自分の責務を全うしたいだけなんやな。

己の全てを賭けて。

「ハディ・・・もし、オレが・・・。」 「あー、聞こえん、聞こえん、なーんも聞こえん。あーあー。」

 本当にコイツは皇子っぽくナイ!

「いいか?オマエがどんなになってもや、俺様の知ったこっちゃない!」

 もしかしたら、俺様は悔しいのかも知れん。

「どんなになっても俺様は、オマエを"連れて帰る"かんなっ!」

 こんなに馬鹿で、不器用で、イイヤツが・・・こんなにボロボロになっているのを、見届けるだけなんていうんは・・・。

悔しい以外の何モノでもない。

「無茶苦茶だなぁ・・・。」

 呆れたような、苦笑の声が背から漏れる。

あれか?

弟がいるっつーのは、こんなカンジなんか?

よぉ、わからん。

つか、こんなブッ飛んだ弟は勘弁や。

「アルムだけには言われたかない。格好悪い姿で帰りたくねぇなら、根性出すんだな。」

 俺様は馬を走らせた。

なるべく衝撃を小さくと気遣いたいんだが、そうも言ってられん。

ここでタラタラやっていたら、後ろのアルムに何を言われるかわかったもんじゃない。

「アルム!いいか!こっからは手加減なんかすんじゃねぇぞ!」

 俺様も出し惜しみはしない。

邪魔する奴は容赦も、勿論手加減もしねぇ・・・。

アルムにも俺様はそれを強要しなきゃならん。

「俺様は・・・アルムに死んで欲しくねぇ。」

 どんなに血だらけになって地べたを這い蹲ろうが、ボロボロになろうが、アルムは生き延びなきゃいけねぇんだ。

「・・・オマエが死んだら、負けな気ィ、するわ。」

 最後の一言はアルムに聞こえない声で・・・。

もっとも今、アルムが意識があるかどうかはわからん。

聞こえてなくてもいい。

これは俺様が"選んだ"事なんやから。

悔しくても、涙が出そうでも・・・たとえ死に瀕していても。

生まれたからには、やらねばらなぬ事がある。

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