シバられる必要なんてないというコト。【後】
何者・・・その問いは難しい。
オレの中にトウマがいる事とは別に。
「自分が自分であると証を立てるって非常に難しいと思うのだけれど?」
どう述べたらいいものか。
「アルム・ディス・ヴァンハイト。ヴァンハイトの第二皇子。ここまではいいかな?」
「えぇ。」
さて・・・あぁ、外見も説明しなきゃいけないのか・・・。
「ヴァンハイトに稀に生まれる黒髪。んで、黒い瞳。」
他は・・・。
「身長はアシュリーヌさんと同じくらい。第二皇子のせいか、誰も関わろうとしないせいで、小さい頃に国内の長剣使いに師事して、まぁ、双剣も使うけど紆余曲折あって現在は長剣二振り。」
何処まで話せばいいんだ?
いい加減、面倒になってきたんだが・・・。
アシュリーヌさんは、オレの話を遮る気配はない。
つまりまだ話せという事なのだろうか?
「現在、リッヒニドスを形式的とはいえ、統治中。」
「リッヒニドス?」
あれ?何か予想だにしないところで、意外な反応。
「今はリッヒニドスに住んでる。ハディともそこで出会ったから。」
「そう・・・。」
「他に聞きたい事は?」
とりあえず答えられる範囲内なら、いくらでも答えるつもりではある。
「皇子様は何故、長剣を使おうと思ったの?」
核心を・・・掠ったくらいか?
今の質問は。
「国内で一番強かった人間が、長剣使いだったから。」
嘘じゃない。
しかし、今になって振り返ってみると、都合よくいたもんだバルドみたいな奴が。
「そう。じゃ、次で最後の質問。」
意外と質問少ないな。
だが、さっきの質問があれだけ掠ってたんだ、次は核心をつくモノが来るんだろう。
「皇子様は"黒い剣"をお持ちなのかしら?」
「は?」
良かった構えておいて。
とりあえず、理解出来ないという主張をすぐさまする事が出来た。
「何ですかソレ?」
嘘はついていないぞ~。
今は持ってないしな、うん。
「だから、"黒い魔剣"。」
拘るなぁ。
シルビアが言っていた事は、こういう事なんだろうか?
「魔剣?」
神器を魔剣扱いかよ。
いま、あの能力は魔剣といえなくはないけれど。
それよりだ。
きちんと演技出来てるよな?
「悪しき魔人の野望を打ち砕いた六英雄が神器の一つ。」
・・・子供の頃、乳母であるミランダの母に何度も聞いた話なんだが。
今、六英雄って言ったよな?
子供の頃から聞かされていた四英雄ではなく。
「皇子様はご存知でしたか?神器を創りし賢者と悪しき魔人は、同じ一族の出であるという事を。」
勿論、初めて聞く。
つまりこの地域に伝わる英雄譚は、現在一般的に伝わっているものとは違うという事か。
そうだよな、誰かが創らないとこの世には存在しないもんな。
「水の流れをも断つ細剣を白き若者に。天を衝く斧と地を砕く槍を双子の姉弟に。黎明の如き慈愛の光剣を金色の姫に。星を分かつ双ツ剣を蒼き若者に。そして・・・宵闇の如き無慈悲な黒剣を漆黒の若者に。」
神器に関する細かな部分もあるのか。
「見事魔人を討ち果たした英雄の内、二人が今もある国の祖王となりました。」
「二人だけ?」
そんなハズはない・・・。
現に英雄国家は、ヴァンハイト・クロアート・セルブ・セイブラム。
少なくとも四カ国は今も確かにある。
「ヴァンハイトとセルブ以外の国は違いますよ。どちらも英雄の一族が興した国です。」
成る程。
直系でなくとも一族なら、神器が使える可能性はある。
「さて、皇子、アナタは一体何処まで知っていて、何処のどなたかしら?」
「質問はさっきので最後では?」
この人は敵になるだろうか?
少なくともシルビアは気を許すなと言ってはいだが。
ここは乗っておくか・・・。
「アシュリーヌさんの"能力"でわからない?」
彼女がそうであって欲しいのか、欲しくないのか。
オレはどっちなんだろうな。
「・・・世界の全てが解ったら、私はこの世の全てと一切関わりを絶たなければならないもの・・・。」
理屈は理解出来るかな・・・。
「アシュリーヌさんは何を視て、一体オレに何を期待してんだ?」
「私は・・・ただ・・・彼女が愛した皇子に会ってみたかった・・・。」
「やっぱり・・・予言の力を?」
コクリと頷く。
困ったな。
「オレは正真正銘のヴァンハイト皇子だよ。」
オレがどう彼女に微笑みかけようが、彼女には見えない、届かない。
「私は生まれた時、既に盲目でした。」
真っ暗闇の世界。
最初から見る事が出来ないというのは、どういう気分なんだろう?
「だから、私が唯一視られたのはその姿だけ、その記憶だけ。」
「記憶?」
「皇子様、アナタはヴァンハイト様の記憶を視る事はありますか?」
ヴァンハイトの記憶?
・・・オレがディーンの神器を持った時のようなものだろうか?
それが出来たら、オレも是非視てみたいものだ。
視て、罵倒の一つでも言ってやりたい。
ん?そうしたら、双剣を持った兄上や父上・・・ヴァンハイトの皇王は皆、ヴァンハイトの記憶を視たのだろうか?
視て・・・何もしてこなかったというのか?
