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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅳ章:黒の皇子は革新する。
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リンジンは秘密を知っているというコト。

「どなた?」

 扉の向こうから聞こえてくる声に多少緊張する。

「アルムだ。」

 心なしか声が上ずってないか?まぁいい。

「どうぞ。」

 許可が出て・・・自分の城なのに許可とか不思議なカンジだが、部屋に入るともはや見慣れたと言っても過言じゃない真紅が目に飛び込んでくる。

「今日はどのような所へ案内させて下さるのですか?」

 にっこりと微笑む長身の女性。

そういえば、彼女の方が年上だったんだよな。

「今日はちょっと話そうと思ってね。」

 しっかりと向き合ってな。

「そうですか・・・。」

 アイシャ姫はそう答えると、人払いをした。

二人っきりというのも何か、変に緊張する。

「お話というのは?」

「ここに来て真剣な話と言えば、一つしかないだろ?」

 天然なんだか、計算なんだが。

「はい。ですから、理由を伺おうかと。」

 はぁ・・・聡いと言えばいいのか?これは?

「断るのはわかってるんだ。」

「政略結婚だから。というのは嫌ですよ?何しろ、くちづけまでした仲ですもの。」

「ぐっ。」

 忘れたい記憶を・・・。

忘れられる程、軽い印象じゃないけどさ。

「あれは"トウマとした事だから"と、仰られたら、私、泣いてしまいますわ。」

「流石にそこまでは言わないよ。確かに政略結婚は嫌さ。皇族のクセにと思われるかも知れないが・・・。」

 だから余計になんだよ。

「第二皇子との婚姻なんて、貧乏クジの何物でもないだろう?」

 将来性なんて言葉皆無に等しいし、兄上を害そうなんて考えも微塵もない。

寧ろ、その方が国全体にとっての損失だ。

「立場や権力的なものでしたら、そうかも知れませんけど・・・お忘れですか?」

「?何を?」

「私、元は貴族の末席出身ですから。」

 言ってたな。

「だから、別に興味はないと?」

 オレの呆れたような口調の質問に、頷くアイシャ姫。

政略結婚なんて、婚姻が成立すれば目的は達しているようなもんだし。

第二皇子のオレ相手じゃ、世継ぎがどうっていう事もない問題なのだろう。

「じゃあ、君の真意は?」

 それを無視してしまったら、結局同じだ。

「最初は戸惑いましたけど・・・知らない仲ではないので・・・。」

 くちづけをした仲は知らない仲とは言わない・・・よな、うん。

そこは間違ってない。

「それだけで割り切れる?」

 女性は結構、そういうところが現実的ではあるとは聞いた事があるものの・・・。

「少なくとも、退屈しないで済みそうですもの。」

 あぁ・・・彼女の笑顔に軽い目眩いが・・・。

思わず身体を近くの壁に預けて一息つく。

彼女自身、結構軽めに言っているように感じられるが、実際、現実的にはそんな軽い事では済まない事柄だ。

自分の人生を左右するどころか、先々まで決定してしまう事なんだし。

「そうだな・・・。」

 そういう事柄なら、尚更。

オレも断るなら断るで、誠心誠意対応しなければならない。

人として当然の礼儀だろう。

「オレは・・・確かに政略結婚は想いが伴ってないから嫌だし、世継ぎも望んじゃいない。」

 きちんと話そう。

彼女の目を見て。

オレは一度、彼女に大きな嘘をついた。

だから、どう取り繕おうが、何度嘘をつこうがもう変わらないのかも知れないけれど。

でも、もうこれ以上はゴメンだ。

「でも、それだけじゃない。オレは自分の国に愛着なんて持ってなくて、寧ろ猜疑心を持っている。」

 核心になる事全てを言う事は出来ない。

恐らく信じてもらえないだろう。

第一、立証しようにも見せるべき証拠がない。

物証の一つになるだろう剣もないし。

「街を見る限り、そんな風には思えませんでしたわ。」

「民に罪は無いし、愛着がないとは言っていない。皇室にって意味さ。」

 兄上は確かに例外だが、もし邪魔をするなら・・・そういう覚悟はある。

「そして・・・恐らくだけど・・・。」

 口に出すとなると、やっぱり怖いな・・・。

「多分、オレに残された時間は・・・そんなに多くないから。」

 前例があるわけじゃないから、果たしてそれがどういう結末になるのかはわからない。

反発して、消し飛んである日突然に絶命するのか。

段々と衰弱して死に至るのか・・・。

トウマの魂の方が強いから、オレだけ消えてトウマに身体を残せるという結末が一番いいとさえ思える。

「・・・ご病気なのですか?」

 曇った表情を見るのが辛い。

「そういう顔をされるのが嫌だから、二人だけの秘密だよ?」

 シルビアとオリエは気づいているかも知れない。

心が読めるみたいだしな。

何も言わないところを見ると、気を遣わせているのかも。

「だから、婚姻はしない。残された時間は全て、民とオレの周りに居る人間の為に使う。残せるモノを一つでも多く残す為に。」

 証。

そんな大層なもんじゃない。

誰からも期待されずに鬱屈した日々を送ってきたオレの悪足掻き。

勿論、それは盛大なモノに・・・。

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