エてして皇子らしくないってコト。【後】
「あ、ハディ!待て!」
オレの警告も空しく、ハディは杖に触れてしまって、案の定拒絶反応の一撃を食らった。
「だから止めたのに・・・。」
人の話を最後まで聞いてからでも、遅くはないと思うんだけどなぁ。
「あんなぁ、そういうのは警告としての意味を成さへんて!」
「ハディが無用心なんだろ?」
全く。
亡くなった方はリディア先生の件を知っているようだった。
だから、オレに杖を託したという事だろう。
とはいえ、やっぱり緊張するのはどうにもならない。
でもまぁ、埒があかないし、この杖をここに放っておくわけにはいかない。
「って、オマエ!」
溜め息をついた後、意を決して杖に触れる。
・・・この杖も大丈夫みたいだ。
多少、手に平がじんわりと温かいというか、熱い感覚はあるが、以前程痛みを感じない。
「何でや・・・。」
「オレは前に一度、同じヤツに触れた事があるから。多少、耐性がついてる。」
ハディラムの疑問にオレなりに答えたつもりだったが、自分でもきちんとした説明になっていない事に気づく。
「おかしいやろ!」
あ、やっぱり?
「触れる者を選ぶんやったら、最低付与持ち、拒絶反応まで起こすんは神器とそう大して変わらん。でも、そのじじぃはセイブラムの人間なんやろ?なのに何でそんなモンをヴァンハイト人のオマエが触れられるんや?!」
まぁ、そうだよな。
オレが触れられる可能性が一番高いのは、ヴァンハイトの双星剣になるわけで・・・。
実際、オレの中では触れられる可能性が一番低いと思ってる神器なんだけどさ。
さて、なんと説明したらよいのやら。
「正確に言うと、これは神器を模した複製品ってヤツらしい。セイブラムは血統による継承をしていない国だからな。そういう意味で、ある一定以上の位の人間が有する物だそうだ。」
・・・さっきの説明よりマシか?
「だからって、なんでオマエまで持てるんだ?」
全く以ってその通りだ。
「これはオレの調べた結果だが、神器は血統ではなく魂の質で使うものらしい。」
「魂の質?」
「血統による継承は、その方が初代の持ち主に似た魂の質を持った人間が産まれ易いって事だ。」
「・・・根拠は?」
食い下がるなぁ。
意外に冷静なんだよな、こういう時のハディラムは。
常にこうだったら、クラムさんもあんなに怒らないのに。
「ヴァンハイトの歴代の皇王の中で神器を継承出来なかった者がいる。オレみたいなのと違って兄弟がいるとかじゃなく。そしてハディみたいに血統によらない継承者までいる。」
「・・・血のみとは一概に言えねぇな、確かに。」
ここで納得してくれると助かる。
これ以上は詳しく説明出来ないしな。
まさか、"オレの中に魂が二つあるから"というのが原因なんて言えないし、信じてももらえなさそうだ。
例え信じたとして、どうやってそうなったかは更に説明するわけにいかない。
「つまり、微妙に魂の質とやらが近かった・・・と。」
「そういうコト。」
「今一つすっきりせぇへん・・・特にオマエ腹黒そうやし。」
「腹黒いって・・・あのなぁ。」
否定は仕切れないけれど、オレの周りにいる人間の方がもっと上だぞ、黒いぞ。
兄上とかカーライルとか。
「人間、ある程度生きる為には腹黒くなるさ。ハディだってそうだろ?」
「俺様が?」
「互いに相手に言えない秘密くらいあるって事さ。」
別に問いただそうとは思わない。
・・・今のところ。
あくまで今のところはだ。
「まぁ、な。」
「アルム様!ご無事ですか?!」
馬を降りて猛然と駆けて来るルチルの速度が尋常じゃない。
瞬間最高速度は、馬より速いんじゃないだろうか?
獣人の血が入っているのも頷ける。
って、あの勢いで突っ込んでこられたら、オレ死ぬぞ!
「大丈夫だ!だから、ちょっとゆっくり!」
危なかった・・・。
「アル君~、怪我ない?!」 「あらあら~。」
次にエスリーンさん、でシルビア。
シルビアなんてもう慣れたもので、オレを一瞥して確認しただけ。
「なんかなぁ、俺様と格差あり過ぎじゃねぇ?俺様はアレやもんなぁ。」
「アレとは何ですか、アレとは。アンタ、皇子の足引っ張らなかったでしょうね?」
「クラム、戦いの後くらい小言無しにしてくれ、ホント。」
「だったら、普段から頭を使いなさい。蜘蛛の巣張りますよ?」
ミランダだって、あんな沢山の小言を次から次へと言わない。
まぁ、どちらかというと小言より、拗ねるけどな。
そっちの方が多い。
それかしくしく泣かれる。
・・・ちょっとだけハディラムの気持ちが解ったような。
「あ、シルビィ。」
「はい~。」
オレは一瞬悩んだ末、"ソレ"を彼女に向かって放り投げた。
「預かっといて。」 「オイッ!」
放物線を描く杖を器用に馬上で受け止める。
「かしこまりました~。」
「へ?姉ちゃん、大丈夫なんか?」
「はい~。」
ハディラムは拒絶反応を心配したんだが、やっぱり思った通り心配は無かった。
リディア先生がシルビアを"遠い親戚"と言っていたのを思い出したからだ。
シルビアが狙われる確率が高くなるが、今回は人手の中に騎士・戦士の割合が多いし大丈夫だろう。
何より、拒絶反応が一番少ないであろう人物が持つのが、害が無くていい。
「セイブラムに着くまでの間だけだから。それと何かったら、すぐに言うんだよ?」
「承知致しました~。」
微笑んだ彼女に微笑み、オレは皆に向き直る。
「さて、セイブラムに更なる用事が出来たわけだが・・・これはもうさっさと目的地に向かうしかないな。」
土曜日ですが、明日も更新します。