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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅳ章:黒の皇子は革新する。
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ノコサレタ姉もいたってコト。(エスリーン視点)

「う~ん・・・。」

 弟に言われるがままに何年振りかに首都に帰ってきたのはいいけれど。

しょ~じき、ここに用はないのよね。

何があるのか問い詰めても弟ははっきりと言わないし。

というか、ああいう性格だし。

「何で、自分の周りには変な男しかいないのかしら。」

 その筆頭は弟だけれど。

第一、特にこの首都に思い入れがあるわけでもない。

「でも、まぁ、ここの風は好きだけれど♪」

 城壁のとある場所。

ここからは城下と城門を斜めの角度から一望出来るお気に入りの場所だった。

しかも、城下からはこちらは見られないという絶好の場所。

何年経っても、この景色が変わらずに好きで、というコトは私の想いも変わってないというコトになる。

ただ一つ、ここに足りないモノはあったけれど・・・ど?

「・・・あれは。」

 私は、その場から跳ねるようにして駆け出す。

城壁の正面、門のある位置の真上。

一々ぐるりと回って階段を使う手間も時間も勿体無い。

でないと、"彼"を見失ってしまう。

跳ねるように移動していたけれど、次は本当に跳ねる!

「てぇぇぇぇーいっ!」

 城壁を蹴り、宙に舞い踊る。

今の自分は鎧を身に着けていない、登城用の礼服だ。

「ふんぬっ。」

 全身の筋肉が軋んで、着地の衝撃を出来る限り相殺しようとする。

「あ、あの、何か?」

 着地の衝撃・・・大半は痺れだけれど、それに耐え切った後、ばっと顔を上げる。

驚いた顔の男の子。

黒い髪とまんまるの黒い瞳。

まんまるなのは、驚いているからか。

でも、今はそんな事はどうでもいい。

今、目の前に彼がいる。

あの時のままの彼が!

「あ・・・あ・・・。」

「あ?」

 歓喜に震える声よりも先に手が出る。

でも、ぱんっと乾いた音がして、差し伸べられた手が払いのけれられる。

なんで?

私は何としても、彼に触れたくて、反対の手を素早く伸ばすと、その手もまた払いのけられる。

どうして?

疑問の答えを得られないまま私は次々に手を出し、そして次々と払い落とされるを繰り返す。

「何でっ?!」

「いや、見知らぬ人に高速で貫き手をされれば、誰でも必死に捌くかと・・・。」

 ・・・貫き手?

「あ、思わず力を込め過ぎちゃった♪でも、見知らぬ人って、アル君酷い!」

「アル君て・・・オレは"トウマ・グランツ"って名前だけど?人違いじゃない?」

 人違い?

私が?

アル君を?

ナイナイ。

「私がアル君を間違えるわけないじゃない。それより"グランツ"になったんだ、私とお揃いだね!」

「王姓から貴族姓になるわけないでしょう?」

 ん?

「あれ?でも、今、名前"トウマ"って、アル君は名前も変えたの?」

「わざと無視してますね?」

 なんか聞いた事あるような声がしたけど、気のせい気のせい。

きっと、久し振りにアル君出会えたから、舞い上がってるんだ。

もう運命だもんね、コレ。

「私とお揃いって、グランツが?お姉さんがグランツ?」

 おねっ・・・お姉さん?

今、私をお姉さんって・・・アル君が・・・あれだけそう呼ぶのを拒否してたアル君が?!

「そうそうそうそう!お揃い!」

「全く人の話を聞いてませんね、この"アバズレ"は。」

「だぁ~れが、アバズレじゃいっ!って、カーライルじゃない。」

 何処かで聞いた事ある声だと思ったら。

「何でアンタがここに?」

「カーライル、知り合いか?」

「例の師匠ですよ、アルム様。数年だけ師事しておりました。」

 私より先にアル君の質問に答えるなんていい度胸じゃない。

でも、アル君が可愛いから許す。

ギリギリ。

「でも、グランツって・・・。」

「エスリーン・グランツ。数少ないグランツ一門の中でも唯一の女性です。」

「へぇ。」

「師匠、私は今、アルム様と一緒にリッヒニドスを治めています。まぁ、忠臣の一人とでも思って下さい。」

 忠臣・・・だと・・・?

なんて羨ましい!

「・・・やっぱり、あの時、アノ熊を首の骨へし折ってでも、私がアル君を教えてれば・・・。」

 悔やんでも悔やみ切れない。

私の人生最大の汚点はきっと、それだわ。

「ところで、先程からアル君アル君と、盛りのついた犬の様に連呼していますが、お知り合いで?」

「・・・実は他のグランツ一門に会った記憶がないんだが・・・。」

 私の目の前で首を傾げるアル君、何年経ってもその姿は可愛い。

そう、私と会った記憶がなくて・・・も?

「と、皇子はおっしゃっていますが?」

 記憶がないって・・・いや、きっと小さい頃の事はあまり覚えてない人間なのね、そういう人もいるもの。

うんうん、ちゃんと話せば思い出してくれるに違いないわ。

「あ、一人だけいたな。ニヤケ面の・・・ニア・・・ニア・・・えと、"シュドニア"だったかな?」

「なんでぇっ!なんであの馬鹿弟のニヤケ面だけ覚えていて、私は覚えてないの?!」

「え?シュドニアの姉さんて・・・熊も素手で倒す大女じゃ・・・。」

 な、なんですって・・・?

誰がそんな事を・・・。

「踵落とし一発で猪を捕まえたり、声だけで飛ぶ鳥を落として捕まえたりして、生肉をそのまま食すとかいう・・・"アノお姉さん"?」

「まぁ、確かに師匠なら、一番最後の以外出来そうで恐いですね。」 「出来るかっ!」

 そんな話を一体誰が。

「よく昔、兄上とニアに聞かされて、夜の尿意を必死に我慢したっけな。」

「体のいい怖い話代わりですね。しかし、小さい頃のアルム様は可愛らしいですね。」

 それは大いに認める。

しかも、それは今も変わらず。

けれど・・・。

「あのクソガキ共、アトでル。」

 根も葉もない事を。

確かにグランツの時点で、か弱いとは言わないけれど、心はこれでも乙女なのに!

「さて、師匠はほっといて、さっさと用事を済ませてしまいましょう。」

「用事?」

「えぇ、ちょっと貴族達のド肝を抜きに。」

 こう微笑むカーライルはロクな事をしでかさない。

でも・・・。

「私も一緒に行くわ。」

 この怒りをあの馬鹿共にブツけに。

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