チよりも濃く温かいってコト。【後】
波。
蒼い波。
蒼と蒼がぶつかり合って、白く泡立つ。
泡立つ波と同じ白の砂浜。
ふと、顔を上げると誰かが手を振っていて・・・。
「あ・・・。」
振り返そうとした所で、見慣れた天井とご対面。
「・・・夢か?」
それにしては、酷く鮮明で生々しい。
「って・・・オレ・・・。」
思わず、目の下の頬の辺りを指で拭う。
「泣いていたのか・・・?」
何故?
自問自答したくなるが・・・わかっている。
「アレが、君の故郷なのか・・・"トウマ。"」
そして手を振る人間が、きっと大切な人。
「悪いな・・・まだ時間が欲しいんだ。」
どうなるかわからないという不確定事象は不安を生んで当然だ。
でも・・・。
「まだ残しておきたいモノがあるんだ。」
それがある以上、やりきらないとな。
さしあっては・・・。
「やっぱりアイシャ姫の件か。」
うまく断るには如何したものかね。
とにかく、さっさと着替えて朝食を摂ったら会いに行くか・・・。
「全く・・・困ったもんだ。」
オレは横で、捲くれ上がって下着とお腹を丸出しにしているミリィの夜着の裾を直して寝台を出た。
「ふふっ。」
無邪気に眠るミリィとオリエを見て、思わず笑みがこぼれる。
大丈夫。
オレはまだ笑えている。
そう自分に言い聞かせて・・・。
広間に行くと朝食は既に用意されていた。
「アルム様と一緒に寝ると、なんかすっごい眠りが深いんだよねぇ。」
一人で広間に来たオレを見つけたホリンは、事情を察したのか苦笑する。
「確かにそうですねぇ~。」
賛同するシルビアを横目にオレは、無言で席についた。
「またその話?前にもそんなような事を言ってなかったか?」
何だっけ?
匂いがどうとか。
オレ、危ない薬じゃないけれど、そういう成分発生させているのかと思われるじゃないか。
「み、皆さんは・・・アルムお兄様と寝所を共にしているのですか?」
何故、そこで赤面してどもるよ、サァラ姫。
「う~ん・・・。」
ぐるりと周りの面々を見るホリン。
視線が合った者は皆、目線を逸らしていく。
「うん、皆、一回は。」
あからさま過ぎるゾ、皆。
「つ、つまりは、私・・・だけ?」
「ううん、ラミアさまは違いますよ・・・ね?」
で、何故、オレに聞く?
いや、オレと一緒に寝台に入ったかどうかだから、オレに聞くのが一番手っ取り早いんだがね。
「あ、うん、そうだな。」
ある意味では唯一、裸体を見た事があるのでアレだが。
「あれぇ~?何でそこで赤くなるんですかぁ?まさか・・・。」
「まさか、何だよ?」
腕を組んで考え込むホリン。
「城でないとすると・・・森で致しちゃいました?」
はひ?
「そ、そうなのですか?!」 「なわきゃないだろ!」
それどころか、今まで侍女である彼女達と抱いた事はない。
「本当ですかぁ?」
ホリンがニヤニヤと笑いながら、にじり寄って来る。
「ない。少なくともオレからは絶対にしない。」
「絶対に?」
きょとんと不思議そうな顔をして、ホリンは首を傾げる。
「侍女である皆にオレからって、身分を考えたら拒否出来ないだろ?そんな無理矢理なのか愛情なのかわからないなんて嫌じゃないか。」
これも一つの本音だ。
もう一つは世継ぎというか、オレにこの血を残す気がないというコト。
兄上の子と争いになるのも嫌だし、入れみたいな地位で惨めな思いをされるのも嫌だ。
いや、オレの場合は惨めじゃないぞ?
第一、兄上があの完璧超人だから、惨めも何も爽快な程に負けを受け入れてる。
何よりさ、やっぱり"裏切り者の血"は残したくない。
「も~、アルム様ったら誠実なんだからっ。」
指でつんつんとオレの頬をホリンがつつく。
一体、何をしたいんだが。
「では、アルム様は身分の差を気にしないと?」
珍しくレイアが口を挟む。
「オレが一度でも、自分の為だけに身分を振りかざした事、アル?」
「・・・・・・ないです。」
だろ?
「あらぁ~?」 「今度は何?!」
いい加減、この話題から離れたい。
というか、引っ張り過ぎだ。
「ご自分からというのが問題なら、私達側からお誘いすれば問題ないという事ですね~?」
「あ゛?」
「なーんだ、そうなんだ。」
納得するなよ!
「いや、そういう意味で言ったのではなくて・・・。」
「私みたいな粗忽者でも構わないのでしょうか?」
期待に満ちた眼差しをレイアから向けられている気がするのデスガ・・・。
「これはぁ~、お姉さん組としては今夜に備えて大忙しですねぇ~ミランダさん?」
「て、お姉さん組って・・・。」
二人同時に相手をしろと?
「じゃなくて!」
「私とアルが・・・アルと・・・。」
あぁ~、もうミランダは手遅れだな、アレ。
「・・・今日は絶対一人で寝よう・・・って、サァラ!鼻血!鼻血出てるっ!」
「え?あ・・・。」
呆けたまま自分の鼻をこすって、口の周りまで血まみれになるサァラ姫。
「ホリン!何か拭くモノ!」
「あはは~、了解~。」
笑い転げるように布巾を取りに行くホリンだが、君が原因の一端だと自覚して欲しい。
「全く、困ったものです。」
「て、レイア?君も顔真っ赤だよ?」
呆れた表情をしたレイアも頭の中では何を想像したのやら。
「楽しみですわ~。」
「シルビィ、いい加減にしなさい。」
朝から騒々しいったら、ありゃしなかった。