フギリな弟ではないってコト?【後】(エスリーン視点)
悔しい。
勝ち誇ったように余裕の笑みをたたえた美人に促されて、幕屋に消えて行くアル君達。
それを見送るだけの自分。
あの侍女、絶対わかってやっているに違いない。
ミランダとかい、あの姉気取りの女の他にあんな奴がいたなんて。
そりゃあ、美人度(?)も身体つきも負けるけど・・・どうせ筋肉質だし・・・生傷だらけだけれども。
これでも頑張って白い肌を維持してるんだから。
こんな事を考えてるうちに辺りは私と火の番をしているクラム、そしてアル君の幕屋の入口に立っているルチルだけになっていた。
私はふと、ルチルという少女に近づく。
アル君の作った騎士団の一員という亜人の少女。
騎士団の構成員の種族も問わないってトコが非常にアル君らしい素直さだ。
昔からアル君は、物事を見たまんまで評価するコだったから。
「ルチルさん?」
「何でしょう?」
亜人の中では小さい部類に入る彼女が丸い瞳で私を見る。
「ルチルさんは、何で騎士団に志願したのかな?」
そもそも亜人・獣人という人種は北西の国にしかいない。
ヴァンハイト国内では、行商人として入ってくる事もあるが、やはり少数には違いない。
「あ~、暇だったから・・・かな?」
「暇?」
「なんというか、私達の種族って酷く内向的というか、一生自分達の森から出ない人が大半なんです。」
見かける事が少ないのは、どういうのもあるのかな?
「森から出てもクロアートぐらいしか働き場がないし、大半が下働き。例外は分化後の能力が高い人だけ。」
苦笑しながら、ルチルは溜め息をつく。
「私もそうやって、一生終わっていくのかなぁって。生まれて、何も選べないまま。」
「そんなところにアル君の騎士団の募集?」
「アルム皇子はすごいんですよ?リッヒニドス領はどんな種族も受け入れて、それはもう優秀な人だけでなくて、今度は訓練学舎まで作るんだそうです。」
ニアが言っていた面白い事ってのは、こういうものも含まれてたのね。
なんというか、目立つ事が嫌いなアル君にしては盛大。
「私がちょうど分化が終わって成体になってたから、これはいいって飛びついちゃったんです!ここで私はどう変われるんだろうと思ったら、楽しくなちゃって!」
拳を握りながら力説するのはいいけれど、アル君起こしちゃうんじゃないかしら?
そう思った瞬間、彼女も同じ事を考えたのか、慌てて自分の口を塞ぐ。
「今回の旅のお供に私を選んで下さったのも、私は外に出て色んな体験をした方がいいって。」
「なるほどね。」
「あと、アルム皇子は亜人に何か特別な想い入れがあるみたいで・・・。」
「想い入れ。」
そんなの聞いた事ない。
私が離れている間にそういう事があったのかしら。
「でも、アルム皇子の周りには変わった方や、凄い方が沢山いらっしゃいますから。」
"変わった"という言葉で真っ先にカーライルの顔が浮かぶ。
相変わらず、無愛想で捻くれていて・・・どう考えても変わったヤツ代表だ。
「ダークエルフのお姫様とか、試験前にはクロアートのお姫様もいらしてたそうですよ?」
「クロアートの姫君が?またなんで?」
「詳しくは知らないですけれど、お国から婚姻を勧められたとかなんとか。」
「婚いっ?!」
思わず出そうになった大声を慌てて口ごと塞ぐ。
さっきのルチルの事をとやかく言えたものじゃないわ。
「国からの命令だったの?」
「そういう噂ですよ。」
ピクリと耳が動く。
絶対、シグルドの余波というか、アイツになすりつけられたに違いない。
大体、城に残って偉そうに貴族達の前でふんぞり返ってるだけなのが気に喰わないのよ!
アル君は味方がただでさえいないんだから、アル君だけに仕事ばかりさせんな。
あ、もしかしたら、今回の旅もアイツの仕事を押し付けられたんじゃ・・・。
ありうる。
アル君は昔から、どんな面倒でも手間がかかっても、やると決めたら、最後まで手を抜かないコだったしなぁ。
アノ熊の修行だってそうだったし。
「エスリーン様?」
「あ?うん、なんでもない。少し考え事。あ、"様"はいらないからね?特にアル君の部下には。」
「あ、はい・・・わかりました。」
照れる顔が可愛い。
これから、アル君を宜しくね。