ワカゲの至りにも色々あるというコト。【後】
七夕ですね。
貴方にも、会いたい人はイマスカ?
予想通り、その場にいたラミアに噛み付かれたのは言うまでもなく。
ふと、思ったんだが。
「何も現状が変わってない気がしないか?」
アイシャ姫は帰国する事にはなったが、婚約状態希望って・・・。
破棄したり、結婚まで確実しなくていいだけマシか。
問題だらけだけれど。
しかし・・・。
『今後のお話もありますから、一度私のお部屋にいらして下さい。』
すごく含みのある言い方だったのは、気のせいだろうか?
気のせいという事にしたい。
ま、この際、言いたい事があるなら、言った方がいい。
帰国したら、そうそう思った事全部口に出せないだろうから。
「アイシャ姫、言われた通りに来たよ。」
ちょっぴり来たくなかったケド。
「どうぞ。」 「はいよ。」
返事を待って、中に入る。
・・・こんな簡単な事なのに、何故ウチの侍女達は出来ないんだ?
謎。
「理解に苦しむ。」
「何がです。」
「いや、ウチの侍女達のはな・・・・・・し。」
ヘソ。
うん、ヘソ。
胸周りを押さえつける革の服に、腰周りだけを覆っている革の服。
それ以外は全部肌色。
押さえつけられた胸は、見方によっては凄いヒワイ。
「なんて格好してんだよ。というか、その格好で入室の許可なんか出すな。」
「ちょうど鎧を脱いだところで。」
そういえば、関節にも革当てがついている。
どうやら、鎧の下に着る特製の服装のようだ。
全身鎧だもんな。
ん?てコトは、レイアもああいうのを身に着けてるのか?
「じゃなくて、はしたないぞ。」
アイシャ姫だけは、そういう慎みを持っていると思っていたが、天然である分そうでもなかったらしい。
「?」
首を傾げ、自分の今の格好を見直すのは構わないが、絶対首を傾げる事ではないと思うぞ。
そんな婚約者は願い下げです。
「節度は持ちましょう。」
「だから言ったでしょう?ちゃんと着替えてからにしなさいって。」
呆れているオレの様子をよそに声をかける一人の女性。
先程、アイシャ姫と戦った時に彼女の武器を持っていた従者だ。
赤毛がかった茶色の毛並みに小さく尖った耳。
そして金色の猫目の女性。
特徴の通りの亜人だ。
口調も大人びていて、背も高い。
オレより年上だろうか?
亜人の寿命とか年齢換算て人間と同じでいいのか疑問だけれど。
「だって、早く二人をきちんと会わせたかったんですもの。」
「その気遣いは嬉しいけれど、着替えの時間くらい待てるわ。」
溜め息をつく女性。
良かった、この人はマトモな感覚の持ち主だ。
「で、用件は、この方を紹介したかったでいいのかい?」
逆にオレがさっさと用件を済ませ撤収した方がいいんじゃないだろうか?
「はい。どうしますか?自分で自己紹介、するかしら?」
「そうしておくわ。」
横にいた亜人の女性は、オレに向き直り居ずまいを正す。
「初めまして皇子。私はロザリアと申します。どうぞ、リアとお呼び下さい。」
ペコリと頭を下げる彼女は彼女は非常に礼儀正しく誠実そうに見える。
見えるのだが、ピコピコと動く耳と合わせて見ると可愛くて仕方ない。
オレより背が随分と高いのにも関わらずだ。
ある意味で、亜人好きになりそう、オレ。
「彼女は・・・マールの姉上です。」
・・・マール君の。
思わず、彼女の顔をマジマジと見る。
似ている所が見当たらない。
マール君が未分化だったからかな。
オレは震える手で、腰に下げた剣。
銀の剣ではない方に手をかけ剣帯ごと外して、前になんとか投げ落とす。
こういう事もあるもんだな、しかし。
「貴女には、マール君の仇を討つ権利がある。」
オレは人を殺した。
だから、いずれ誰かに殺される。
非常に単純な理屈だ。
結局、憎しみや争いを止めるのは、人の心なんだと思う。
決して"力"なんかじゃない。
「けれど、今はまだ死ぬわけにはいかない。」
"与えられた生"で出来る限りの事を。
「それでも貴女が待てないというのなら、死なない程度にその剣で突き刺してもらって構わない。」
それで晴れるとは到底思わないけれど。
でも、オレが彼女の弟を殺めた事には変わりない。
「やっぱり皇子に会おうと思って良かった。」
彼女はオレの剣を拾うと、その柄をオレに向ける。
「姫様に無理を言ってここまで来たの。」
決意の眼差しを力に変えて、ぎゅっとオレの手を握るロザリアさん。
「貴方は無闇に人を傷つけたりする人ではないというのは、姫様から聞いて知っている。」
手に剣を握らせ・・・。
「それにここで私が貴方を傷つけたら、哀しむ人、怒りに震える人、大勢出てくるわ。」
「私も哀しいですもの。」
アイシャ姫が割って答える。
「だから、貴方は今の生で精一杯生きて、ね?」
温かい人だ。
オレの今の生が何処まであるかわからないけれど、彼女の言葉は絶対に忘れてはいけない。
「ありがとう、ロザリアさん。」
「リアで結構です、皇子。」
「じゃあ、オレもアルムで・・・て、呼びづらいか。」
流石に皇子を呼び捨ては無理だな。
「わかりました。アルム様。」
しかし、こうも心で憎しみを断ち切る様を見せられるとな・・・。
「アルム様、一つ頼み事があるのですが?」
「なんでしょう?」
「マールの眠っている場所へ案内して頂けますか?」
「・・・喜んで。」
彼女にも美しい湖を見てもらおう。
オレはきっと今日という日を忘れないだろう。