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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Zeal! 皇子は諦めの物語を紡がない。

はい、ラストの【Z】をどうぞ。

「釈然としないのは、しようがないよな。」

 腑抜けながら、立ち昇る煙を眺める。

あの後、マール君を抱えたオレは塞がった傷口が少し開いてしまった。

それでもマール君を落とす事は出来ないので堪えたが。

「ここも何度も世話になったね。」

 何時もの中庭で、マール君を送っている。

誰にも会う気力が起きなくて、誰かに許可をもらったわけじゃないが、今、オレの邪魔をする奴は覚悟して欲しい。

もっとも、もう力が入らなくて座り込んだ状態なんだけれども。

煙を眺めながら、思う。

マール君を逃がす事は出来たのだろうかと言われたら、答えは否だ。

この場から逃げるのは、難しい。

よしんば、逃げられたとしても犯人が逃亡したとあっては、彼の同族は滅ぼされてしまう。

犯人を不明としたとしても、不信感と疑心暗鬼を呼ぶ。

下手をしたら、オレが回避しようとしていた二国間の戦争にだってなりかねない。

逃亡したとして、彼が諦めてるとも思えないし。

かといって、これが正しいとも思えないし、思いたくない。

でも、涙が出てこないのは、オレが薄情だからだろうか?

それとも、心の何処かで諦めているからだろうか?

怒りとも言い切れない何かが、胸の中にしこりのように残る。

「本物のラスロー王子が見つかった。ちゃんと生きてる。」

 座っているオレの横に立つ人影。

声を聞いただけで誰だか理解したオレは目を向ける事さえしなかった。

そんな気力も無いと言ってもいい。

「アイシャ姫の部下もほぼ無事だ。」

 何の許可も無く、人影はオレの横に腰を下ろす。

「今回の事は、ある一人の亜人の起こした暗殺事件として処理される。」

 クロアートの国とも、セルブの国とも関係ない事件。

ましてや複製神器の盗難やヤツの存在も関係ない。

「ラスロー王子にも約束してもらった。元々、国の面子に関わるしな。」

 王子が拘束・監禁されて、その間、皆が偽王子の言う事を聞いていたとあっては、そりゃあ立つ瀬も無いだろう。

「それじゃあ・・・帰りますか・・・彼も連れて。」

 あと数時間もすれば、彼も移動出来るだろう。

「そうだな。」

 こういう時、"兄弟"って凄いと思う。

兄弟という存在を確かに感じられる。

でも、オレもそんなモノに甘えているばかりではいけない。

「兄上。」

「ん?」

 兄上の表情は、わからない。

でも、きっと真剣にオレの言う事を聞こうとしてくれているだろう。

「オレ、騎士団を作ろうと思います。」

 一人の人間の限界。

神器も無い、ダメ皇子一人。

それじゃあ、リッヒニドスに来るダークエルフも獣人も亜人も守れはしない。

「オレだけの騎士団。民の為に動く騎士団。」

 皇族に忠誠なんて尽くさなくていい。

オレと一緒の立ち位置で、オレと共に民の為に心を砕いてくれる者。

「人種も扱う武器も問わない。」

 オレはリッヒニドスを起点に始める。

マール君とは違うやり方でそこに辿り着けるように。

「初めてだ。」

 兄上が苦笑しながら答える。

「そりゃあそうでしょう。今、決心がついて初めて言ったんだから。」

「そうじゃない。」

 声が心なしか嬉しそうに聞こえる。

「初めてやりたい事を言ってくれたな。兄の自分に。」

 その言葉に思わず兄上を見る。

兄上の視線は、立ち昇る煙を眺めたままだ。

「昔から、兄という存在に遠慮してばかりだったなアルは。」

「兄上・・・。」

 そういえば、昔はこんな風に二人っきりでいる事も、もっと多かった気がする。

オレが病にかかるまでだけれど。

「アル。親は先に逝くものだが、兄弟はそれより長く一緒にいられるんだぞ?」

 それは・・・大抵はそうだろうけれど・・・。

兄上の優しさは嬉しい。

でも、オレがやる事は兄上が継ぐべき国を壊すかも知れない。

民がそれを求めるならば、オレはそれを実行するだろう。

大体において、オレには自国に対する愛国心なんて持ってはいない。

きっともう持つ事は出来ないだろう。

「オレは・・・兄上の邪魔ばかりするかも知れないですよ?」

「アルのやる事が正しいと感じたら、参考にさせてもらうさ。だから、アルの好きにすればいい。」

 くそぅ、兄なのは伊達じゃないな。

流石、完璧超人。

兄としても完璧だ。

「じゃあ、オレはリッヒニドスで好き放題やらせてもらう事にしようかな。とっと帰る事にしますよ。」

 アイシャ姫の前で、本当の名を名乗ってしまった以上、彼女には合わせる顔がない。

オリガさんだって、オレの正体はわかっているはずだ。

二人を騙していた事には違いないもんな。

元々、こうなる事がわかっていて偽名を使ったんだ。

「・・・でも、"トウマ"って名前も悪くはなかったな。」

「ん?」

 これで庶民ごっこともおさらばってコトか。

ま、リッヒニドスへの土産も用意出来たし。

官吏にしたら、また皇子が変なモノを持ち込んだと頭をか抱えるだろう。

ふへへ・・・なんだ、意外と楽しみじゃないか、帰るのが。

うん、気持ちを切り替えるなら早い方がいい。

皇子として、何が出来るかを見つめ直したアルム。

さて、彼はこれから国に帰ってどうするのか?

奪われたままの神器、神器を集めている偽ラスロー王子(仮)との因縁は?

次回!エピローグに突入です。

次回はエピローグ編が2話です。

勿論、リッヒニドス残留組も登場します。

お楽しみに。

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