ソウジャは常に全力勝負ってコト。【前】
城から少し離れた広場が次の試験の会場だった。
「見物料とか取って後悔すれば良かったな。」
小さな規模のものを想定していたから、非公開にしたのだけれど・・・。
意外と民達の噂話の主流になっていた。
やっぱり田舎だから娯楽が少ないんだよ、娯楽。
ちゃんとそういうのも考えないとなぁ。
「確かにその手がありました。収入は多ければ多い程良いですからね。」
フフフ。と微笑むカーライルが少し恐い。
一次試験の合格者は約百名だったが、今、この会場にはその七割程度しかいない。
二割は別会場だ。
人間以外の種族、獣人・亜人・ダークエルフは今、バルドとラミア・サァラ姫が見ている。
あぁ、残る一割は棄権者な。
「バルドの方、死者とか出ないだろうな。」
いくら身体能力が人より圧倒的に高い獣人・亜人といえども"手加減なし"のバルドじゃな・・・ちょっと可哀想。
「大丈夫。という事にしておきましょう。」
安心させたいのか、心配させたいのかどっちだ、レイア。
全く、これから"オレも二次試験がある"というのに。
折角、一次に合格したのだから。とは言わないが、オレ自身で自分の騎士団員になるかも知れない人間の力を感じてみたい。
そう思って試験参加を続行する事にした。
ちなみにカーライルもレイアも呆れたのは言うまでもない。
現在、この会場には七十人弱の人間がいて、これを五つの組に分けて剣の腕を見せる。
模擬戦形式だが、特に勝つ必要などもなくあくまで剣の腕を見るだけなので、負けても不採用という事はないと事前に通達してある。
「ところで、カーライル?」
「何でしょう?」
「この組み割りに、作為をオレは感じるんだが?」
他の組は基本双剣使い同士で組まれているのに対して、オレの組はというと双剣以外の使い手が多い。
「ある程度の考慮はあります。扱う武器の組み合わせの相性もありますからね。」
「それって試験になるのか?」
「動きを見るのがこの試験の本来の目的ですし、ちゃんと経歴も参考にして組んでありますよ。」
ほぅ・・・。
「経歴を踏まえると双剣使いのザッシュも同じ組になるのか?」
「なるみたいですね。」
このヤロォ・・・。
もう決まってしまっている事だから反論はないし、今更変えられるわけもないからいいけれど。
今まで自分の実力がどれ程のものなのか、試すにはちょうどいい・・・か。
「それよりも、アルム様、本当にその格好でやるのですか?」
「オレだってやりたかないさ。」
正体が判明すると色々と面倒なので、せめて顔を隠そうと以前の外出時に学んだ事を生かして仮面を使用!
とか、やろうとしたら、皆から全力で却下された。
逆に怪しいと。
一理というか、オレもそうは思っていたから反論できず、仕方なく持ち出したのは仮面は仮面でも鉄仮面。
全身鎧にはつきものの兜で、頭全体を覆い顔部分が丸ごと上に開閉するヤツ。
「重いわ、視界は狭いわでやってられないよ、全く。」
しかも、いつもの装備に鉄仮面じゃ変だからって、出来る限りの部分に全身鎧を身に着けている。
「アルム様は速さで戦う方ですから、余計でしょう。どうぞ、ご無理をなさらずに。」
泣きそうなレイアの心配顔は堪えるな。
これじゃ、慰めのくちづけも出来ん。
・・・しないけど。
確かに周りを見ると強いそうな奴がチラホラと・・・。
「大丈夫。別に今回は絶対勝たなきゃいけないっていうわけじゃないからさ。・・・カーライル?」
「はい。」
まだ何か?とでも言いたげな視線。
その視線も痛いんだが・・・それ以外にも・・・感じる。
「向こうの二人、気になる。」
「と、言いますと?」
目にかかる程の前髪を額の真ん中で二つに分け、伸びた後髪を一つに束ねた男。
鎧を一切身に纏わずにこげ茶色の外套だけを羽織っているのだが、その居ずまいは熟達した武術家のそれがある。
ぱっと見は文官のようにしか見えないが、それが異常に思える程の違和感。
整合性が取れない程の違和感が滲み出ている。
そして、その横にいる男。
短髪のツンツン頭で鋭い目つき。
何よりその服装が奇抜だ。
頭からすっぽり被るような貫頭衣。
形はセイブラムの国に近い服・・・宗教服なのか、アレ。
背中には異様に長い包みを背負っている。
「長髪の方の監視を頼む。念の為、城内の警備を増やしておけ。」
「かしこまりました。」
オレの言葉にこれ以上の疑問や否定を挟む事なく了承する。
カーライルは何も完全理論武装の男じゃない。
時に直感やを重視、少なくとも蔑ろにはしない。
意外と思考は柔軟なんだ。
冗談は通じないみたいだけれど。
「それよりももう一方の短髪男の方が危険度は上だが・・・レイア?」
「わかりました。」
「やれやれ、二次試験はどうなるのかねぇ、全く。」
困るところなのか、カーライルの作為を褒めるところなのか・・・。
オレは同じ組である、短髪男がいる集団に歩を進めた。