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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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アップクに屈するワケがないというコト。【後】(セイブラム法皇視点)

 黒髪と黒い瞳を持つ少年の微笑みに目を細める。

遠い昔の事を思い出したからだ。

ヴァンハイトの先代・先々代もこの黒髪だった。

顔は似ていないが、あの日に見た皇子が目の前にいる。

そんな錯覚さえ感じてしまう。

若かりし事の日々、それを回想している最中に査問会が始まり、彼がしきりに彼女に非はないと訴えている。

しかし、それに耳を貸そうとする者は、ほぼいないだろう。

何時からこの国は体裁だけを取り繕うだけになってしまったのだろう。

「ですから、今回の事は人命を優先した結果なのです!」

 少年は至極真っ当な主張をしている。

だが、そういう真っ当さ、誠実さだけで国が動く時代は、とうの昔に終わってしまったのかも知れん。

周りの枢機卿達も口々に異を述べているのがその証拠だ。

「と、まぁ、前置きはこんなところで。」

 ん?

「前置きで済んだら、楽だなぁと思ってたけれど。どうでしょう?リディア枢機卿の地位剥奪とか、国外追放辺りで手を打ちませんか?」

 うぅむ・・・余りに正論かつ妥当な要求だ。

「国の象徴たる杖を盗難されたのだ!」 「全く国外事業などと下らぬモノにうつつを抜かすから・・・。」

 正論過ぎると反感を持つのが大人の汚いところなのかも知れんなぁ。

「う~ん、宗教国家とかいうのに幻想持ち過ぎたかな?所詮、この程度か・・・まぁ、人の命より物の方が大事ってんなら、それはそれ。」

 少年がニヤリと笑う。

「オレもやりやすくていいや。」

 遠い昔、同じような笑みを見た事がある。

色味以外の外見は全然似てないというのに・・・この笑みを見て、ロクなメに合った試しが無かった。

"あの笑み"だ!

「んじゃ、物と人の命の交換でもするとしょうか?」

 少年が隣にいる男が背負っていた棒状の布を取る。

「ここにもう一本杖がある。ちょっと前に砂漠で退治した砂賊から取り返した物だ。あぁ、襲われた枢機卿の人相書きを取ってあるから後で見せよう。」

 人の命より物の方が大事ならば、物をくれてやるから、命を寄越せと・・・。

しかし、その杖は元々、我が国の物なのだがなぁ。

「オレにとっては物より命が大事。いいハナシだと思うけど、どうする?」

 沈黙の後、何人かの衛士が武器を構える。

「がっかりやな、色んな意味で。」

「ハディ、そう言うなって。」

 この緊迫した状況でも二人は動じない。

はったりや強がりの類いか、或いは余裕の表れか・・・。

「思い通りにならんと、こういう方法を取るわけや。だから言ったやろ?」

「だな。いいよ、やれば?但し、死ぬ気で。まぁ、やっても何も得られないから。この杖もブッ壊すし。」

 杖を壊・・・す?

「はったりだ!惑わされるな!」

「あ、そ。そう思うんならいいよ。オレは困らないもん。物より命の方が大事って言ったから。な?ハディ?」

 そう言って、隣の青年に目配せをすると、青年は包みを広げ杖と一緒にあった槍を手に取る。

「所詮は神器の複製でしょう?なら、"神器"には敵わないよね?」

 少年は無雑作に杖を掴む。

どうやら、上から目線で相手を見下し、面子に拘るばかりで落とし所すら見失ってしまったようだ。

「それが神器だと言う証拠は?!」

 半狂乱の叫び声が上がる。

「あ゛?んなもん、俺様がこの杖をブッ壊しゃわかるだろ?」

「体裁の為、たかが杖一本の為に、アンタ達は命を蔑ろにしてもいいんだろ?"自分達の命"だってそうなんだろう?」

 もう一度ニヤリと少年は笑う。

やはり、ロクな事にならん。

"人の命を助ける為には手段を問わない"

それが彼の行動基準の一つという事か。

危うい純粋さで済ませられないな。

「あぁ、そうそう。オレ達を殺しても、アンタ達の体裁は取り繕えないからね?」

「下手すりゃ、この国も亡びるやろな。」

 若いというのは、何事にも勢いがあっていい。

自分自身、こんな事を言われる側だったら混乱するのは否めないが、ある一点気づけば何の問題もない。

少年が"杖を持てている"という事実にさえ気づけば。

いくら複製とは言え、神器は人を選ぶ。

特に我が国の神器は、"争いを好まない矛盾"を持っている。

例え、枢機卿の様な器は大丈夫でも、あんな事を本気で言うような少年に従うわけがない。

「我が名はアルム・ディス・ヴァンハイト。グランツ一門の末弟にして、ヴァンハイト皇国第二皇子。」

「あぁ、ついでにコイツ、クロアートのお姫さんと婚約してるらしいで?アルムを殺したら、クロアートもヴァンハイトもグランツも敵に回すってコトやな。あ、俺様はハディラムな。」

 手に持った槍を高々と天に掲げる。

間違いなく神器だ。

「神器を携えし、東の樹海の王。ウチの部下もなかなかヤルで?」

 神器を持つ近隣三方を敵に回し、杖を更に失い、最悪、国も命も失う危険性を犯して我等が得るのは、面子とリディアの命。

第一、確実に"グランツの坊や"は落とし前をつけにくるだろう。

損得勘定をする以前の問題だ。

彼等は最初から証言も、交渉さえもする気は無かったのではないだろうか?

有り得る。

あの笑みが出来る皇子だ、そんな事を考えついてもおかしくはない。

「リディア枢機卿の地位剥奪と国外追放辺りで、杖は無事に返して頂けるのかね?」

 少年・・・アルム皇子に問う。

「先生が無事なら問題ない。あとオレ達も。」

「ふむ。わかった。好きにするがいい。嫁にでも妾にでもしてやってくれ。」

「は?」

 積年の恨みを込めて、返してもいいだろう少年?

「まさか、君がそんなにリディア枢機卿に執心だとは。想い人を救う為に自分の身さえ投げ打つ。その献身ぶりに感動しての裁きだ。」

 今度はこちらがニヤリと皇子に笑う番だ。

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