サクソウするのは誰の想いってコト?【後】
「・・・法皇様?」
何かおかしくないか?
「何かね?」
オレだからか?
ハディラムは何とも思ってなかったみたいだし。
「法皇様の杖、本当に"セイブラムの神器"ですか?」
以前、リディア先生が言っていた。
複製された神器の原型は、法皇様が持っていると。
じゃあ、オレが今見ているアレが、本物の神器?
「どうしてそう思ったのかね?」
「理由・・・直感ですかね。オレにはどうもそれがそうだと思えなくて。」
どう見ても・・・今まで見た神器と違う。
相対する時の存在感というか・・・。
神器それぞれに受ける印象も違うんだ。
圧迫感だったり、存在感だったり。
でも、これは。
「ただの他の複製された杖と同じ物にしか。」
「多くの神器と触れてきた皇子の勘か・・・。」
触れてはいないけれど。
だって痛いの嫌だし。
「いえ。」
「先程の査問会、皇子は平然と杖を持っておったしの。」
マズいかなとは思ったんだけれどな。
ハディラムは槍を持たなきゃいけなかったし、拒絶反応もあるから、あの役割分担は仕方ない。
「そんな皇子にちょっとした贈り物をしたくての。」
そう言って部屋の中へ歩みを進める。
オレの質問に答えはない、か。
「余も少し老いたかの・・・皇子、君の言った通り、これも複製神器だ。この国には"神器など存在せん"。」
嫌な予感が、汗となってオレの背を流れる。
「盗難という事ですか?」
まさか、アイツは既にここまで・・・。
「元来、ここにはないのだよ。だからの複製神器だ。そして、これを君に贈りたい。」
神器の話はここで終わりという事らしい。
彼はオレを促す。
部屋の中央を囲むように立つ四本の燭台。
「さぁ、奥に入って"アレ"を見てみるといい。」
確かに明かりが暗くて、奥に入らないとしっかりと見られない。
仕方なく部屋の奥へ行って、目を凝らすと・・・。
「鎧?」
ぽつんと置かれている物体の正体は鎧。
漆黒の鎧の胴体部分だけがそこにある。
「これって・・・。」
相当の年代物であろう事は、オレにも理解出来る。
けれど・・・これは・・・。
思わず自分の足元を見る。
色といい、形状といい・・・オレの具足と意匠がそっくりだ。
どちらがどちらを真似たのか。
或いは、どちらも同じ者が作ったのか。
「何故、これだけがこんな所に・・・。」
普通、鎧なんて部位ごとに分解しておくなんてないだろう?
売るにしたって部位より一式の方が高く売れる。
この状態で保管されるなんて・・・。
「皇子には・・・今の世界はどう見えるかね?」
驚いていたオレの背後から問いかけられる。
いきなり世界と問われてもな・・・。
「どうでしょうね。オレだって世界の全てを見て回ったわけじゃないから。」
世界は広いという事だけは理解しているけれど。
「結局、世界を面白くするのも、腐った世界にするのも自分次第でしょう?オレはその為の努力だけは惜しまない事にしたんで。」
奴隷、人種差別。
オレにはそんなのは通用しないし、認めない。
そうする事が出来るかも知れないと、今はそう思えさえする。
「皇子には・・・アルムという人間、それ自身に力を貸して、支えてくれる者達がいるという事なのだろうな。皇子という地位には関係なく。」
優し気な瞳をしてオレに笑いかける姿は、ただの老人にしか見えない。
生憎オレの記憶に祖父という存在はないが、いたとしたらこんな感じだったのだろうか?
「誰かに支えられ、必要とされ、そしてそれに応えるべく前に進む。"皇王"としては十分じゃな。」
は?
「法皇様、失礼ですが、オレは第二皇子です。神器の双剣も継承出来ませんでした。」
そんな人間が皇王になれるものか。
兄上は全ての要件を満たしているというのに。
それにただでさえ、オレは・・・。
「試してみたのかな?例え、後の世にどのように言われようとも、己のやるべき事を成す。それがヴァンハイトの血というものだ。」
「まるで会った事がおありのようですね。」
あるんだろうな、コレはきっと。
そういえば、具足はリッヒニドスで手に入れたんだっけ。
スクラトニーの私物だったのかも知れないけれど、リッヒニドスの城は元々、皇族の居城だった。
もしかしたら、そこに関係があるのかも知れない。
「少しでも皇子のこれからの旅、その前途が良きモノであるよう、降りかかる災厄から自身の安全を願って・・・使ってやってくれ。」
性能は保証すると法皇様は言葉を続ける。
そりゃあ、この具足と同等の物なら、良い物に違いないだろう。
「・・・ありがたく使わせて頂きます。」
裏にどういった事情があるとしても。
「うむ。では・・・。」
法皇様は自分のゆったりとした服の袖を捲くる。
「さて・・・"治療"をしようかの。」
何もかも視透す微笑みに対して、オレはゆっくりと頷いた。