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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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セツジツに誠実に祈るというコト。 ~エピローグⅠ~【微笑みと共に、】

「弱ったな・・・。」

 オレ、ここに来てこんな事ばかりだな。

ほとほと呆れる。

ルチルはオレの身体の事を知らないから、仕方がないか。

残された時間がないからこそ、急ぎたいのだが・・・。

「すみませんっっ。」

 横になっていた身体のうち首だけを声のした方向に回すと、ルチルが木桶を持って立っていた。

「何故、謝るんだい?」

 何でこんなに亜人は可愛いのかな・・・。

あーあ、耳までシュンと垂れちゃって。

「オレの身体を気遣ってだろう?謝る必要はないよ。」

 だから、オレは頑張れるんだしな。

「どうした?」

 黙り込むルチル。

「あ、あの、お身体を拭きに来ました。」

「ルチルが?」

 身の回りの事は自分でするのが、オレの基本方針なんだが。

実際は、最近そうも言えなくなってきたんだよな。

だって、侍女の仕事がなくなってしまうから。

でも、こういう仕事は本来なら、侍女のシルビアとかがやるわけで。

「あ、私がお願いしたんで・・・。」

「そうなのか。」

 オレはゆっくりと身体を起こす。

幸い、今は体調はなんともない。

熱も下がったみたいだし。

と、いっても病気とは違うから、いつ身体に影響が来るかわからない。

これが難点か?

出来れば予告とか予兆があったりすると、楽でいいなぁと思うが・・・それは楽し過ぎか。

「そうか、悪いね。」

「いえ。」

 オレは着せられた夜着の上だけを脱ぎ、背をルチルに向ける。

「背中だけでいいから。」

「はっ、はいっ。」

 背中にペタリと心地の良い冷たさ。

「なぁ、ルチル?」

「はい。」

「世界は広いよね。」

 広くて人生ほとんどを使っても全部は見る事が出来ないだろう。

「はい。」

「まだ見ぬ地、まだ会わぬ人々が沢山だ。」

 オレの知らない人達の日々の生活が存在する。

「私もあのまま亜人の故郷にいたら、見る事は出来なかったです。だから、とても感謝しています。」

 腐った世界だろうと、それとは関係なく生きている人達。

「・・・もっともっと沢山見て欲しい、体験して欲しい。本当は全て獣人・亜人達に・・・そして、自分の意思で選んで欲しいと願っている。」

 ハディラムがそうしたように。

マール君が願ったように。

自分の意思で選ぶ事は責任が伴うけれど、それから逃げるわけにいかないし、逃げた者には何も得られはしないのだろう。

「獣人や亜人に自由を。そう願った亜人がいたという事を忘れないであげて。」

 少しは君の望んだ世界に近づいているかな?

「それだったら、アルム様もそうですよ?少なくても私にとっては。」

 丁寧にひたすら丁寧にオレの背を拭うルチル。

「だから、アルム様の事が心配で・・・私、アルム様が作りたい、作る世界を見てみたいです。」

 少し力が入る。

「そして、それをお手伝いしたいです。」

 ・・・弱ったな。

最近、涙腺脆くなったんじゃないか?

いや、泣いてはいないけど・・・かろうじて。

「あのねぇ・・・ルチル?」

「今度、私が自分の意思で選ぶのはソレです!」

 言い切られてしまった。

「そんな意味でルチルに世界を見てもらおうと思ったわけじゃないんだけどなぁ・・・。」

 これは良い事なのだろうか?

それとも悪い事なのだろうか?

考えて、そう思ってもらえる事は、オレにとっては嬉しい、うん、そうだな。

でも、彼女達にとってはどうなのだろう?

残されてゆく事になるだろう者達は・・・。

「ごめんね・・・。」

「迷惑ですか?」

 泣きそうなルチルの声に、オレは振り返る。

「いや、嬉しいよ。ルチルが自分で考えて出した結論だからね。尊重するよ。」

 オレの身体がもつ限り。

「でもね、オレはルチル、君を何も籠の鳥にしたいわけじゃないから・・・だから何時でも行きたい所へ行って、見たいモノを見ていいんだからね?」

「はい!大丈夫です。それまではアルム様のお傍にいます!」

 張り切っちゃって、まぁ。

なぁ、トウマ・・・みんな、オマエがオレにくれたモノだよ。

だから、もうちょっとだけ、な?

一区切りがつくまで・・・。

「あ。」

「どうしました?」

「籠の鳥というより、ルチルには檻の中の猫の方がわかりやすかったか?」

 そうだよな、ルチルは猫っぽい亜人だし。

耳の形といい、毛並みといい・・・。

「いや、その、別に、そこまでして頂かなくても、ちゃんと通じてます・・・から。」

「あ、そう?ならいいけど。」

 通じてればいいんだ、うん、噛み合っていればな。

「ぷっ、あは、あははははっ。」

 オレの表情を見て、唐突に笑い出すルチル。

「酷いなぁ、解り易くしようとしたオレの心遣いなのに。」

「すみません、だって、あははは。」

 そんなに笑わなくても・・・。

「まぁ・・・いっか。」

 目の前の彼女を笑顔には出来たのだから。

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