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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅴ章:黒の皇子の価値を決める者。
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フギリな弟ではないってコト?【前】

 ルチルの作った料理は素材を生かしたというか、素朴な味で実にオレ好みだった。

それに関してルチルを素直に褒めると、実に恥ずかしそうに照れている様が可愛かった。

やっぱり亜人の部下、いいな。

いや、ルチル自身も試験を通っているのだから、充分に中身も優秀なんだ。

食事を終え、明日の旅程の打ち合わせをしたら、外は真っ暗。

特にやる事もなく・・・。

「う~ん・・・。」

 食事中から気にしないようにしていたけれど、じっとオレを見つめるエスリーンさんの視線。

いくら最近、女性の視線に耐性がつきつつあるといってもだ、こうも見られていると・・・捕食されそう。

しかし、考えても考えても、彼女との出会いを思い出せない。

「あの、エスリーンさん?」

「なになにから?」

 接近するの早ッ!

考え方によっては、ミランダより始末が悪いよな、強いだけに。

「首都を出てからずっと考えてたんだけれど・・・。」

「うんうん、何々?」

 近いって・・・。

「どうやっても出会った時の事が思い出せないデス。」

 これが身体の崩壊に直結する記憶の欠落なのか、忘れただけなのか判別出来ないが、思い出せないのは事実。

素直に聞く方が早い。

・・・教えてくれればだけれど。

「全然?」 「全然。」

 即答するしかない。

「ニアのコトは覚えてたのに?」

「正直、あの人との出会いも覚えてないデス。」

 逃げられない、この感じはなんだろう・・・捕食?!

「小さい頃は、あんなにお姉ちゃん、お姉ちゃんって、あんなに懐いてくれてたのに・・・。」

 ぐすんと泣く寸前の表情で、しょんぼりするエスリーンさんには悪いけれど、それでも思い出せない。

思い出せないんだが、一つ気になる単語が・・・。

「オレが・・・エスリーンさんを"お姉ちゃん"て?」

 オレが出会った他人の女性を"姉"と呼ぶなんて確率的にはかなり低いぞ?

だってそうだろう?

「オレがミラ以外を"姉"と呼ぶなんて・・・。」

 有り得ないとまでは言わないが、当時のオレは既に自分の置かれた地位や振る舞いを理解していて、それこそ人間不信に近いくらいだった。

だからこそ、唯一の味方が姉である立場に近いミランダだったわけで。

例外がそんなポコポコあってたまるかというのが、オレの本音で・・・うぅむ・・・。

「そう・・・。」

 急にずぅーんっと神妙な面持ちで俯くエスリーンさん。

ちょっと言い過ぎたか?

「・・・アレは手強かった。」

「はぃ?」

 なんか、拳がぷるぷると震えているよう・・・な?

「アノオンナが居たから、当時の私は必死だったわ。"真の姉の座"を勝ち取る為に、来る日も来る日も"お姉ちゃん修行"に明け暮れた!」

 いやいやいや、突っ込み所満載過ぎだろう。

ナンデスカ?

ソノ"真の姉の座"トイウノワ?

トイウカ、"お姉ちゃん修行"ッテ?

「えぇと・・・姉の座と修行と、一体どういう・・・?」

 関係が。と、続けようとすると、ガバァッと急に顔を上げるエスリーンさん。

心なしか瞳が輝いているような気が・・・。

「何時か、アル君に手取り足取り腰取り、姉として教える事よ!アル君、言ったじゃない?『オレは一番強いヤツからしか教えを受けるつもりはないから。』って。」

 ・・・・・・ヲイ、昔のオレよ。

何やら、今のオレが大変な事態に追い込まれてるぞ?

というか、腰取りって何の修行だ?

「あー、いや、まぁ、確かにバルドに師事したのは、国内で一番強かったからだけれど・・・。」

 他にも長剣使いだったとか、役職を辞して弟子も少数だし暇そうだったからってのもある。

「そうしたら、何時の間にか、アル君はアノオンナとばかりイチャイチャして!」

 イチャイチャした記憶なぞ、一切御座いません。

というか、最初からミランダは姉としています、何処からも湧いてきたワケではないです。

大体、最近、そんな微妙にくすぐったい事をしたのは、ダークエルフの二人組みだけで。

う゛ぁぁ~、思い出すと背中がむず痒い。

「ミランダは幼馴染で、乳母姉弟だしなぁ。イチャイチャと言われても・・・ねぇ、シルビィ?」

 思わず、視界に入ったシルビアに助けを求めてしまった。

よりによってシルビアに!

「ミランダさんだけじゃないですよ~。私だって、残った皆さんとだって仲良いですぅ~。」

 うん、そう。

こうなるよね、普通に考えてさ。

「皆・・・と?」

「えぇ、アルム様。そろそろお休みになっては如何ですか?明日もありますしぃ~。」

 助け舟のつもりだろうか?

今更?

でも確かに、オレが寝ないとオレの世話をする人間も休めないよな。

一番休まないといけないのは、シルビアだ。

「そうだね、早めに寝ておくとしよう。」

「はい、では~。」

 立ち上がって、自分の幕屋に向かうオレの後につき従うシルビア。

「ちょっと待って!」 「はい。」

 そんなオレ達を呼び止めるエスリーンさんに、オレより早く反応するシルビアは、何時もの間延びした口調じゃなかった。

「二人・・・一緒?」

 ん?どういう意味だ?

「私はアルム様の侍女です。一時もお傍を離れません。お添い寝も仕事のうちです。」

 ズバっと切り込んだシルビアの口調に、固まるエスリーンさん。

そんな彼女を尻目に、シルビアは言いたい事を言い終わったからか、オレの背中をぐいぐい押して促す。

「し、シルビィ?」

「それではエスリーン様、おやすみなさいませ~。ルチルさん、立ち番お願い致します~。」

 転がる様にして、オレはなすがまま幕屋に押し込まれてしまった。

勿論、エスリーンさんを外に残したまま。

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