メイワクセンバンというコト?
徒歩行軍二日目。
さっきからずっとハディラムは、『あと少しで着くわ!』を繰り返して、クラム以外の皆の顰蹙を買っている。
昨夜の狩りから帰ってきた後、ルチルは何事もなかったかのようにオレに接して・・・むしろ、前より自分から声をかけてくるようになった。
一体、狩りの間にどんな心境の変化・整理をしたのだろうと、それとなく聞いてみても、彼女は微笑むばかりだった。
仕方なくハディラムに・・・本当に仕方なく聞いてみたのだが。
『日頃の行いや。』と、まぁ、こんな調子で・・・。
オレには何が何やら。
いや、結果的には良い方向なんだけど、釈然としないわけで。
「アルム様~、女の子は複雑なんですよ~。」
シルビアからはそんな一言を満面の笑みで頂いたのだが・・・。
「何ら問題が解決していないんだけど?」
「大丈夫ですわ~。」
ナニが?
恐らくこれ以上突っ込んでも何も変わらないだろう。
「アルム~、あと少しで着くでー。」
「それ、さっきから聞いてる。」
なんだっけ、人の声を真似する鳥。
オウムだっけ?
「いや、今度は本当に本当。ホレ。」
そうハディラムが言った途端、目の前の視界が開けてゆく。
「うわぁ。」
ルチルの感嘆の声。
更に進むと、その全貌がわかる。
少し濁った色の岩が高く積み上げられた壁。
きっと街をぐるりと囲んで要塞の役目をしているのだろう。
そして大きな門が。
「あん?おかしいな。」
ハディラムが呟く。
「確かに大門が開きっぱなしというのは、気になりますね。」
開かれた門。
その奥には遺跡のような円球形の屋根をした白い・・・あれが王城だろうか?
距離が遠くて微かだが、それが見える。
「それは何かあったって事か?」
大型の野生動物が群れで・・・って、大型は基本的には群れないか。
「わからん。」
距離もあるしな。
その距離も詰めていいものだろうか。
「しかし、門が開いていても中の皆の姿は見えますから・・・。」
確かに、門の向こう側の建物の前には人々が行き交っているのが見えるが・・・。
「あれ?なぁ、ルチル?」
オレはルチルを手招きする。
「なんでしょう?」
「ルチル、目がいいよね?」
ダークエルフが夜目が利くように、獣人・亜人は様々な感覚器官が発達している。
「あそこ、門の上辺りに人影があるように見えるんだけど・・・。」
「えぇと・・・。」
人だよなぁ、どう見ても。
銀剣の力がまだ身体に残っているせいか、感覚が少し鋭敏だ。
「みたいです。えっと・・・女の人が一人と・・・あっ、こっちに手を振ってます。」
手を振ってるって事は、敵ではないという事だろうか?
いや、危険を知らせているのかも。
安易な判断は良くない。
「すっごい笑顔です。」
そこまで見えるのか、凄いな。
「薄紫色ですかね、そんな服の銀髪の・・・。」 「銀髪の女やて?!」
突然叫び出すと、ハディラムが猛然と門に向かって走り出す。
「あ、オイ!ハディ!」
よく理解出来ないまま、俺もハディラムの後を追って走り出す。
ハディラムの方が先に走り出したのだが、どうやらオレの方が足が速いようだ。
少しずつ距離を詰めていける。
「なさーいっ。」
声?
「なにやってんだぁ・・・ッ!」
走っている最中に叫ぶハディラム。
叫んだ分だけ更に開いていた距離が縮まり、ようやく横に並ぶ。
一体なんなんだ?
「ハディーッ!」 「いいから降りろー!」
ん?
さっきから聞こえるのは、例の女性の声か。
オレにもはっきりと見える。
ルチルが言ってた通り、薄紫のヒラヒラした服を着た銀髪の女性が手を・・・あ、両手になった。
ぶんぶんとこちらに手を振りながら、ぴょんぴょんと跳ねている。
「だあぁぁーッ!」
ハディラムが一際大きな声を上げた瞬間、女性の身体がグラリと傾く。
「くッ!」
すぐさま大きく呼吸を吸い、止めて完全無呼吸状態でオレは更に加速する。
そのまま女性の身体を投げ出されたのを視認すると、あとは目標の落下地点へ。
強い衝撃で骨などを折らないように落下の力を、オレが飛びつく方向に転換する。
そのまま落ちてくる女性を抱え込み・・・ごろごろと。
そりゃもう盛大に。
その女性をなるべく傷つけない事だけを考えて・・・オレが痛いのは・・・人間、優先順位をつけると、こういう事もあると思考を放棄。
ひたすらぐるぐる。
呼吸を止めていた息苦しさと、回転する身体に伝わる痛みと、もうなにがなんだか・・・。
気を失わなかっただけ褒めてくれ・・・あと吐かなかった事も・・・いや、本当に。
「ぶはっ・・・。」
たっぷり転がった勢いが止まると、すぐさま呼吸を再開。
「あはは、びっくり、落ちちゃった。」
もぞもぞとオレの腕から這い出た女性の笑い声。
「ハディがいて助かっちゃわね、ありがとうハディ。」
「ぅぷ・・・そのハディ君なら、後ろにいますよ。」
もうダメ、これで精一杯。
力尽きて大の字で倒れたオレに馬乗りになった女性。
ふと、彼女の瞳に光がない事に気づく。
・・・盲目なのか?
「いや、本当、何と言うか・・・すまん。」
肩で息しながら、ハディラムがげんなりとして頭を下げる。
「全く女性が空から落ちてくるなんて馬鹿な事は人生ではじ・・・二度目か。」
エスリーンさんという前例がアリマシタ。
「あら、皇子様に助けられちゃった♪」
その女性は虚ろな気な瞳でそう言うと、可憐に破顔した。
またまたブッ飛んだ女性の登場・・・いや、多分、新キャラはこれで最後かと・・・多分・・・(トオイメ)