イッショにいるというコト。【後】
「不安ね・・・。」
そりゃあ、あるさ。
夜着に着替えたオレは一人呟く。
城に帰って来た後、オレの魂が不安定な状況にあるとしたら?
もし、残された時間が少ないとしたら?
いてもたってもいられない。
残された時間で精一杯出来る事をしなければ・・・。
ただ・・・不思議と死ぬのは怖くない。
「失礼しますぅ~。アルム様・・・あらぁ?」
寝室に入って来たシルビアは、オレの夜着姿を見て少し不満そうな表情をする。
「もう着替えられてしまいましたかぁ~。お手伝いしようとしましたのにぃ~。」
「いや、普段から一人で着替えてただろ?」
着替えも入浴も手伝いなんていらない。
というか、この間延びした喋り方を聞くのは久し振りだ。
「そうでしたか~?」
「そうでしたよ。」
もう絶対ワザと。
確信犯。
「確信犯じゃないですよぉ~。」
また心を読むし・・・。
きっとこれも術使いとしての能力の一端なんだろう。
オリエもトウマと名乗っていた時に、オレをアルムと呼んだ。
リディア先生も時折、心を読んでいるんじゃないかと思う発言があったし。
「お手伝いしたい年頃なんですぅ~。」
どんな年頃だよ、ソレ。
「女性に年齢聞くのはダメですよぉ~。」
いや、そんな可愛く指先で×印出されてメっとか言われても聞いたりしないから。
「随分と楽しそうだね、シルビィ。」
何時も以上に元気だ。
やはりシルビアはこうじゃないとな。
出逢った時から、オレにとってのシルビアってこうなんだし。
「はぃ~。張り切ってお手伝いしたいんです。もっと必要と思ってもらえる為に。」
急に真面目だなぁ、もう。
「はぁ・・・シルビィ?」
オレはシルビアの手を取ると、その手を自分自身の胸に。
丁度、リディア先生が以前、オレの魂の質を見る為に手を置いた位置。
「心が読めるならわかるだろう?オレがどう思っているか。」
オレは自分で思っている以上に他人に、周りの人間に支えてもらっている。
生きる意志も、魂の強さも、誰かに支えられる事を糧にしているんだ。
ちょっと情けない話だけれど。
だから、シルビアもとてもとても大切なオレを構成する一欠片。
「ね?」
「・・・わからないです。」
顔を少し赤らめ呟くシルビアは、きゅっと手を置いたオレの服を掴む。
「ちゃんと口で・・・言葉で言って欲しいですぅ。」
随分と大きな甘えん坊。
視界に銀の指輪が入る。
「大事だよ。オレにとっては目に映っているシルビィが全て大切だ。かけがえのないものだよ。」
だから、立ち止まれないんだよな。
「嬉しい・・・。」
瞳に涙を溜め微笑むシルビアは、少女のように可憐で綺麗だ。
「アルム様、就寝前にお茶でうぉっ?!」
魚?
つか、何でオレの周りの女性は、こういう時に限って許可も無しに部屋に入ってくる・・・。
きちんと扉を叩いてから入ってくるのが、ミリィとホリンといううっかり二人組だけとはどういう事なんだ?
「あらぁ、お邪魔してしましたかぁ?」
瞳に浮かべた涙を指で拭い、何時もの微笑みを浮かべて、ミランダを招き入れるシルビア。
「最近、アルム様はミランダさんを構ってくれないですものねぇ。お姉さん組は寂しいですよね~。」
お、お姉さん組って・・・この城に来た時にそんなの言ってたよなぁ、自分で。
「えっ、あ、う~。」
シルビアの言に思わず唸り声を出すミランダ。
昔はこんなだったなぁ、聞き分けが良過ぎて言いたい事を言えずに唸るこの姉は。
再びこの城に戻ってから、誰とも一緒に寝台に入ってなかった。
トウマの記憶では、ベッドだっけか?
当初はダメ皇子説を流布する為にレイアやホリンと一緒に寝てはいたが。
施設でもミリィとオリエと一緒に寝ていたし、帰城した初日はオリエが不安だろうから一緒に寝た。
そう考えたら、確かに(シルイビア曰く)お姉さん組との時間は取れていない。
「ですよ~。」
以前にも増して反応早いな。
でも、オレが深く強く考えている事しか読めないみたいだ。
口に出さなくていいから、ある意味便利か。
便利の一言で片付けていいものかは知らんけど。
「確かに一理あるね。」
頷きながら、シルビアを見ると・・・。
「うふふっ。」
満面の笑みだ。
「よし、じゃ、三人でお茶を飲んで、一緒に寝るか。」
「はい。って、えぇっ?!」
「あらあら、では、追加のお茶の用意をしてお着替えして来ましょ~。」
これは耐性云々じゃなくて、心を読めてるか否かの差か?
違う気もする。
赤面して硬直するミランダと、楽しそうに鼻歌を歌っているシルビア。
実に対照的だ。
何だか、少しからかいたくもなる。
なるよな?
と、オレは強く思ってみる事にする。
当然、シルビアを見ながら。
「では、アルム様ぁ~。どの様な夜着を私共にご所望ですかぁ?」
流石。
「透っけ透けの欲情するヤツ。」
「へっ?!」
ビクリと反応するミランダ。
「かしこまりましたぁ~。」
「うえぇっ?!」
う~ん、やっぱり実に便利だ。