ムタイでも走り出さなきゃいけないというコト。
「よぉ、"皇子サマ"。」
ほっとした。
常時下着姿でしか遭遇していないから、どうしようかと思っていた。
きちんと軽装の革鎧を着ている。
例え、上は小さい面積の胸あてだけだったとしてもだ。
・・・ヘソ、丸見え。
「ん?あ、何時もの姿の方がいいかい?あっちの方が好みってんなら・・・。」
「いえ、結構です。」
ただでさえ、この城には前触れなく入室する輩が多いというのに。
「ちゃぁんと合わせるよ?オトコの好みには従順な方なんだ。」
不必要な情報をありがとう。
「しかし、何でまたヒルダが?」
「行商だよ、行商。ここは税が他国より安いから。」
今は税率を下げて、色々と通りを良くしている政策の最中だった。
「んで、"裏向き"は?」
それだけの用事でわざわざ出張ってくるとは思わない。
「あ~、一応商隊を作る時にね、学舎の先生方をついでに連れて来たのさ。なんだっけ?リディア先生だっけ?頼まれて。」
「リディア先生が?で、本人は?」
「本国で拘束されたよ。色々と責任問題とやらがあって、査問にかけられるとかなんとか。」
マズい。
査問の内容はどう考えても、複製神器の盗難と暗殺事件についてだ。
「それと皇子のトコの騎士団の世話。要りようなんだろ?」
「流石、商人。頼むよ。後で騎士団長を紹介する。」
それはそれで、間が良くて助かる。
助かるんだが、間が良過ぎる。
「ヒルダ・・・。」
「それくらい、皇子の騎士団とリッヒニドスの内政は注目され始めている。皇子、アンタ一度中央に戻った方がいいね。」
つまり、下手をすれば、オレを煙たがり始めた貴族達に難癖つけられるという事らしい。
まぁ、そうだよな。
なんたって、今までオレの事は眼中になく、完全無視だったんだからな。
「悪い、ヒルダ。」
如何に商売という目的もあったとはいえ、砂漠を越えて遥々オレに色々と知らせに来てくれたんだ。
感謝しないわけにはいかない。
「気にしないよ、アタシは。商売だって出来るしね。それに言ったろ?"好みのオトコには従順"なんだよ。」
さっきと随分意味合いが変わった気がするが?
おかしいな、使っている単語は同じのはずなのに・・・。
「そんな殊勝な事を言われると、独占したくなるな。」
「商品をかい?それともアタシをかい?」
クスリと笑うヒルダ。
「お好みで。」
「皇子は面白いね。」
「よく言われる。あのさ、その皇子っての止めてくれないか?オレはそんな自己紹介した覚えはないんだが?」
「悪かったよ、からかって。」
絶対悪いとは思っていないだろうヒルダは、終始面白そうに笑っている。
しかしだ・・・この状況だと、首都に戻って更にセイブラムまで行かないとならないな。
手紙より、当事者である本人が出向いて証言した方が説得力あるだろう。
となると、人選か。
人選、毎回悩むんだよなぁ。
悩まない為の騎士団結成でもあったのに・・・ちょっぴりがっかり。
レイアは騎士団の仕事があるし・・・バルドはもうちょっといてくれないと困るし。
セイブラムに行く時に向こうで兄上の兵を借り受けるってのもなぁ。
「今度は何を企んでんだい?」
「企んでない、人選を・・・あ。」
いるじゃん。
リディア先生に会わなきゃいけないヤツ等が。
よし、それとこちら側から何人かなら大丈夫か。
「ヒルダ。早速だが、まず最初に優先的に防具を譲って欲しい者がいる。頼む。」
「いいよ。アルムはお得意様だしね。ついでにアタシごと買っていくかい?」
ゆっくりとオレの首から顎先までを指の腹でなぞる。
なんでそういう事をするかなぁ。
思わずのけぞってしまった。
「冗談。金如きでヒルダが買えるだなんて思わないよ。」
「ははっ、いい返事だ。」
面白くない。
からかわれるだけからかわれて、損した気分だ。
「嘘でも高く評価してもらって嬉しいよ。」
実際、評価は高い方なんだが、それを言ったらまたからかわれるのは目に見えている。
「何でこういう人間がオレの周りに集まるかなぁ。」
「なんだい、そんな事も解ってなかったのかい?」
「自分の事なんて、存外わからないものさ。」
今現在のオレの存在自体が、一体どういう方法で確立しているかもわからないんだし。
「アルムがわかってくれるからだよ。そんで埋めてくれそうだからさ。」
「なんのことだ?」
「ココの隙間をさ。だから皆、アルムに認めてもらいたいんだよ。一緒に進むコトを。」
ヒルダはぐりぐりと力を込めて、オレの胸を指で押す。
「なんだよ、ソレ。だったら、ヒルダもそうだってのか?」
「ん?あぁ、アタシが"埋めてもらいたい穴"は・・・。」 「いや、答えなくてイイデス。」
「あはははっ。」