ユウクを覚悟に変えてってコト。【後】(ルチル視点)
狩りの為に移動の最中、私の頭にはさっきの皇子の言葉が離れなかった。
どうして皇子は、あんな事を言ったんだろう?
「気にすんな。」
「え?」
前触れなく一緒にいたハディラムさんが声をかけてくる。
「いや、あー、気にすんあっちゅーのは無理か。でもな、多分アルムは嬢ちゃんだから言ったんだと俺様は思うで。」
チラッと彼を見ると視線は前に向いたまま。
何て返したらいいのか、私にはわからなかった。
「アルムは本当に馬鹿正直で律儀やろ?だから自分のした事の全部に責任を取ろうとする。そうしないとやっていけんのやろ。」
亜人を殺してしまった事への償いの為に、あんな事を私に言ったのだろうか?
だとしたら私は・・・。
「どうしたらいいんだろう・・・。」
「どうしたら?」
ぴたりと歩みを止めて、ハディラムさんは私を見る。
「そんなん、アンタの勝手やろ?好きにしたらいい。」
そう言い切った後、頭を掻いてから。
「あー、ただな。アルムの言葉・行動見てて何も思わへんか?」
下を向き、つま先で草を蹴り、私をじーっと見つめてくる。
「俺様は会ってからそんな日が経っているわけやないから、アレやけどな。あの皇子らしくないアルムが、何の理由もなく誰かを傷つけるような奴に見えるか?少なくとも俺様には見えんし、思えん。」
皇子との時間は、私もハディラムさんも大して変わらない。
ううん、ほとんど同じと言っても構わない。
「私にも・・・見えません。」
初めて挨拶した時の抱擁、喜び。
ことあるごとに私を撫でる手。
「それにな、アルムに出会ったヤツ、アルムの事を知ってたり理解しようとする皆、笑うんや。皆、笑顔やった。」
そう言われてみると、皇子と会う人、皆笑顔だ。
私も含めて。
「誰かて・・・秘密の一つや二つあるもんや。人に言えない事がな。それでも嬢ちゃんの顔を真正面から見たかったんやろ。ちゃぁんと向き合いたいから、アルムはそうしたんだと思うで。」
皇子は常に分け隔てなく優しい。
ダークエルフも、亜人も関係なく。
「皇子は・・・。」
「ん?」
「一体、何を目指しているのでしょうか?」
皇子の求める理想は?
「ん~、俺様はアルムじゃないからわからん。でもきっと、何かを皆で目指したとしてな、痛みを誰かが受けなきゃならんとしたら、それは先頭に立つ自分ってコトなんじゃねぇの?そういうトコは皇子やな。」
「私はそれをお手伝い出来るのでしょうか?」
膝枕された時、とても驚いたけど嬉しかった。
「は?嬢ちゃん、頭、大丈夫か?もうとっくに手伝っとるぞ?アルムの騎士団なんやし。」
「あ・・・。」
「そのままで居りゃ、嫌でもアルムの為になる。」
そうだった。
私が出来る事は、皇子の騎士団の一員でいる事。
「あ~、あとな、出来るだけアルムに笑いかけてやるこったな。」
「笑う・・・。」
皇子は周りの笑顔を見るのが好き・・・。
「ハディラムさんは意外と優しいんですね?」
「い・・・意外って・・・まぁ、外見がキツそうに見えるっつーのは否定できん。」
言い方が悪かったかな?
「俺様だって、アルムの秘密は気になるし、信じられん部分もある。でも、アルムが悪い奴じゃないってのもわかるからな。」
結局、そこなのかも知れない。
皇子の優しさは色んなモノの裏返しなのかも。
でも皇子の考えが、政策が、私達亜人の選択肢を増やした事には変わりないし、私が今こんな所まで旅をして、色んなモノを見られるのもそのお陰。
「さてと、さっさと狩りをすませんと。二人で五人分は大変やし。」
屈伸運動をし始めながら、ハディラムさんは私に片目をつぶってみせる。
「ですね!あ、でも、大物だったら一匹で済むカモ。」
私の発言に一瞬首を傾げ、おぉっと小さな声が上がる。
「そのテがあったな。労力の問題はあるが・・・その方向で、いっちょ行こか!」
そう言うとハディラムさんが突然走り出したので、私も慌てて後を追った。