ネドイも時にはしなければってコト。【後】
「神器をどう思っているか?なんだ、随分と漠然とした質問だな。」
オレは手元にあった紅茶の残りを飲み干す。
大分、温くなった紅茶。
「人には必要ないな。あってロクな試しはない。」
神器があったから、世界は守られたかも知れない。
でも、神器があったから、ヴァンハイトは仲間を裏切った。
神器があったから、シルビアは辛い想いをした。
「あってロクな試しがないか・・・。俺様も神器使いだぜ?」
「別に神器を使う人間がとは言ってない。神器そのものの話をしただけだ。」
ハディラムが引き続きオレを睨む。
オレは彼の視線から目を逸らさない。
「皇子よぉ、アンタの国だって神器があるんだろ?代々継いで国を維持してきたんだろ?」
その通りだ。
なんだ、正論も言えるんじゃないか。
「生憎、オレは自国に対する愛国心があるわけじゃない。それにな、国を維持してきたのは神器なんかじゃない。民達だ。」
そう貴族は理解していない。
いや、認めようとしない。
この紅茶が飲めるのは?
上等な服が着られるのは?
そんなもの民が汗して働くからだ。
「ふぅん。の、割には神器に詳しいな。」
「詳しくなる必要があったんだよ。でなきゃ、知ろうとも思わん。」
というか、このリッヒニドスにすら居ないかもな。
など思っていると、ハディラムは椅子から立ち上がって、オレに大股で歩み寄る。
「よしっ、気に入った!オマエ、俺様の家来になれ!」
「なるわけないでしょう。おバカ!寧ろ、家来になるならアンタがなりなさい!」
オレの肩に手を置いて、宣言したハディラムの頭をすかさずクラムが叩き倒す。
「何というか、本当に仲良いな、二人は。」
「手のかかり過ぎる弟みたいなものですよ。」
全く。と、息を荒げながらブツブツと小言を述べるクラムをオレは苦笑しながら見る。
「聞き分けが良過ぎて、一歩も二歩も兄から退く弟よりはいいんじゃないかな。」
兄上はそう思っているんだろうな。
きっと不出来でも、弟として可愛がってくれただろう。
今じゃ、こんなに好き勝手して困らせてばかりだろうが。
それとも、余裕で笑っているかな?
「オマエだって、最初コイツに治めて欲しいって言ってただろ。なら、もういっそ家来にして連れ帰ったら、いーかなっと思っただけだ!」
「大問題になるわっっ!」
あ、また殴られた。
「ハディラムもそうやって言われるのも今のうちだ。治める側になったら、一気に誰も面倒なんか見てくれなくなる。期待されなくなってもだけれど。」
「そういうもんなのか?あぁ、俺様の事はハディでいいぞ。知り合いは皆、こう呼ぶ。」
ニカリと笑うと白い歯が眩しいな。
なんというか、ザッシュと気が合いそう?
主に悪巧み方面で。
「なら、オレもアルムで構わないよ。」
そもそも皇子と呼ばれるのは、そこまで好きじゃない。
一応は"知り合い"くらいの間柄にはしてくれるらしいしな。
「全く、何処まで図々しいんですか、アナタは。いえ、今に始まった事じゃないですね、何せ真正バカですからね。」
・・・教育という意味合いがあるんじゃなくて、口が悪いだけの気がしてきた。
それでも、常にこうやって傍にいてくれる人間がいるというのが、なんとも羨ましい。
「失礼します~。紅茶のおかわりをお持ち致しました~。」
あはは、オレにもいたっけな。
望みさえすれば、常に傍にいてくれる者達が。
「ね、姉ちゃんっ?!」 「はぃ?」 「あらぁ~?」
誰が?誰の?
「姉さんだって?」
シルビアの登場に素っ頓狂な声を上げたのはハディラムだ。
「なの?」
シルビアに事実確認をしてしまうマヌケなオレ。
結局、事件依頼オレはシルビア個人のコト、特に過去の事は何一つ聞いていない。
彼女にもそう告げたしな。
「ん~、人違いですわぁ~。」
「た、確かに姉ちゃんは、そんな喋り方せんわ。」
・・・ヲイ。
ハディラム、彼女は普通に喋ろうと思えば、喋る事が出来るぞ?
どっちが素の口調か知らないけれど。
「でしょう?」
「だな。いや、スマン。」
そんなんでいいのか?
本当にそんな確認の仕方で?
「私はシルビアと申します~。アルム様の侍女兼お添い寝隊で、お嫁さん候補ですぅ~。」
まあぁぁぁてぇぇぇーッ!!
何さらっと嘘を平然と言ってのけるか、アナタはぁっ!
「なんだって?!アルム、オマエ後宮を持ってるのか?!」
「流石、皇子。いや、優秀な方は、優秀な世継ぎを残す義務がありますからね。」
二人とも素直に信じているし!
ハディラムもあんだけ野生の勘があるのに、こういう時は発動しないのか、オイ!
「うふふふ~。」
「笑って誤魔化さない、そこの元凶。」
「あらぁ?私の中では、嘘ではないのですけれど~。」
いや、シルビアと結婚出来る男は幸せだし、羨ましいと思うけれどね。
「アルム様~。いやんっ♪ですわ~。」
・・・こういうのさえ無ければね。
「ちょっぴりラミアさんに対抗してみました~。」
「対抗せんで宜しい。」
なんか、一気に脱力。
「ちなみに~、私は三人目のお嫁さん候補です~。」
「しかも側室だと!」
「やはり優秀な血を・・・。」
更に盛り上がっちゃったじゃないか、もう。
これ、どういう風に事態を収拾するんだよ・・・とりあえず、だ。
「シルビィ。」
「はぃ~。」
「退場。」