トツゼン二者択一も困りモノというコト。
「しかし、どうにも困ったな。」
なにか、今日一日ずっと同じ事を言っているような気がする。
・・・気じゃないな。
目立ちまくって城下を一回りさせられた後、ようやく解放されたオレは現在、自室で着替えの用意している。
よくよく考えてみたら、稽古とか土木工事とか汗だくになる事ばかりして、すぐにアイシャ姫と面会、外出。
別に綺麗好きというわけじゃないが、流石に入浴ぐらいはしたくなる。
普通なるよな?
周りに女性陣が多いから、こういうところは気を遣わないと。
「さて、今回はどうするかな。」
オレの脳ミソは、基本的に生命の危機に片足を突っ込まないと目覚めてくれない傾向があるもので・・・。
「そこは私も聞きたいところだな。」
かけられた言葉に溜め息を一つ。
「さしあたっての問題は、どうして皆、許可を取らずに突然入ってくるか、かな。」
せめて一声。
そう毎度毎度思っているし、口にも出しているんだが・・・。
「そういう人間が好みなのか?」
「あ?」
皆の集団から一歩離れた位置で無言で何時も様子を見ているラミア。
彼女は街に出た時も、やはりそうだった。
「ああいう、お淑やかな姫君が好みなのかと聞いたんだ。」
「ラミア・・・。」
部屋の片隅の壁にもたれかかったままで、声を荒げる事もなく、何時もより静かに口に出す。
それにしてもアイシャ姫がお淑やかねぇ・・・彼女が武器を手にした途端に豹変するという事を皆は知らないからなぁ。
一人、苦笑してしまう。
「何がおかしい?」
おっと、今はそれどころじゃなかったな。
「いや、別に。ラミアこそどうしたんだ?」
彼女がオレに刺々しいのは今に始まった事じゃないけれど、今日はそれとはまた違う。
「先に質問したのは、私だぞ?全く・・・。」
呆れたように壁と背を離し、俺に近づく。
「オマエは一体、何がしたいんだ?」
彼女の言葉にオレは答えない。
答えられない。
「我が森からずっと、オマエを見てきた。」
あぁ、出会いは最悪だったな。
「それからオマエは、本当に色々と変えてきた。」
「すぐには全部変わらないと思うけどな。」
人の偏見や先入観はそう簡単に変わらない。
オレも以前と変わらずダメ皇子、もしくは皇太子の劣化代替品のままだ。
「それでも、その・・・なんだ、努力はしている。それは認めよう。」
もっと言い方はないのか?
ホリンといい、ラミアといい。
まぁ、でも誰とも知らない他人に評価されるよりはいいな。
「ただ少し、急ぎ過ぎとは思う。」
残り時間がどれだけなのか判ればいいんだがな。
まぁ、人間なんて何時かは死ぬんだ。
ただそれまでに多少なりとも残しておきたいものだってある。
「ラミア達と違って、オレ達は意外と寿命が短いんでな。」
冗談にしてはどうかと思うが事実だ。
「だからか?」
ん?
「だから、人間の姫君でお淑やかで・・・あ、あんな胸だけデカい女を選ぶのか?!」
・・・はぃ?
今の会話の流れで何故ぞうなる?
というか、胸は関係あるのか?
確かに大きいが、胸だけなら正直シルビアの方が大きくて美しい。
あれは魔王だから。
ではなくて・・・。
「あの、ラミア?」
「何だ!」
キッとオレを睨む、このラミアの鋭い視線も慣れてきた。
「寿命が近い人間だからじゃないよ。」
そもそもオレが選んだわけじゃない。
「彼女はオレの国の役人が候補にしただけだし、別に、その、胸で選んだわけでもない。」
そこはそこで、色々と大事な点ではあるが。
「そうなのか?」
未だにオレを睨んだままのラミアにオレは溜め息をつく。
「人間だから、エルフだからで、オレは区別なんかしたりしない。それはラミアだって知っているだろう?」
オレは彼女の頬に手を添える。
「それにラミアだって負けないくらい綺麗だよ。」「なっ?!」
彼女達の肌はとても美しい。
肌を除いても、彫が深く目鼻立ちがはっきりしていて、瞳も髪も素敵だ。
「大体、彼女は確かに姫君かも知れないけれど、ラミアだって姫君じゃないか。」
彼女だって、ダークエルフという一族の姫だ。
規模はこの際、関係ない。
「そ、そうだな!」
突然に大声を出されて、オレは思わず手を引っ込める。
ちょっぴり残念そうな顔をするラミアの態度は良くわからんが、人を驚かすのは勘弁して欲しい。
「相手も姫、それは私も同じだったな!」
規模は別としてな。
「あぁ・・・。」
賛同はしておこう。
間違ってはいない。
「そ、そうだな!うむ!」
何か一人で納得していらっしゃる。
ちょっと大丈夫かと心配。
「つまり、まだという事だな!」
「い?いや、何が?」
始まったよ、極端から極端に走るダークエルフの特性(?)
「よくわかった!」
だから、何が?
「とこでアルムはこれから入浴か?」
「ん?ああ。」
そうだった入浴する為に、一度この部屋に戻ったのを忘れていた。
「ふむ。どうだ?たまには、わ、わ、私が背中を流してやろうか?」
「たまにはも何も、今まで一緒に入った事なんてないだろう。」
それだけは全力で回避してきていたからね。
あと着替え。
「そうか・・・ふむ。なら、どうだ一緒に?」「却下じゃ。」
「何故だ?」「却下じゃ。」
この押し問答にすらならないやり取りは、数十分程繰り広げられたのだった。