ウヨキョクセツでも前を向いてってコト。
「なんで俺様がこんなこと・・・。」
「情報が欲しいんだろ?来ないなら、こっちから行くしかないよ?」
城の中庭で旅支度の最後の確認をしながら、ハディラムが文句を言っている。
オレに文句を言われても困るんだけれど、言いたくなる気持ちもわかる。
「第一、ヴァンハイトの首都経由って・・・なぁ、クラム?」
「考え方の問題です。タダで情報が出に入るわけがないと考えればいいでしょう?」
「それにアルム様がいれば、手続きが簡略化出来ますよ?」
クラムの言葉を継いだのはカーライルだ。
この二人、文官同士で通じ合うものがあるらしい。
それはいいのだが・・・。
「まさか、カーライルがついて来るとはなぁ・・・。」
オレの人選に待ったをかけたのがカーライルだ。
勿論、彼はオレの選択肢にはいなかった。
だって、このリッヒニドスの太守代理だぞ?
オレがいなくなれば、完全に太守と同等なんだぞ?
いや、今も太守とさほど変わりはないけれど。
「州の政策のせいで、アルム様に負担がかかるというのであれば、自分が直接乗り込んだ方が手っ取り早いですので。」
効率重視かつ、合理的な思考ではあるんだが・・・内政の方は・・・部下が優秀だから大丈夫なのか・・・?
「アルム様こそ、この人選には自分も驚きです。」
「そうか?」
オレは他に連れて行く三人を見た。
三人の中で目が合った一人が手を振ってくる。
「アルム様、こっちは準備出来ましたよー。」
うん、ハディの暴走を抑える係は別として、オレは今回の旅にまずホリンを選んだ。
ダークエルフを差別する今の国はどう考えても、もう古い。
それを周囲に認識させる第一歩だ。
貴族にとっては、それこそ皇子がダークエルフに誑かされたとでも思うだろうか?
それはそれで今から反応が楽しみだ。
事前にこの事は、ホリンに了承を得ている。
また珍獣扱いさせてしまうかも知れないから。
了承の返事は至極あっさりとしたものだったけれど。
「あ、あ、あの、私がお供でよろしいのでしょうか?」
もう一人は新鋭のルチル。
「ルチルは外の世界を沢山見る必要あるよ?色んなモノがあるからね。経験だよ。」
マール君だって言っていた。
自分達には選択の権利がない、自由がないと。
外の世界を見せるくらいしたっていいよな?
「それと、ダークエルフと亜人と人間を従えて首都に参上とか・・・。」
顔が緩んでくる。
「くっくっくっ、他種族すらも受け入れられない狭量の引きこもり貴族の驚く顔が目に浮かぶ。」
「アルム様。失礼ですが、本音がダダ漏れです。」
あ?
「うぉっと。」
「気をつけないと、いけませんよぉ~。首都の引きこもりだけしか能の無い貴族様に足下掬われてしますよ~。」
「・・・君も大概だね、シルビィ。」
「いえいえ~。」
三人目はシルビアだ。
彼女を連れて行く事は最後まで迷ったが、リディア先生の所へ行くのに、彼女は居た方がいい気がした。
先生とシルビアには共通点も多いようだし、顔見知りというのもある。
「アルム!」
「ん?ラミアか、どうした!」
息せき切ってオレに駆け寄るラミア。
少し遅れてサァラ姫もいる。
まさか、連れて行けとか言うんじゃないだろうな?
ラミア一人ならまだしも、複数人数のダークエルフを連れて行くと変な誤解を生みそうだ。
特にサァラ姫。
「首都に行くそうだな?」
「あぁ、首都の貴族共にお小言を言われにね。」
お小言で果たして済むのやら。
「何を言う!オマエがやってきた事に間違いはない!間違っているとしたら、それは貴族共の方だ!」
そこまで言い切れるラミアは凄いと思う。
それだけで、まるでオレ自身が赦されたような気分になる。
これは錯覚なんだとは思うけれども。
「私はそんなオマエに恥じる事がないよう、一度森の集落へ帰る事にした。」
「森に?」
てっきり一緒に連れて行けと言うとばかり・・・。
「これからのリッヒニドス。ひいては人間との共存方法を、今一度皆と話し合おうと思う。」
「・・・・・・ラミア。」
「何だ?」
「オマエ、イイオンナだな。」
「フンッ!何を今更。」
勝ち誇った様に胸を張る彼女の姿は、初めて会った時を思い出す。
中身はあの頃と全く別だが、世界が広がれば、人は変われる。
悪い方向もあるかも知れないが、良い方向のが絶対多いはずだ。
オレはそう信じてる。
「ラミア、負けるなよ。」
「オマエこそ。」
ラミアをこうやって抱きしめるのは何度目だろう?
漠然とそんな事を思うと、時の流れを感じる。
彼女の身体を離すと、次にサァラ姫に向き直る。
「サァラ、君もお姉さんをしっかり支えてな?」
サァラ姫に手を伸ばし、彼女の頬を撫でる。
未だにオレと大して変わらない年齢なのは信じられない。
どうやっても子供のような扱いをしそうになってしまう。
「大丈夫です。私の方が姉様よりしっかりしているんですから。」
「そうか、それはそれは頼りになるな。」
「はい!アルムお兄様もお気をつけて。」
そう言うと彼女は頬にあったオレの手を取ってくちづけする。
彼女の真っ赤になった笑顔を確認すると、オレは馬に跨った。
「んじゃ、行ってくるか!」
この先、どうなろうと、どうしようと、オレの道。
やるべき事はなんら変わらない。
ただ、ただ前を向いて・・・いざ、首都へ。
ここから、皇子以外の視点が多めになりますが、一応(○○視点)と表記しますので、宜しくお願い致します。