キドアイラクも愛情のウチというコト【後】
セイブラムの城下の宿で夜を越す事になったのだが・・・例の約束の手前、オレとエスリーンさんが同室。
リディア先生とシルビアとルチルが同室。
クラムとハディラムという部屋割り。
ルチルはリディア先生の護衛とオレの貞操の為に部屋に待機している。
その為、部屋は全て隣室にした。
「で、何の為の部屋割りなんだろう、コレ。」
部屋の中は寝台が二つ。
簡易の水浴び場がある。
宿としては、中級以上だ。
水浴び場といっても大きな水甕のみが、でーんっと置かれているだけなんだがな。
「さっぱりしたねー。」
一般的な麻の夜着を身にまとったエスリーンさんが、髪を拭きながら水浴び場から出て来る。
久々に普通の夜着を着た女性を見た気がする。
「砂漠越えをしたから、余計に気持ちいいですよね。」
ちなみにオレは先にさっさと全身を拭き終わっている。
途中、何度か手伝おうかと聞かれたが、その度に丁重にお断りさせていただいた。
「ねぇ、アル君、何でそんなによそよそしいの?昔はもっと偉そうだったのに。」
「そうでした?」
「う~ん、尖ってた?」
確かに少し荒んではいたか。
「それはそれで失礼というか、無礼というか。」
礼節って大事だよね。
例え、こっちの方が位が上でも。
「でも、今より昔の方がいいかなぁ。他人行儀に感じるし。」
他人ではあると思うのだが。
「そういうものかな・・・。」
「うんっ、そういうモノよん。」
にっこりと笑いながら、俺が座る寝台に腰掛ける。
「んっ。じゃ、話して。」
両手をオレに向かって広げるエスリーンさん。
「何を?」
「なんでも!私が外に出て、アル君の傍にいなくなってからのコト、全部!」
全部・・・か・・・。
全部話せと言われて、全部話せない人生て・・・暗い人生だな、オレ。
「全部かぁ・・・首都の城にいた時は、多分エスリーンさんがいた時と変わらないよ。」
なるべく丁寧な言葉遣い、彼女で言うところの他人行儀な喋り方をしないように。
「毎日、一定以上の自信がつくまで稽古してた。」
ディーンの剣を手に入れた後に出会ったはずだから、これで間違いはないはずだ。
「ある日、城から抜け出られそうな口実を見つけて、リッヒニドスに向かう事になったんだ。」
そこで色んな人に出会った事。
初めてダークエルフを見て、結局外見以外は何も自分達と変わらないってわかって、歩み寄れた事。
リッヒニドスを悪政から解放して、改革をして、兄上の命で学舎に行って、亜人や他国の人と触れて・・・。
そして初めて、殺意も敵意もなく誰かの命を奪った事・・・。
そう話した時のエスリーンさんは、酷く哀しそうな表情をしていた。
それで民の為の騎士団や施設を作ろうと思って奮闘した事、それによって首都やセイブラムに来る事になった流れ。
中身だけは濃いオレの日々の全部。
「・・・そう。アル君は頑張ったのね。」
優しく頭を撫でられる。
誰かに上からの目線でそう言われる事に抵抗がないわけじゃないけれど、その撫で方は酷く安心する。
「ごめんね・・・。」
何故、今、オレは彼女に謝られたのだろう?
「アル君が大変な時に傍にいられなくて・・・。」
「別に・・・確かに大変だったり、辛かった時もあったけれど・・・。」
冷静に省みると、だ。
「そこで手に入れられたモノは、全部アルムという人間のモノだから。」
出会った人の全てが、オレを皇子と見ていたわけじゃないし、ましてや第二皇子という肩書きというわけでもない。
「ううん、そうじゃないの。私ね、修行を何時も頑張っているアル君に、何時か認めてもらおうって思ってたの。」
「認める?」
「そ。強くなって、アル君を力で助けられる"お姉ちゃん"になろうって。」
「どうして?」
彼女はどうしてそう思ってくれたんだろう?
「だって、それ以外の事はミランダがいるでしょう?だから、アノ女には出来ない事でお姉ちゃんになってやろうって。」
そういう意味で聞いたつもりじゃなかったんだけども・・・でも、素直に嬉しい。
「どうしてそんなにお姉ちゃんに拘るのかよく解らないけど、でも・・・ありがとう。」
自分の事を少しでも考えてくれる、想ってくれる。
オレにはそれが何よりも大事。
「でも、これじゃ、お姉ちゃん失格だね・・・折角強くなったのに・・・。」
強くなる程度が激しいと思うのだが、逆に考えればそこまで強くなれば、誰も文句は言うまい。
「大丈夫。本当にありがとう。"エスリーンお姉ちゃん"。」
記憶には無いけれど、きっと今の彼女は、オレが胸を張って姉と呼べる存在に違いない。
「アル君・・・。」
ゆっくりとオレを抱きしめ・・・めっ・・・めぇ。
「ぐるっ・・・ぐ、じぃ・・・息・・・息・・・が・・・ぃ・・・。」
やっぱりグランツだ、この人・・・。
「あ・・・ごめん・・・。」
危うくそのまま肋骨を、いや命そのものをヤラれるところだった。
「ねぇ、お姉ちゃん?」
「な、なぁに?」
いざ、言ってみると、照れるな・・・ミランダを姉と呼ぶのも年々少なくなっていたし。
「今日は、一緒の寝台で寝ようか?お姉ちゃん、寝相悪くないよね?」
それでなくとも寝呆けて一発。
て、だけでさっきの攻撃(?)からして致命傷になりそうだ。
「うんうんうんうんうんっ!」
首が今にも転げ落ちそうな勢いの彼女を見ていると、吹き出しそうなる。
意外とミランダとも似たところがあるみたい。
「良かった。」
色んな意味で。
そして、オレはもう一人の姉に秘密にしている事を一つだけ、寝台に入って横になっている姉に打ち明けた。
・・・何、この環姉ぇみたいなキャラ(トオイメ)
パブロフの犬という単語を思い出したよ。
土曜更新あります。