ソウジャは常に全力勝負ってコト。【後】
順当に試験が進むと当然、同じ組だからアイツと当たるわけだ。
正直に言おう、勝てる気せず。
うん、絶対無理。
まずあの速度に勝てない。
全身鎧だし、この鉄仮面視界狭いし。
あっという間に死角を突かれて、敗北。
ザッシュ相手にさっさと降参したのも、これが大半の原因。
一応、自分の基本装備一式はレイアに預けてあるけれど、正体バレてまで戦うのもどうかと思う。
「トウマ・グランツ、トムス、前へ!」
ほら、呼ばれちゃったよ・・・どうしようかな。
開始直後に降参とかするか?
それが堅いのか?
つか、トムスってどうせ偽名だろ。
「はじ・・・。」「まいっ・・・。」「言うなボケェ!」
怒声と額からカツンという音がして、軽い衝撃。
何かを投げられた?!
というか、今、始めの合図より早くなかったかっ?!
「どらぁッ!」
次の瞬間、目の前の男、トムス(恐らく偽名)がオレに向かって飛び込んで来る。
「ぬをっ!」
その勢いを殺せず、二人とももんどりうって地に倒れる。
「オイ、茶番はヤメろや。」
額と額を付き合わせた距離で、奴は囁く。
「互いに本気と違うってんのは、わかっとるやろ?」
「何を・・・。」
「本気を出せ。いいな?本気で戦えや。」
そう言うとオレの身体は軽くなる。
男がどいたからだ。
そのまま男はてくてくと歩いて行き、戦っていた場所の外れにじゃがみ込む。
「でないと死ぬかもな。」
ゆっくりと立ち上がった男の手には長い棒。
最初にアイツが背負っていたヤツだ。
「レイア!オレの剣と盾を!」
冗談じゃない!アイツはヤバい!
あれがアイツの本当の得物。
レイアに叫びながら、オレは余計な防具を脱ぎさっていく。
「戦えば、他には手は出さないな?」
アイツの口ぶりからして、要求はオレと戦う事なのだろうか?
もしかしたら、殺す事かも知れないが。
だが、あの装備を先程の速さで振られたら、ザッシュ以外の他の人間はどうなるかわからない。
多分、今のアイツはこの場にいる誰よりも実力が上だ。
「アルム様・・・。」
「レイア、バルドを呼んで来い。それまでオレがなんとかする。」
レイアから装備一式を渡され身に着ける間、ヤツは動かない。
それがオレと戦うという目的を証明している。
・・・マズいな・・・。
「用意はえぇか?」
最後の鉄仮面を外すと、オレは最初から長剣を二本とも抜く。
銀剣の力で世界が広がる感覚。
そして、オレがヤバいと感じた直感の警告音も大きくなる。
「来いッ!」
退くわけにはいかず、オレの一言でヤツはオレに突進する。
構えた瞬間、繰り出される突きを何とか紙一重で。
得物の正体は"槍"だ。
両刃の直剣の槍。
その付け根に蛇のように二本の蔦の様なものが絡まっている。
「もういっちょっ!」
ぐんと引き寄せられる槍の速度に、身体を持っていかれそうな錯覚を覚えた瞬間、すぐさま突き出される。
それが二回、三回と・・・どんどん早くなっていく。
埒があかない!
反撃の隙をどう作るかだ。
オレが隙を作るか?
いや、この早さだとそんな事をしたら、オレが串刺しだ。
拡大した感覚で何とか捌いてはいるが・・・。
と、オレの感覚がある存在を知らせる。
「ぐらぁぁーッ!」
乾いた金属音が辺りに響き渡る。
槍の軌道を盾で逸らした音だ。
盾には前に一度だけ見た紋様が浮き出ている。
盾が発動して・・・て、コトはあれは最低でも付与された武器。
しかし、この隙を逃すワケにもいかない。
オレはそのまま盾を滑らせるようにして、ヤツに肉薄しようと試みる。
「チッ!」
突進しながら、慌ててもう一方の盾を前に出す。
ザッシュの戦いの時の動作を思い出したからだ。
一拍遅れて盾に来る衝撃。
渾身の蹴りだ。
コイツ、徒手と槍が主体だ。
さっき短剣使ってたもんな。
「ヤルな。だが、オレは本気を出せと言ったんだ。」
何を言ってんだ?コイツ。
「"オマエのチカラ"を見せろ!」
「ワケわかんないコト、ぬかすな!」
無理矢理オレはぐるりと身体を回し、ヤツの肩口に蹴りを浴びせる。
「ぐっ・・・やるやんけ。これだけやってもまだ隠すんなら、俺様も本気を出してやらぁ!」 「ヤメんかバカタレ。」
「あだッ!」
鈍い音がヤツの後ろからして、蹲る。
ナニ?
「全く年下の格下相手にムキになって、馬鹿なんですか?脳ミソ空っぽですか?死にますか?」
一言、一言区切る度に蹲ったヤツの身体にげしげしと蹴りが入る。
蹴っているのはヤツと一緒にいた長髪の男だ。
「大体、アンタは行動も考えも人間としての造りもザルなんですよ、ザル!」
整った美形の部類に入る顔にしては、出て来る言葉の全てが酷い。
「もう、なんでこうダメダメなんですか?あぁ、私もどうせなら、こちらの皇子に仕えたいくらいですよ、本当に。」
汚物でも見るような蔑む目で見下す様は、ここまで来ると逆に清々しいというか・・・。
「で、結局、アンタ達は何処の誰で、目的は?」
「はぁ・・・これですよ、この冷静さと状況判断。どっちもアンタには無いモノですよ?少しは見習いなさい。聞いてるんですか?」
「・・・あの、彼、多分、気絶してる・・・。」
「・・・・・・軟弱な。」
えぇ~?!