タが為の試験ってコト。
イライラ。
うん、イライラだ。
オレは今、イラついている。
ザッシュの突然の宣言があった夜から、一ヶ月半近くが経った。
その間の仕事は、特に問題もなくすこぶる順調。
まぁ、天候が悪くて工事の工程は、そこそこの進捗具合い。
じゃあ、何故こんなにイラついているかと言うとだ。
「アルム様。」 「遅い!」
執務室に入ってくるカーライル。
コイツを待っていた。
オレはずかずかと歩み寄り、彼が手にしていた資料の束をぶんだくった。
「守備は?」
「は。受験者総数は約五百名強。一次試験突破者は百四名になります。」
オレの態度に何ら表情を変える事もなく、カーライルは報告を始める。
この報告、例の騎士団員選抜の試験結果だ。
「それよりも約五百名とは聞いていたが、何処からわいてきたんだ?」
獣人・亜人、ダークエルフに人間と実に多種多様の受験者だった。
「中には記念や話の種に。という者も居たようです。」
「官吏の登用試験の時は、一時金取るか?合格したら、即返却とか?」
「合格する自信のある者は、州の方から貸し付けるような制度がないと、低所得の人間は大変ですね。」
思いつきで言った案に、直ちに修正案が出てくるこの優秀さと真面目さ。
冗談って通じるのかね?
選抜試験の第一次試験は筆記試験だ。
官吏としての初歩的な問題で、なるべくこれだという唯一回答のない、自分の考えを述べる形の記述式。
これを用意させた。
させたというのは、問題の作成にはオレは何も関わっていないからだ。
「ところで、カーライル?」
「何でしょう?」
オレは合格者一覧の名前が載った表を次々とめくっていく。
「これは得点順に記載されてたりするのかな?」
名前と種族・出身以外は何も書かれていない表は、何かの規則性があるようには見えない。
「はい、一応そのようにした方が良いかと思いまして。」
「そうか・・・あのさ、カーライル?」
「面目ない。」
一言。
何の説明もなく、言い訳すらなく。
仕方なくオレは合格者名簿を見続ける。
「あ・・・。」
合格者名、下から四番目。
そこにようやく探していた名前が・・・。
「勘弁してくれよ、・・・ザッシュ。」
「誠に遺憾です。」
いやさ、別に一番の成績で合格するとか言われてないからいいさ。
「でもさ、コレ、本気?」
カーライルも掴めないけれど、十分ザッシュも掴みづらいからなぁ。
この辺、やっぱりちょっと似てる。
「アレの突拍子の無さと、世の中を舐めた態度は筋金入りですから。」
バッサリだな、仲良いのか?
「よくそんなのでやってこれたな。」
「自分もそう思います。」
「いや、"オマエ達二人が"。」
ピクリと眉が動いたな。
「ともかく、アレの思考をあえて読むとしたら、一番の成績だろうと最下位の成績だろうと、合格は合格で大局的に大差ない。とかそんなところでしょうか。」
オレもちょっぴりそうかなとは思うが、本気でやって実はコレという説でも否定はしない。
「それよりも。」
コホンと咳払いをして、オレの手元の書類に視線を向けるカーライル。
うぅ~ん、何かこの間の作り方が恐いんだよなぁ。
「自分としましては・・・その上から二番目辺りにある御仁が気になるのですが?」
チッ。
やっぱりそこに気づきやがったか。
「"トウマ・グランツ"という方なのですが。グランツ家の人間を招聘なさったのですか?」
・・・だって、他に思いつかなかったんだもん。
「グランツ姓を"名乗れる"方は、バルド殿の他に三、四名しかいないと記憶しています。」
このほぼ確信を持っているのに遠回しに言う嫌味な感じ、どうにかならないのか?
「いずれの方も、国内の様々な場所で任についているはずですが?」
「あぁ。」
対するオレの歯切れの悪いコト悪いコト。
「その割には、バルド殿が何も仰ってこないですね。」
ちくちく来るカーライルの口撃にオレはいっその事、口笛を吹いて目線を逸らしてとかやってみようかと思った。
だって普通、こういうのってやるからには本気でやるだろ!
手を抜いたら、他の人間に失礼だろ!
というか、まさかこんな順位の結果になるとは思わないだろォォ~。