「・・・アシュリーヌさんは、自分の先祖か何かの記憶があると?」
あるとしたら、例の従者の記憶だろう。
「断片的ならば。」
本気でどういう選択肢を取ったらいいのかわからなくなってきた。
大体、敵か味方とかいう線引きが極端過ぎるんだよ、二つしかないじゃないか。
頭だって痛くなるさ、そりゃ。
「・・・アナタの質問に一つ答える代わりに、オレの質問に一つ答えて欲しい。」
「私が嘘をつくかも知れないわよ?」
あぁ、本当に面倒くさい。
オレって策士型でも、頭が良いわけでもないのに。
「逆にオレが嘘をつくって可能性もある。でも、それを考え始めたら、キリがない。でしょ?」
こう、がぁーっと叫んだり、暴れたくなったりする時だってあるんだ。
神経だってそんなズ太くないって事だ。
「予言の力を得て、誰にどんな予言を告げた?」
アシュリーヌさんじゃない誰かの事をアシュリーヌさん自身に問うというのは、多少複雑な気もするけれど。
きっと、そこが歴史の分岐点。
オレはその確信が直感的にあった。
【誰に】というのは、彼女の今までの発言から薄々見当がついている。
だからそこ、どうしても彼女の口からはっきりと知りたい。
「"双つ剣携えし者、世界を統べる王とならん"。」
ちょっぴり予想外だな。
てっきりそこにヴァンハイトの凶行の理由があるんだと思っていたんだが・・・。
「それをヴァンハイトに?」
肯定の意で頷くアシュリーヌさん。
「では、皇子。私の質問です。皇子はヴァンハイト様のご記憶は?」
「悪いが無い。オレは国を継承する気はないから、神器にすら触れた事もないし、そんなモノを夢で視た事すらない。」
「そう・・・ですか・・・。」
寂しそうに顔を伏せる彼女を見ていると、何故かイライラする。
自分だって同じようなもんなのに。
他者の記憶で歩みを変えた者としては・・・あぁ、同じようなもんだから、イライラするのか。
「オレはね、アシュリーヌさんが、オレの長年の疑問に答えをくれる人だと思ってる。」
「皇子様?」
「オレはアナタの皇子様になれない。祖皇ヴァンハイトじゃないしな。同じようにアナタだって、その最初の予言者でもなんでもない。」
それでも自分で選んで、望んでこの道を決めた。
正直、それでも振り回され過ぎだよな、オレ達は。
「本当はシルビィにも、アナタを安易に信じるなと言われてるんだけれど・・・・やっぱり、オレはどうせなら信じる側にいたいんだよね。」
解っていても、それでもどちらの側にいたいかと聞かれたら、さ。
「アシュリーヌさん、ヴァンハイトは何故、親友を、仲間を裏切った?」
思わず目の見えない彼女を睨む。
これに答えが出たとしても、何が変わるワケでもないのはわかってる。
あぁ、本気で地位と国を捨てる決心がつくくらいかな。
ある意味、すっきりするだろう。
「・・・。」
「どうした?」
彼女は答えるだろうか?
それとも嘘をつくだろうか?
たとえ嘘をつかれたとしても確認のしようがないしな。
だが、歴史に記載されていない事を、オレも彼女と同じように述べたんだ。
出来れば答えて欲しい。
「全ては愚かで哀れな女のせいです。」
女?
「予言の力を手に入れようと思ったのも、その為。」
「それがどう・・・。」
整理しきれるだろうか?
「愛しきヴァンハイトの為に力を得、そしてその力を使った。」
「愛しき・・・?」
「でも、"私の想い"は決して届く事は無かった。彼はディアナを愛していたから。」
ディアナ?
新しい登場人物だ。
「でも!私はどうしても愛しい彼に自分を見て欲しかった!だから!」
記憶が混濁している・・・のか?
アシュリーヌさんの顔には狂気と悲痛さが漂っている。
彼女もオレと同じでのめり込んでいるのかも知れない。
変えようもない歴史という名の過去の記憶に。
「考えてみて、双つ剣が何なのかを。」
そりゃ、それをオレに聞いたら答えは一つしかない。
「ヴァンハイトの双剣・・・。」
真っ先に浮かぶよな?普通。
「そうよ。でもね、ディアナ・セイブラムは、ディーン!"アナタ"を愛していたんだもの!」」
その言葉を聞いた瞬間、オレは自分の剣の切っ先を彼女に向けていた。
そして、すぐさま冷静になって、握った剣を投げ捨てる。
「下らない・・・下らな過ぎるよ・・・。」
悔しくて涙が出てきた。
混濁しているのは、彼女ではなくオレの方なのかも知れない。
「下らない?!愛する者の為に生きるのが?!」
「そうじゃない!どうして皆、そうなるんだよ!・・・どうしてそんなに傷つけあってまで・・・。」
ディアナとディーン。
神器を持つ二人の間に、もし子供が生まれたら・・・その子は、"双つ剣"を持つ事が出来るかも知れない・・・。
「結局、同じか・・・オレもヴァンハイトだしな・・・この血は呪われている。」
何が世界の王だ!
予言なんて不確かなモノに踊らされやがって・・・。
「アシュリーヌさん。」
オレは彼女に何を言えばいいのだろう?
彼女の名を呼ぶだけで精一杯だった。
扉が開き、オレ達の叫び声を聞いて部屋に入ってくるシルビアが、オレに駆け寄って来てから後は、何も覚えていない。
今回も土日更新アリマス。