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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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ユウクを覚悟に変えてってコト。【前】

「アルム?オイ、アルム!」

「え?あ、悪い、何?」

 一晩明けて、早朝オレ達は樹海に向けてひたすら馬を進め、樹海に入ると馬を引きながら徒歩で進んだ。

樹海の好き放題伸びきった木々に、馬が足を取られて転倒しかねないからだ。

それくらい樹海に自生している木々は凄かった。

大抵の草はオレの膝近くまで背丈があり、常に薄暗い。

樹木のうっそうたるや。

これなら、成長速度が通常の数倍というのも頷ける。

「大丈夫か?今朝からぼーっとしてからに。何だ?昨日の晩、あの姉ちゃんと男女のっ、ぐほぉっ。」

「それ以上、馬鹿な事を言うと蹴りますよ。」

 顔面からハディラムが草むらに突っ込んだのは、クラムの蹴りのせいではなかったのか。

腰の辺りに見事に足の裏が突き刺さった気がした・・・のは、気のせいと。

「あにすんだ!」

「もう少しで中継地点の小屋に着くので、今日はそこで一泊致します。」

「無視すんな!」

 ギロリとハディラムを睥睨するクラム。

「アンタに構ってたら、時間が無駄になるのはわかりきってますから。」

「ぐぬぬぅ~。」

 そこで言い返さないというか、言い返せないのが全てを物語ってるな。

「悪いな、ハディ。ちょっと考え事しててな。」

「アルムは気苦労が多過ぎだ。」

「アンタは物事、考えなさ過ぎです。」

 考えていたのは、昨晩の事だ。

弟から姉への告白の後、姉の反応はただ一言。

『どうしてアル君が・・・。』だった。

同じ布団の中で泣き出す姉に更に言えた事は、諦めず精一杯生きるという宣言だけだった。

こんな事なら、姉と呼ばなければ、打ち明けたりしなければ良かっただろうか?

そう素直に述べたら、笑って否定された。

そして逆に元気づけられてしまった。

女は強いな。

「ちくしょぉ・・・アルム、小屋に着いたら狩りに行こうぜ。夕食用の。」

「狩り?」

 そういえば、そんな事をした事なんてなかったな。

「・・・はぁ、皇子っぽくないとは思ってたが、狩もしたコトないって・・・貴族の嗜みやろ?」

「あはは・・・。」

 貴族自体に否定的だったせいか、貴族の嗜みってヤツは一切興味なかったりして・・・。

「人を殺したら事はあっても、狩りはした事なしか・・・どんだけだよ。」

「関係あんのか、ソレ?」

 ハディラムの呆れ方は別としても。

「狩りの方がどうやってもマトモやろ?殺すには変わりないがな。あぁ、確かに生きる為に殺すっちゅーのは同じか。」

 だが、両者には明確な違いがある。

「きっちり食うてやらんとな、狩りの場合は。」

「そうだな・・・ルチル!」

「誰だって好き好んで殺すワケちゃうもんな。」

 オレが呼ぶと、素早い身のこなしでルチルが近寄って来る。

森育ちの亜人である彼女にとっては、この程度は特に苦ではないのだろう。

「オレは確かに修行の時、誰かの為の剣を習った。それは裏を返せば誰かを傷つける剣だ。」

 ゆっくりとルチルの頭に手を置く。

きょとんとしているルチルに応える事なく。

「だから、躊躇いはないつもりだ。今までだって必要ならば人を傷つけてきた。そして・・・最後に殺したのは亜人だよ。」

 昨晩に続いての告白。

「・・・・・・そうやな。好き好んで殺し始めたら、ソイツはもう"人"じゃなくなっちまうしな。」

 ハディラムが呆れた視線でオレを見ながら肩を竦める。

「アルム・・・さま・・・。」

 固まるルチルの耳のつけ根をオレは撫でて、手を離す。

あとはルチル自身が判断する事だ。

具体的には、これから先どうするかを。

「全く、馬鹿正直なやっちゃな。皇子の枠からは盛大にはみ出してるな。でも、どう見ても人の枠からはみ出しているように見えんて、アルムは。」

「ハディ・・・。オレは覚悟はしている。」

 同じように誰かに殺される可能性を、オレは否定しない。

小さな亜人をぼんやりと見つめる。

例え、それが彼女だったとしてもだ。

「アホ。そんな覚悟すんな。あ~あ、んじゃ嬢ちゃん、夕食の狩りを手伝えや。」

 ルチルをびしぃっと指さすハディラム。

逆にオマエはもうちょっと人としての礼儀を覚えた方がいいぞ。

樹海の王なんだろ?

「私っ?!」

「しゃーないやろ?アルムが狩り出来んのやから。」

「悪かったな。」

 そこは本当、申し開きしようもない。

出来ないものは出来ないからな。

まぁ、やり始めれば多少は出来ると思うが、そんな時間の余裕もお腹の余裕もない。

今回は諦めて、二人に頼む方がいい。

「ほら、行くで!あとで小屋で合流なーっ!」

「あっ、待って下さい!」

 早々に二人は樹海の奥へと姿を消す。

早いな・・・夕飯、期待出来そうだ。

「重ね重ね、すみませんね、皇子。アレは脳で考えずに発言する傾向がありますから。」

 微笑みながら謝罪をするクラム。

なんだかんだ文句・罵倒するけれど、きちんとハディラムを補佐しているし、支持している。

「ハディは優秀な補佐官がいて幸せ者だね。」

 優秀な人間が自分を助けてくれるのは、ありがたい事だ。

特に自分にないモノを持っていたり、自分より優秀なら尚。

「皇子の周りの方々には負けますよ。」

勿論、日曜も更新あります。

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