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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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スイザンしてようともってコト。 ~エピローグⅡ~【皇子はソレを為す。】

 銀縁の簡素な飾りだけの黒い鎧。

付加持ちの円盾を篭手にしっかりと固定。

そして、同じく付加持ちの銀の長剣と、頑丈な長剣の二振り。

踏んだ場数のせいか、装備に慣れるのが早い気がする。

「やるだけやるのは、変わらない。オレはオレ。」

 ちょっとした暗示・・・にもならないか。

「行くよ、シルビィ。」

「はい。」

 傍らに控えているシルビアを連れて部屋の扉を開くと、すぐそこにルチル。

彼女はニコリと微笑むとオレの後につく。

「さっさと片付けて帰ろう。」

「だな。」

 細長い廊下の壁に寄りかかって腕を組んでいるハディラム。

「お待ちになって!」

 気持ち悪くニヤニヤと笑い合うオレとハディラムの間に、クラムに連れられたアシュリーヌさんが割って入る。

「?」

「そんなに急いでどうした、姉ちゃん?」

 目が見えないと表情が乏しいせいか、読めないんだよな。

「もう少し待って、大門の前でいいから・・・。」

「待つ?門で?」

「"世界からの文"が来るの!」

 "世界からの文"?

随分と抽象的かつ、大仰な。

「予言やな?アルム、大門にとにかく行くで。」

 ハディラムはそう言うと走り出した。

予言ね。

せめて、おおまかでいいから、時間を指定欲しいものだ。

オレも大門に向かって走り出す。

「シルビィとルチルはゆっくりでいいから!」

 薄暗い廊下を一気に走り抜けて、宮殿の外へ。

そのまま、立ち止まらずに大門へと向かう。

「ハディ!」 「静かに!」

 耳をすませているハディラムに習って、オレも彼の隣で耳をすます。

「来るで、馬は三頭。」

 ハディラムが槍を構える。

悠然と構えるハディラムと待つと、しばらくして馬を引いた人影が現れる。

「人間には見えるな。」

 獣人や亜人には見えない。

世界の文っていうくらいだから、迷い人でもなさそうだ。

鎧姿の人間が二人と軽装の人間が一人。

「アル!」

 軽装姿の人間の方が、オレに向かって駆けて来る。

その"女性"ははオレを抱きしめて・・・。

「良かった無事で・・・。」

「なんや人騒がせな。アルムんトコの人間か。」

「え・・・あ・・・。」

 自分に抱きついている人の顔を見る為に、オレは首を回す。

オレよりちょっとだけ背が高くて、赤の短めの髪に金の瞳・・・。

彼女の顔を見ながら、オレはその場にずるずると崩れる。

「アル?!」 「アルム!」

 そんなオレの様子に二人が驚きの声を上げ・・・オレは胸の息苦しさに慌てて呼吸を深める。

「アルム様!」

 背後からルチルの声と複数人の足音が聞こえる。

「大丈夫。ちょっと・・・驚いただけ。」

 もしくは笑いがこみ上げそうになっただけ。

「で、何があったんだ?こんな所まで来るなんて。」

 これが"世界からの文"なのだろうか?

クラムやルチル、シルビア、アシュリーヌさん全員が合流したのを確認して、オレは問う。

「セルブが・・・セイブラムに侵攻しました。」 「セルブが?!クロアートではなくセイブラムに?」

 何故だ?

クロアートに侵攻なら理解出来るが・・・。

「オレがクロアートと親交を持ったから・・・か?」

 現状、クロアートに侵攻したら、ヴァンハイト・・・少なくともオレはクロアートの味方をする事だろう。

それは確かにセルブの不利にはなる。

オレは第二皇子だから、ヴァンハイト全体が動くかどうかは別かも知れない。

ラスロー王子やオリガさんはオレを高評価していた。

国外でのオレの評価は、また別なのかも。

セルブがクロアートに侵攻するには、不確定要素が多過ぎるというのもわかる。

でも、だからって、何故セイブラム?

そんな事をしたら、クロアートにつけ入る隙を与える事になりかねない。

「表向きは例の学舎での件でしょう。セイブラムの思想を他国に植えつける事を脅威と感じている。」

「だが、そんなのは事前に合意していただろう?」

 今更、それを掘り返して何になる?

「ラスロー王子を危険に晒したのもセイブラムの計画だと。」

 恥も外聞も無くなったか?

なんていうこじ付けだ。

「成る程な。」

 一人、ハディラムが納得の声を上げる。

「アルム、何故、今までいくさは起こらなかったんや?」

 何故?

それは地理的にも戦力的にも均衡が取れて・・・。

「セイブラムには神器が無い・・・?」

「ご名答や。それなのに複製の神器を作る技術がある。とか広まったら、どうする?」

「あ・・・。」

 たとえそれが嘘でも関係ない。

その技術を手に入れれば、戦力の均衡は更に崩れる。

無かったとしても、神器のないセイブラムの領地を手に入れる事が出来る。

「クロアートは動かんかも知れんな。」

 密約を交わしたか、或いはクロアートも既にセイブラムの情報を掴んでいるのか。

「クソッ!まず一度、そっちに介入するべきか?」

 幸い、ここにも神器は一つある。

それは最悪の展開だが、少なくとも犠牲や被害は確実に減る。

「それがな、アルム・・・。」

 ハディラムが困ったように槍の先を地面に突き刺して、手を離す。

「きゃっ。」 「うぐっ。」

 前者はアシュリーヌさんの悲鳴、後者はオレの呻きだ。

「姉ちゃんとアルム・・・あとそっちの姉ちゃんもわかるやろ?槍がさっきから鳴ってる・・・もうこっちも時間がヤバいみたいや。」

 この機会を狙って。

つまり、それはアイツの仕業・・・。

「クラム!俺様が戻るまでセルブを抑えろ。」

「心得ました。」

 時間を稼ぎ出すしかないか。

「リッヒニドスやヴァンハイトの対応は?」

 ヴァンハイトは恐らく、動かないだろうな。

「現在、セイブラムにバルド様がいらっしゃいます。」

「上々。」

 少なくとも三個師団までは余裕でイケる。

「ヴァンハイトは動きませんが、シュドニア卿が一門を率いてセイブラムに向かうそうです。」

「シュドニアが?」

 兄上の采配か?

バルドが動いたからか?

あとはリッヒニドスとクロアート次第か。

「よし、ルチル!君はクラム達をセイブラムの軍へ。」

「はい!」

 最善を尽くすだけしか、オレ達には選択肢はない。

「アルム、俺様達は北へ行くぞ?」

「当然!」

ついに恐れていた事態が発生した。

しかし、皇子は独りじゃない。

これまで彼に関わってきた人々、これから関わるかも知れない人々。

動き出した世界の中で、皇子はどう決断を下すのか?!

次回!最終章突入!


ちょっと流れの関係上で話数が少ない章でした。

以上、Ⅴ章、全26話読了ありがとうございます。

果たして、本当に最終章完結までたどり着けるのか・・・ちょっぴり自信がないです。

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