ヤサシサは伝染するというコト。(シュドニア視点)
「そこそこ面白かったというか、アル君らしいですねぇ。」
相変わらず、彼は予想以上に面白く、予想以上に素晴らしい。
「自慢の弟だからな。」
もうすでに広間には誰もいない。
と、いうか、ああいう輩はいなくても大して問題ないと思うのですけれどねぇ。
「どうした?」
「いえ、皇王になるのまで大変ですねぇと。」
ああいうのを相手にしていかなければいけないところなど特に、ねぇ。
あんなのがいても、この国は何も面白い事になったりしないのに。
「政務の補佐は大変だとは思うが、私が皇王になるとは限らんぞ?」
そうそう、最低このくらいは面白くないと。
全く、最近の貴族と言ったらダメダメですねぇ。
「流石は殿下。」
本当に飽きさせない。
何時も以上にニヤけてしまいそうですよ。
「君くらいだよ。こんな事を言っても褒めるのは。」
「そうですか?まぁ、個人的には国がどうなろうと知った事ではないというのが本音なものでねぇ。あ、不敬罪とかやめて下さいねぇ。」
そんな事をするような人ではないと知っていますが。
「不敬も何も、仕える価値がないというのなら仕方ないだろう?皇位だって、アルに足りなかったのは、政治への関心と経験だけだ。味方も少なかったが。」
「そういう意味では、リッヒニドスへ行った事で改善されたと?」
「元々、皇王の器を持っていた。」
だから、どちらが皇王になろうと構わない・・・か。
「酷く、自己中心的で個人的な事を言わせて頂きますとねぇ、先程国はどうなろうとと言いましたが、ご兄弟のどちらかが皇王である限り、忠誠はお誓い致しますねぇ、殿下。」
この二人のどちらかが皇王でも、この国は面白くなる。
「しかし、随分とグランツ一門は、アルを買うな?」
「あ~、グランツ一門全員がというわけではないですねぇ。」
「そうなのか?」
「少なくとも、私と姉は個人的にですからねぇ。」
しっかりと覚えてますよ、アル君を初めて見た時の事をねぇ。
「アルの才能はそこなのだろうな、人を引きつける。」
「才能も磨かなければ同じですよ。」
幼い頃、初めて彼を見た時、呆れていた自分がいた。
「殿下。ご存知ですか?グランツ一門は、誰一人としてこの国の出身の者がいないんですねぇ。」
彼以外は。
「何が言いたい?」
他の選択肢もなく、このヴァンハイトに連れて来られて、この国の騎士となる事を勝手に決められて・・・。
訓練自体は嫌いではなかった。
ただすぐに飽きた。
教えられる事の全ては、あっという間に出来てしまって、全てがつまらなかった。
更にどんなに強くなろうとも、既に選択肢はないと告げられていたし。
ただ惰性のように生きる日々の中で。
「アル君だけがね、私達の特別だったんですねぇ。」
全ての意味を見失った自分の目に映った彼。
どんなに傷だらけになろうとも、倒されようとも諦めない。
立ち上がり、立ち向かう。
誰にも期待などされていないはずなのに、それでも彼は毎日のように訓練し続けた。
何の為に?
「アル君はですねぇ、ただただ、その時の為に、必要な時の為に振るう剣が欲しかったそうですよ?」
「アルらしい。アルにとって自分も大事なのだろうが、それは誰が為にある自分なんだろう。」
まだ見もしない誰かの為に振るう剣が欲しい。
それだけの為に剣を覚える姿は衝撃的だった。
「自分を信じてくれる者の為に振るう剣。とても眩しかった・・・。」
「それがアルの根幹で、全てなんだろうな。自分が誰にも必要とされてないと思うからこそ、誰かを大切にしたい。自分を必要としてくれる者なら尚更。」
あの頃の私は、自分の剣の振るう後先に誰かがいるなんて思いもしなかった。
しかし、彼は、今のアルム皇子は己の剣を持って命を賭す相手に意外と見境が無いですねぇ。
それがダークエルフであろうと、獣人であろうと。
何と面白い事なんでしょうねぇ。
つまりは、私達のような"ヴァンハイト出身ではない何者にもなれない者達"でも構わないと。
まるで"世界の皇"。
そうですねぇ、もしもそういう存在がいるとしたら、きっとそんな御心を持つ者なのでしょうねぇ。
「少なくとも、私達、姉弟はずっとアル君の味方だという事なんですねぇ・・・。」
プロットを詰めた為に、いろは順を消化し切れませんでした。(泣)
というコトで、Ⅳ章は以上になります。
次回はお約束のエピローグ!
2本ありますので、宜しくお願い致します。