オオシバイ前は大変というコト。
道中で空から人間が降ってきて、一緒に行く事になった。
こう言うと酷く意味不明で、自分の頭がおかしく思われそうでアレだが。
でも、そこは流石、ヴァンハイトの歩く治外法権と言ってもいいグランツ姓。
案外、第二皇子としてのオレより謁見の間への手続き簡単で早いんじゃないか?
あっという間に控えの間の一室に通されて、謁見の準備をしている。
「ん?でも、カーライルは貴族姓ないよな?」
グランツの一門、或いは又弟子全員が"グランツ姓"を名乗るわけじゃないから、なくても不思議じゃないんだが。
一門の誰かから教えを受けたのなら、それ相応の貴族の部下とか養子になってもおかしくない。
それと今なら、腕力で云々というのは、別の師匠の事なのか?
意外とカーライル強いとか?
「えぇ、直弟子ではありませんし、主に他国の文化と流通の勉学中心ですから。それに・・・。」
「それに?」
「下手に貴族姓を持ったら、身動きしづらいですし、家内と結婚出来ませんから。」
「そぉ、奥さんとね・・・えぇっ?!」
カーライル既婚者だったの?!
そりゃ、独身とも言われてなかったが。
「家内は平民の出なもので。」
つまり、貴族姓を持つと、身分差が生じて婚姻が難しくなると。
・・・貴族の結婚、特に貴族同士の婚姻には許可がいる時が大半だしなぁ。
「オレ個人は自由恋愛推奨派だからな。」
「そう仰ると思いました。」
「しかし、カーライルの奥さんかぁ・・・。」
どう考えても慈愛に満ちた超美人か、完全武闘派の筋肉女しか想像出来ない。
「自分には出来過ぎた人です。」
だろうね。
凄い人なんだろう、どう考えても。
でもいいなぁ・・・。
「アルム様、準備できましたかっ・・・。」
部屋に入ってきたホリンがオレを見て止まる。
口をぽかんと開けたままのホリン。
口に蜘蛛の巣張るゾ?
「どうした?」
「い、いえ、その格好に驚いたというか・・・。」
「貴族達もホリンくらい驚いてくれるといいな。なぁ?カーライル?」
「そうですね、驚いて頂いて、有無を言わせぬうちに言いたい事をまくし立てて退散してしまいましょう。」
悪どいな。
完璧悪者の立ち位置だぞ。
「どうしてグランツの弟子は皆、こうなのかしら。」
ホリンの後から入ってきたのは、エスリーンさんだ。
昔、兄上と一緒によくいたシュドニアの姉・・・らしい。
全くオレには覚えがないが、向こうはオレを知っているようだった。
薄桃色の髪と瞳に白い肌。
およそ武人とは思えない細身。
体格だってレイアよりがっしりしていなく、普通の女性と変わらない。
いや、それよりも痩せている。
どう見ても、熊と素手で戦えるとは思えない。
「グランツの弟子って、まず師匠が弟子でしょう?」
ちなみにオレもです。
末弟になります、はい。
「アンタのそういうところ、可愛くないわ。アル君、格好イイ。」
「あ、ども。」
どうにもこの人との距離感が掴めないんだよな。
いや、向こうはほどんど防御も距離も皆無なんだが・・・オレの立ち位置が不明。
寧ろ、迷子。
「さてと、許可が出次第、乗り込むかな。」
なるべく当たり障りのない反応をエスリーンさんにはする事にしてだ。
さっさと済ませないと城下街の宿に置いてきたハディラム達を苛立たせる事になる。
流石に人数が多いし、説明する時間が勿体無いという事で彼等を置いておく事に納得してもらうしかなかった。
ちなみに、シルビアはセイブラムまでの旅程に必要な食料などを、城下街で買出ししてもらっている。
「ルチル、裾踏んでるぞ?調整してやろう、後向いてごらん。」
「あ、す、すみませんっっ。」
「気にするな。いいか、君はオレの自慢の部下だ。なんら臆する事はないよ。いざとなったら、ルチルを担いで逃げるから。」
オレは彼女の耳のつけ根を撫でる。
実際、オレの騎士団という名目の彼女が、オレに抱え上げられて逃げるというのは、どうかと思うのだが、それはこの際どうでもいい。
「はうぅぅ~。」
「師匠、ヨダレ、垂れてますよ?どんな変態さんですか?」
「はっ?!う、うるさい。」
何か騒がしいな、あっちの方。
「ホリンはオレの右手後方、ルチルは左手後方な?」
「りょーかい。」 「わかりました。」
相変わらずホリンは緊張感ないな。
反対にルチルはガチガチだ。
足して等分出来ないかな、この辺。
「カーライルは、オレの左手前側で先導なー?聞こえてるかー?」
なにやら向こうは向こうでモメているみたいだし。
「聞こえてます。」
あ、返事があった。
なら、大丈夫か。
なんせ、カーライルだしな。
「アルム様、アルム様。」
「うん?」
ニヤニヤしながらオレの腕を引くホリン。
いや、本当、城内にいる時くらい大人しくして欲しいんだが・・・。
「元気が出るヤツ~。」
ホリンは微笑んだ後、オレに顔を突き出すような姿勢のまま・・・あ~、コレって、アレか?
アレだよなぁ?
「・・・・・・次からこういうのナシな。」
女性の無言の要求や抵抗って、男には拒否権がないような気がする。
根本的というか、本能的というか、そういう意味で。
オレはホリンの頬にくちづけをする。
「ルチル、手!」 「はひぃっ。」
次にルチルの手の甲に。
「頼むぞ、堂々とな。オレの自慢の部下達。」
深々と頭を垂れる二人。
「・・・師匠、ヨダレ。」
「はっ?!」