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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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フギリな弟ではないってコト?【中】

「アルム様は、ミランダさんを本当に信頼しているんですねぇ。」

 寝る用意をテキパキとこなしながら。

「ミラだけじゃなくて、シルビィだって、皆だって信頼しているよ。」

 オレに背を向けたまま作業中の彼女の背に答える。

「昔から姉弟のように育ったんですねぇ~。」

「あぁ、オレが病を患ってから、激しくべったりの時期はあったけ・・・ど・・・。」

 ずっと・・・?

「アルム様、本当に私達を信頼していますか?」

「あ・・・うん。」

「じゃあ、何時からです?」

 振り返ったシルビアの口調は抑揚もなく、何時もの微笑みも無かった。

「ミランダさんとの昔の記憶、曖昧になってきていますね?」

 本当にその通りだ。

「アルム様の不安定さは、理解していました・・・。」

 そうだろう、心だって読めるんだしな。

オレの動揺は手に取るようにシルビアには伝わっているはずだ。

「第一、ヴァンハイトに伝わる神器に選ばれないうえに、眠っていた別の神器が使えるんですもの。」

 シルビアはずっとずっと黙っていてくれたわけだ。

オレが何時か自分から言い出す時まで。

でも、罪悪感しかないオレは言えなかった。

こうなるまで。

「元々、オレの魂は不安定なんだ。」

 一つの身体に近い波長(?)だが、別の魂が同居しているのと同じなんだ。

「シルビィ?」

「はい。」

「この身体を・・・アルムという人間を維持出来る期間がどれくらいかわかるか?」

 今のオレの素直な疑問。

漠然とした不安が常につきまとうよりは、いっその事、きっちりと期間がわかった方がいい。

「私にはわかりかねます・・・けれど。」

「けれど?」

「今から行くセイブラム法皇国でなら、わかるかも知れません。」

 にっこりと微笑むシルビアが布団の中へオレを誘う。

「とりあえず、今から私が出来る限りの応急処置を試みてみます。」

 そんな事が出来るのだろうか?

「気休めにすらならないかも知れませんが・・・。」

 心を読まれるのも慣れたな。

気休め程度でも停滞・・・いや、進行が遅くなるだけでも上等だ。

「頼むよ。」

 オレは言われた通りに横になる。

「では・・・。」

 以前、魂を視られた時のようなゾクゾクする感覚。

胃液が逆流するような気持ち悪さがこみ上げて来た瞬間、次には胸を圧迫されて呼吸が苦しくなる。

呻き声を上げようにも、苦しくて声が出ない。

手足の感覚も全くなく、少し寒気がした後、オレは意識を失った。

次に目を開けると、すぐ近くにシルビアの顔が。

「お加減は如何ですか?」

「・・・最悪。でも・・・頭の感触は心地よいかな。」

「まぁ。」

 クスリと微笑むシルビア。

彼女の表情の全部は見えないが。

何故なら、今のオレは彼女に膝枕をされていて、下から見上げる格好だからだ。

つまりだ。

視界の大半が"魔王"で占められている。

「シルビィ・・・ごめんね。その、心配かけて。」

 きちんと表情が見えないで言う謝罪の言葉というのも卑怯な気がするけれど。

「いえいえ、アルム様の為になれば嬉しいです~。それに、お姉さんの座は譲れませんから~。」

 お姉さんの座って・・・あ、もしや、エスリーンさんに対抗してる?

「アルム様?」

「うん?」

「私達はアルム様程、心が広いわけでも、我慢強いわけでもないんですよ~?」

 オレから言わせてもらうとしたら、オレもそんなに心が広いわけでも、我慢強いわけでもないんだけれどな。

「アルム様の言葉、表情、動き、その全部を見て少しでも解ろうと必死なんですから。時折不安になったりしてしまいます~。」

 そうだよな。

相手の心が読めるわけじゃないし。

「読めても不安は全て消えないものなんですよ~?」

 そうかも知れない。

「エスリーンさんの事を覚えていたら、違ったのかな?」

 オレは彼女をまた姉と呼んだのだろうか?

て、それを言ったらキリが無いか。

神器を手にしなければ。

あのまま死んでいれば。

病にかからなければ。

そういう事になってしまう。

「姉ね・・・あれ?そういえば、前に側室の座を狙ってるとか言ってなかったか?」

 無駄にホリンと順位付けまでしていたような・・・。

「それはぁ~、アルム様次第です~。」

 あ、何?

オレが選べるの?

その割には、何一つオレに意見を求められなかったような・・・。

「どちらにしても~、私達はアルム様のお傍にいられればいいんですから~。」

「今だって傍にいるじゃない。」

 シルビアが左手を翳してオレに見せる。

彼女の左手の薬指に光る銀の指輪。

出発する時に同じ様にホリンに突きつけられたな。

「確約だって、絶対ではないですよ~。でも、不安は先延ばしに出来ますから~。」

 姉のミランダ、妹兼娘のオリエ、筆頭騎士のレイア、ミリィとは彼女の故郷へ行く約束。

確かに四人はこういう件には他の者達より大人しい。

でも、だからといって・・・そういう事なのかな?

「・・・シルビィ、オレは君に傍に居て欲しいよ?」

「はぃ~、アルム様のお望み通りに~。」

 膝枕をした状態のまま、上体を折って覆いかぶさってくる彼女をオレは素直に受け入れた。

今しばらく、ほんの少しの間でいい。

先延ばしされた未来に身を委ねて・・・。

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