エてして皇子らしくないってコト。【前】(ハディラム視点)
旅の初日から驚きだった。
出会った時から思っとたが、アルムは全っ然皇子らしくない!
俺様の中の皇子像は完全崩壊。
ありゃただの庶民だね、ちょっと金持ち程度の。
あんなの皇子だとか誰かに言われても信じねぇ。
いや、時折なんつーの?
気風っつーの?
そういうのは出てる気がするんだが・・・。
どちらかと言うと、違和感の方が強ぇな。
何を隠してんだか知んねぇケド。
ま、こういう小難しい事は、クラムが考えるだろ。
初日の明け方や二日目辺りはなんだっけ?
エスリーンとかいう姉ちゃんがうるさかったぐらいで、それ以降は順調過ぎるくらいだ。
「しまった・・・。」
「どしたアルム?」
「砂漠に入る前に、皆を水浴びさせてやれば良かった。」
「あ?そんなもん二日目に浴びたやろ?」
全く変な事で大騒ぎするやっちゃな。
「アンタは構わないでしょうが、女性というのはそうもいかないのですよ。少しは気遣いの"き"くらいまでは学習したらどうです?」
どうして、こう、クラムは俺様相手にこんななんだか。
「あぁ、女性って面倒な生きモンだな。」
「アンタが単純構造過ぎるんですよ。」
どちらにしろ、もう砂漠地帯に入って二日経ってんだ、今更だろうが。
「ん?何だよ、アルム。まだ何かあんのか?」
「チッ!」
ヲイヲイ、こんくらいで舌打ちなんかすなよ。
「エスリーンさん、ルチル!シルビィとクラムさんを!」
唐突に叫び声を上げて、馬を猛然と走らせるアルム。
「アルム!」 「誰かの悲鳴だ!」
悲鳴?
そんなの聞こえなかったぞ?
「て、ヲイ!一人で行くなや!待て!」
護衛を置いて単騎で突っ込むなんて、全くどんな皇子や!
絶対アイツは皇子なんかじゃねぇ。
「仕方ない!」
俺様がついて行ってやらぁ!
クラムに目配せをするとすぐさま追いかける。
大体、悲鳴なんてアルムしか聞いて・・・?!
「聞こえた!」
嘘だろう?
砂山を二つ越えてた辺りで、その声が聞こえて、更にその先。
小規模な砂漠とはいえ、砂山があるせいで音が遠くまで響いてこない。
なんつー、聴力。
「アルム!」 「ハディ!杖を持っている老人の方を助ける!」
一つ先の砂山を越えている最中のアルムから、そう声が発せられて降りて行くのはいいんやけど・・・。
「あのバカ!」
単騎で突っ込むなっての!
全速力で後を追ってアルムに追いつくと、もうヤツは降馬して剣を抜いているところだった。
もう仕方ねぇなぁ!
俺様は槍だから、馬から降りねぇぞ。
面倒だし。
人数の上では、十人以上の差はある。
ま、数の問題じゃねぇケド。
格下相手っつーのは、性に合わん。
一突きであっさり倒せるってのがな、何か、こぅ、作業みたいなカンジで。
だからと言って、強い相手と戦って労力を使うのも嫌やけどな。
一人につき一撃という俺様の速さよりも早いのが、アルムの体捌き。
俺様の突きをかわし続けただけあって、その速さは本物だ。
斬る。
返す剣でもう一回。
次に蹴り。
その反動を生かして、もう一撃。
ここまでの流れが一つの行動に組み込まれているようなカンジ。
とても皇族や貴族の嗜みの剣技じゃねぇ。
・・・トドメを刺さないのも、なんつーか、な。
「やっぱ部下に欲しい・・・。」
「あ゛?」
「いや、何でもねぇ。それより、そのじぃさん大丈夫か?」
あっという間に相手を蹴散らしたのはいいが、助けた相手も相当の重症に見える。
「周りがこの砂漠じゃ・・・。」
やっぱりダメか。
「セイブラムの枢機卿でいらっしゃいますね?私はセイブラムに向かう途中の者で、ヴァンハイト第二皇子アルムと申します。」
大声でじじぃに話かけるってコトは、意識もヤバそうってコトか・・・。
「っ・・・っぇ・・・。」
杖?
アルムも言ってたな、そんなん。
「無事です。リディア枢機卿の時と違って。」
「リディアさ・・・ま・・・を?」
「えぇ、学舎で一緒でした。」
リディアってのは、これから会いに行くヤツだったよな?学舎ってなんだ?
「つえを・・・"あの御方"・・・に・・・。」
会話はそれだけ。
アルムは次の言葉を発しない。
つまりはそういうコトだ。
あーあ、何の得にもなりゃしねぇ。
「杖っつーと、アレか?」
馬から降りて、じじぃの言っていた杖らしき物・・・本当に"らしき"物だな。
奇妙な形をした杖。
片端は杖のご多分に漏れず、やたらデッカイ薄緑の石が嵌ってるが、もう一端は山・谷型の複雑な形状。
どちらかと言えば、杖っつーより錠前の鍵みたいな。
「全く、ケッタイな。」 「あ、ハディ!待て!」
杖に手を伸ばした俺様を止めようとした声より先に杖に・・・。
「あだッ!なんだコレ?!ビリッてキタぞ?!ビリッて!」
冗談じゃねぇ、ケッタイどころか、露骨に怪しい杖じゃねぇかよ。
「だから止めたのに・・・。」
「あんなぁ、そういうのは警告としての意味を成さへんて!」
「ハディが無用心なんだろ?」
何で俺様が呆れられなきゃなんねぇんだよ。
しかも、クラムみたいな目で見やがって。
「って、オマエ!」
溜め息をつきながら、徐に杖に手を伸ばしそのまま掴み上げるアルム。
「何でや・・・。」
「オレは目に一度、同じヤツに触れた事があるから。多少、耐性がついてる。」
いや、そうじゃない。
「おかしいやろ!」
本当にコイツはヴァンハイトの皇子か?
"有り得なさ過ぎる"