エイユウと呼ばれるってコト。
オレの知るただ一人の英雄・・・。
なぁ、ディーン?
貴方はそれでも自分を裏切った親友のいる世界を護りたかったのですか?
たとえ、愛する人が残された世界で孤独に生きる事になっても?
何故、オレを・・・どうしてヴァンハイトであるオレを選んだのですか?トウマがいたから?
罪を償わせたかったから?
一体、オレはどうすれば・・・。
「あ・・・。」
目を覚ますと、オレはシルビアに膝枕されていた。
何でシルビアだとすぐに気づいたかと言えば、そこに山があるからだ。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・・。」
一度口にして出した言葉を翻すのは、本当に信条に反するのだが。
「シルビィは知っていたの?その、ヴァンハイトの事。」
それでも怖くてディーンの事は聞けなかった。
「アルム様。北の民とは大戦を起こした一族の末裔です。戦争終結後、ディアナ様に守られて過ごしてきました。」
「そうか・・・彼女は生涯独り身だった?」
「えぇ、そう伝わっています。」
ディーンの恋人だったというディアナ。
彼女は何を想って逝ったのだろう・・・。
「オレの一族は、人から奪う事しかしてないのに・・・。」
たかが神器一つで、何をそんなに。
「アルム様・・・その・・・。」
言葉を濁すシルビア。
オレは彼女の意を汲み取る。
「いいよ、言って。寧ろ、知らないでいるって事の方がもう嫌だ。」
たとえ、どんなに絶望する事があってもだ。
「神器はそもそも、力の強い北の民の命で、一族の賢者によって創られました。」
あぁ・・・人って醜いんだな。
そして、オレも。
また視界が涙で歪む。
「お話ししなかったのは、アルム様が傷つく姿を"私が"見たくなかったからです・・・アルム様にずっと優しいままでいて欲しかったから。ただの私の我が侭。」
そこにあるのは、シルビアなりの優しさ、温もり。
「オレは優しくなんかないよ。オレはただ、この血から逃げ出したいだけなんだから。」
生まれてきて良かったかすらさえ、時折思っていたくらいだから。
「アルム様はお優しいですよ。」
そう言うと彼女は泣いているオレの瞼に軽く手をあてる。
「そんなのはただの偽善だよ。」
「偽善だったとしても、皆さん、その優しさで幸せを感じています。それにそんな人は、こんな風に泣いたりなんかしませんよ。」
オレは。
オレはどうすればいい?
どうしたらディーンは認めてくれる?
赦してもらおうなんて最初から思っていない。
だから・・・。
「アルム様、罪という意味でしたら、魔人と行動を共にし世界を滅ぼしかけた北の民である私も大罪人です。」
彼女の口調は穏やかだ。
「アルム様は、私を断罪しますか?」
・・・オレは誰かに罰して欲しかったのだろうか?
それだけの為に今まで生きてきた?
「違う。オレは民が望む自由な世界を作りたかったんだ。その為にヴァンハイトという偽りの国を崩したとしても。」
新たな世界、国。
そこには種族の差別も偏見もない。
勿論、神器だって、王侯貴族のような出自もいらない。
「シルビィ、ありがとう。」
「いえいえ~。」
馬鹿だな、オレは。
残された時間も少ないというのに。
「シルビィ、アイツの狙いは何だ?神器を集めてどうする?」
その前に必ずやらなければいけない事がある。
「いや、ヤツは何処にいる?神器を取り戻す。」
「わかりません・・・ですが、恐らくディアナ様の神器を解放する事が一つの狙いかと。」
ディアナはセイブラムの出身。
法皇様もセイブラムには神器はないと言っていた。
つまり、国外の何処かにあるという事で、その為には複製神器が必要という事なのか?
「一族の中には世界をやり直す事を望む者達もいます。」
世界をやり直す?
「あぁ、確かに腐った世界だもんな。」
ディアナの想いを踏みにじり、ディーンを裏切り、犠牲と偽りだけで成り立った腐った世界。
「居所は・・・。」
「きっと、ハディラムさんなら大体の場所を知っているかと・・・。」
こんな所で寝ている場合じゃないな。
身体を起こして、立ち上がると再び目眩いが・・・。
「アルム様?!」
心配そうに近寄るシルビアと手で制す。
その手の指先が微かに震えている。
「まいったな、もうちょい頼むよ。」
再び足に力を込めて。
「なぁ、シルビィ?」
「はぃ~。」
「そんなに恋とか愛って人を狂わせるモノなのかな?」
今一つピンと来なかったりして。
「ですね~。アルム様が好きな人は、みんなアルム様が好きですから~、わかりませんよねぇ~?」
何か馬鹿にされた?
言葉の端に棘が。
絶対、鼻で笑われたカンジがしたゾ?
「そうですねぇ~。ミランダさんが、誰かに襲われたとしたら~。」
「相手をブッ飛ばす。」
「つまり~、そういうコトですぅ~。」
「・・・具体例つきで、どうも。」
何をしでかすかわからんってコトだな。
それだけは解った。
「あのぉ~?」
「今度は何?」
「もし、私が襲われても・・・。」 「全力で護ル。というか、冗談でもそんな事を言うな。」
本当、馬鹿くさい。
皇子だろうが、ヴァンハイトの血が流れようが、助けたい護りたい。
偽善だろうが、自己満足だろうが、いいじゃないか、それで。
「よし、どんどん行くぞ。」
オレは扉を開いて部屋を出ると、案内された順路を逆に辿り、最初の大広間へ向かった。
当然、シルビアも一緒に。
どうやら、私、シリアスを書き続ける力はないみたいです。(汗)
さてさて、ここからはベタ展開です。
皆さんの予想通りでも、最後までお付き合い下さいね。
日曜更新あります。