ルイショウは想いを焦がすというコト。【後】(ラミア視点)
うっすらとした明かりが差し込む。
少し霧がこめるこの地方特有の朝。
目覚めて何時もと違う感触の為に、はたと思考が止まる。
珍しくうつ伏せに寝た胸が苦しい。
少し弾力のある固さ。
「あ・・・。」
私の右半身の下に重なった人影。
そうだった、昨夜はアルムの部屋で寝たのだった。
「改めては思い出したくないな。」
我ながら直情型だとは思っていたが・・・今回は酷い。
自分でも落ち込む。
「だが。」
安らかな表情で眠っているアルムを見ていると、悪くはないな。
そういう想いが浮かんでくる。
これは一晩を共にした者だけの特権というヤツか。
「悪くない・・・ところで、重くないのか?」
私は背が高い方だから、それなりの重さがあるはずだが・・・。
そうだな、あれだけの速さで動けるのだから、この程度重くはないのだろう。
自分の武を主張したがる我が一族の男達と違って、アルムはそういう自分を見せない。
見せたがらない。
だからこそ、普段のあのマヌケ面がアルムそのものと思いがちになる。
だが、アルムは相当強い。
実戦に即した強さだ。
それは私を集落で助けたあの時に目の前で見ている。
「・・・見られたな。」
思えば、あの時に私の裸は見られているのだがら、今回の事は今更ではないか?
とは言え・・・。
「やはり恥ずかしい。」
男の寝所に深夜忍び込んで、全裸で、しかも馬乗りで迫るなんて。
「オマエも悪いのだぞ?」
アルムの黒髪を撫でる。
アルムは私の、私達の肌を美しいと言うが、アルムの黒髪だって綺麗だ。
漆黒の髪と瞳は、時折吸い込まれそうな夜の闇を彷彿とさせる。
「ふふっ。」
撫でているうちに笑みがこぼれる。
妹のサァラ以外に、頭を撫でるのが楽しいと思ったのは初めてだ。
ん?
アルムの黒髪の中に数本。
左前髪に色の違う髪がある。
白髪か?
我が一族にはない現象だが、人間は老化の過程で頭髪が変色する者がいると聞く。
「白くはなくても白髪というのだろうか?」
白髪というくらいだから、色が抜けた白だとばかり思っていた。
これは・・・金か?
確かアルムの一族は、金の髪に蒼の瞳の者が多いと聞く。
これは・・・もしや、ちょっとした"私だけの"新発見かも知れんぞ。
何やら、楽しいではないかっ!
一緒に寝て、寝顔を見て、触れて・・・そして、ちょっとした新発見。
それがこんなにも顔が、頬が緩むような事だったなんて!
「ん・・・。」
突然アルムが私にすり寄るように寝返りを打つ。
「大丈夫だ、私は逃げたりしないぞ?」
思わず口から出た。
相手が寝ているから言える言葉。
アルムは余りにも無防備だから・・・。
私も彼を抱き寄せてみたくなる。
っと、私は裸だったか。
寝台の近くに投げ捨ててあった夜着を起きて身にまとう。
アルムはまだ眠ったままだ。
ふと昨夜、私にかけられていた掛け布が視界に入る。
「・・・これは借りて行くぞ。」
夜着の上から、その絹の掛け布を巻き、なんとなく鼻を近づける。
「アルム、オマエの匂いがするな。」
眠っているアルムの頬にくちづけをして、部屋を後にした。
「あら?」「ん?」
早朝から目がチカチカする真紅の色。
「む。」
確かアルムの妃候補だったな。
「アルムならまだ寝ているぞ。」
肌は白く、髪は輝く金色。
私とは正反対だ。
背の高さは負けているし、胸の大きさも少し負けている。
少しだぞ!
同じ姫といっても規模が違う。
だか!
今の私には昨夜のアルムの言葉がある!
「あら、そうでしたの。では、出直す事に致します。えぇと・・・?」
「ラミアだ。」
シルビアに近い間延びしそうな喋り方に軽くイラつく。
「貴女と同じ、アルムの妃候補だ。」
もうこうなったら、勢いしかない。
「まぁ?!そうなのですか?お揃いですのね!」
・・・何だ?この生き物は?
「ところで、こんな朝早くアルムに何の用だ?」
まさか、私と同じ夜這いか?!
いや、朝だから朝這いか?!
「いえ、アルム様の朝の鍛錬の見学をお願いしてみようかと思いまして。」
「鍛錬の?」
物好きだな。
それよりアルムは、早朝に鍛錬をしていたのか?
どうりで訓練をしているのを余り見かけないと思った。
というより、何故、この女がソレを知っている?
「私も少しは武の心得があるもので。」
にこりと微笑む姿は、外見より幼く可憐に見える。
私とは全く違う・・・。
「そうか。私も多少の心得はある。どうだ?手合わせでも。」
私には絶対に作れない花のような笑顔。
「それは光栄ですわ。是非。」
ぽんっと手を合わせて鳴らし、彼女はまた笑顔を咲かせた。