ヌケてる皇子は可愛らしいってコト。
言うだけ言って、一人で勝手に・・・本当、勝手だがスッキリしたオレは、自分の現状も再確認。
そのせいか、一日の仕事も思った以上に捗った。
もっとも、今のところは何も問題なく順調に運んでいて、オレはその報告を聞くのと、今後の騎士団員選抜会(仮)についての打ち合わせの仕事くらいしかなかったが。
「しかし、カーライルの部下達は仕込みがいいよなぁ。」
思わず感心。
「それは、自分を含めて褒められているのでしょうか?」
書類に目を通しながら、何処か訝しげに反応する。
「オレのような異分子が入っても乱れる事なく公務を行ってるしな。」
「それが仕事ですから。」
「いや、うん、まぁ、そうなんだが・・・。」
ちょっと論点がズレてる気が・・・。
「何か?」
「いや、う~ん・・・。」
はっきりしないオレにカーライルは、読んでいた書類から目を離して俺をまじまじと見る。
「いきなり太守が更迭されて、オレみたいな若造がしゃしゃり出て、こんな事になっててさ。」
「本当ですね、大忙しです。でも、ただの若造ではなかったので、部下達も色々と刺激されたのですよ。」
「まぁ、一応は皇子だしなぁ。ん?」
カーライルが口を抑えて震えて・・・る?
何、アレ?
「くくくっ。いやはや、アルム様は過小評価がお好きなのですね。」
目尻に透明な液体を滲ませてカーライルが微笑む。
「そんなに笑うコトか?」
どうやら、今の何かがドツボに嵌ったらしい。
う~ん、カーライル、読めんヤツ。
「いや、失礼。アルム様が余りにも可愛らしいので。」
「何だ、ソレ。」
真顔で冗談言われても面白くもなんともない。
どちらかというと気味が悪い。
・・・言い過ぎか?
「しかし、能力のある者があまり謙遜し過ぎると、それは嫌味にしかなりませんよ。」
目尻の涙をようやく拭うカーライル。
本当、一体、何がそんなに面白かったのか。
「謙遜も何も、オレは今まで、自分が誰かと比べて優秀だと思った事はないぞ?」
皆、何処かしら長所があって、短所があるのは当然で、オレ自身も例外ではないと思っている。
それが他より抜きん出てるかはまた別の話だと思うし。
「でしたら、自分の部下達は皆、クビになってしまうかも知れません。」
「それこそ過大評価だ。」
大げさ過ぎる。
「いいえ、それくらいアルム様の行う政事は皆に持たせるのです。」
「持たせる?」
「えぇ、それが夢だったり、期待だったり、希望だったり。人それぞれです。」
重圧だな。
いや、それが先頭に立って政事をする、皇族の本当の責務なのか。
「それすらも謙遜なさるなら、証拠もありますよ?」
そう言うと、カーライルは先程まで自分が目を通していた書類の束を投げて寄越す。
カーライルにしては扱いがぞんざいだ。
「・・・・・・何だコレ?」
人名と所属が書かれた表がズラリと・・・。
「復職願の一覧です。」
「復職願?」
つまり、これは州府に以前勤めていた人間達か?
「スクラトニーに罷免された者、悪政に耐え切れず辞した者、更に一度引退したご老体までも。」
苦笑するカーライルに対して、どう反応したら良いのかオレには全くわからない。
「時の流れは誰しにも平等だからこそ、人は未来に不安を持ちます。」
困惑。
恐らく困惑の表情を浮かべていたのだろう、カーライルは更に補足していく。
朗々と演説するかのように。
「しかし、未来のある一点に小さな希望があったのならばどうでしょう?」
「人は、そこに邁進してゆく。」
無言の頷き。
結局、遅かれ早かれ、人は死ぬ。
本当のオレの生は子供の頃には終わっている。
人より少し早かっただけ。
でも、皆にはまだ先がある。
「結局、何が残せるかは、如何に日々をより良く生きていくかって事か・・・。」
皆がそう思うようになってきた結果が、オレの手の中にある。
大切な想いの結晶。
「解に至る道は常に自分の周りに見え隠れしていて、私達を嘲り通り過ぎようとしている。」
「何だ?」
「自分の師の教えの一つです。」
どうやらカーライルにも内政の師がいるらしい。
それはそうだ、彼にだって先輩官吏はいただろうし、新任時代だってあってもおかしくはない。
あ、カーライルの新任時代って、想像すると笑えるかも。
いきなりこの無愛想さでも扱いに困るよな。
「カーライルの師って人も会ってみたくはあるな。」
「自分はもう二度と会いたくはないですが・・・あぁ、今なら腕力で勝てそうですから、アリですね。」
・・・なんというか・・・きっと、オレとバルドみたいな関係なんだろうと容易に推測出来る。
悲しい。
「ともかく・・・だとしたら、これはオレの新しい宝物だな。」
その新たにオレを支えてくれる存在に心から感謝した。