チよりも濃く温かいってコト。【前】
コンコンと部屋の扉を叩く音で、オレは意識を取り戻した。
・・・どうやら、少し眠っていたようだ。
あんだけ騒いでから入浴すれば、そうなるよな。
夕食もとって満腹だったし。
「どうぞ。」
ダルい身体をなんとか起こし、許可を出す。
このやりとりをする人間自体が少ないのが悲しいとろだが、大体の人物が想像出来るのも確かだ。
「アルム様・・・。」
「どうしたミリィ?あれ?オリエも。」
部屋に来た二人は夜着姿。
・・・夜着姿ってアレだよなぁ。
「・・・オリエ、おいで。」
どうしてなんだろうな・・。
どうしてオレだったのだろう?
そう思っていると、無邪気にオリエが布団に入ってくる。
何故と考えてたら、オリエも同じか。
「アルム?」
心配そうに見つめてくるオリエの頭を撫でる。
「ねぇ、オリエ。オリエにお願いがあるんだ。」
今、オレは罪悪感よりも、彼女のこれからの未来が楽しみで仕方がない。
彼女が一体、どんな女性に成長するのか。
「オリエ、自分の力を嫌いにならないで欲しい。」
何故、自分がこんな力を持ったのか。
望んで手に入れたわけじゃないのは、オレもオリエも同じ。
「その力があったから、オレは助かった。それを含めてオリエなんだよ?」
否定し続けるだけでは、何も生まれない。
何も変わらない。
痛い程、それは理解させられた。
「だから、嫌わないであげて。何時か、その力が大切な人を守る為に必要になるかも知れない。」
無言のまま、オレを見続ける灰銀色の瞳。
「オレを助けた時みたいに。」
どう足掻いても、逃げても、付き纏うというのなら受け入れるしかない。
「・・・わかった。アルムが言うなら、ガンバル。」
受け入れられたのなら、絶対見える景色は変わってくる。
「ありがとう。」
オレはオリエを抱きしめる。
「愛しているよ、オリエ。」
惜しむらくは、成長を見守る時間がオレに残されているかどうかだけれど・・・。
「ん?勿論、ミリィも好きだよ?」
「なにか・・・ついでに言われただけな気がします。」
ぶーっと頬を膨らますミリィ。
やっぱり、オレ、何処かの国の王族みたいに後宮作って云々とか絶対出来ない。
円滑な運営とかどうやってんだか、謎だらけ。
「そんな事ないよ、ミリィも可愛いよ。」
嘘はついていない。
「ん~、じゃあ、アイシャ様と比べてどっちがです?」
そう来ますか。
「比べる基準にもよるが・・・。」
胸とか美人度、生まれだったら、今の社会じゃどう見てもアイシャ姫の方が評価されるだろう。
「断然、ミリィだな。」
別に機嫌を取っているワケじゃないぞ。
「・・・それは・・・どういう基準なんですか?」
前置きとして述べた言葉が引っかかっているのか、頬を膨らますのを止めたものの、機嫌は直っていない。
「相手がオレの事をよく知らないっていうのもあるけど、ミリィはオレの全部を認めて受け入れてくれそうだからかな。」
外見は一切関係ない。
いや、ミリィも充分可愛いし、ちまっとぽちゃっとまとまった身体つきも嫌いじゃない。
「それに・・・。」
「それに?」
「ミリィとなら、一緒に故郷を見に行きたいと思えるから。」
些細な約束・・・というか、誘い。
「あ・・・。」
本当に些細な事かも知れないけれど、今はその約束を果たせるように精一杯生きていられる。
生きていこうと思える。
そう思わせてくれたミリィは、やっぱりオレを構成する一欠片ってコトなんだよな。
「うん、ありがとうミリィ。大好きだよ。」
オレは傍で既に寝息をたてはじめたオリエに布団をかけ直し、ミリィを招き寄せる。
「何時か、オレのやりたい事、成したい事が終わったら、行けるといいな。」
約束しきれない事が辛い。
「はい、楽しみにしてます。」
ミリィの笑顔が痛い。
「オレも楽しみだよ。」
彼女のように素朴で自然があふれた故郷。
うん、いい所だろうな・・・。
「それまでずっとお傍に、それからだってお傍にいますから。」
ぎゅっとオレの夜着を掴む。
彼女は彼女なりに、オレの変調に気づいているようだ。
全く、ダメ皇子だな、本当。
変わり映えというか、学習能力低いんじゃないか?オレ。
「あぁ。おやすみ、ミリィ。」
抱き寄せた彼女は、オリエと同じくらい温かかった。
「おやすみなさいませ、アルム様。」
オレは自分の両脇にある温もりと一緒に眠りにつき・・・。
-そして"夢"を視た。-