Yourself! 皇子が皇子である為に。【後】
沈黙が場を支配している。
誰も動く気配はない。
それが余計に酷く滑稽さを感じさせる。
どんな目的があるかは知らないが、世界から見れば彼もオレも存在としては甚だ滑稽だ。
「何時も中途半端だった。」
ぽつりと呟くマール君。
「誰かに媚へつらって。欲しい物も自由に手に入らない!」
キッとオレを睨む小さな少年。
「何をするにも、どちらかの国に属するしか選択肢がなくて!」
あぁ、そうだな。
オレにも選択肢なんて用意はさていなかったよ。
寧ろ、選ぼうと行動する事、それ自体が許されなかった。
でもさ、それは程度の差はあれ、皆、ある意味でそうなんじゃないか?
オリエだってそうだった。
「都合よく使われて。だから、だから国が欲しかった!」
「一応、自治領だろ?」「違う!」
遮る声には悲痛さえ感じられる。
「あんな、誰かの容認の下にある国なんかじゃない!自分だけの国だ!」
可哀想に・・・。
彼は国というものを何か勘違いしている。
今の国は、決して自由という言葉と等しいわけじゃない。
そこには結局、支配する側と支配される側が存在していて。
「だから!」「だから殺しをするのか?力で排斥するなんて、大国のやり方と変わらない。」
今度はオレが彼の言葉を遮る。
国と民の意識を変えたい。
その想いはオレも同じだ。
今の国なんて滅んでしまえと思ってしまうのも。
「それで変革をして、目的を達して何になる?」
結果が良ければ、手段はどうあれ。
オレもそう思っている。
そう行動する時だってあったし、それによって自身が死ぬ事になるかも知れないと覚悟もしている。
動機がどうあれ、正しいならば同様の志を持つ者が続くだろう。
けれど、彼は少し短絡過ぎた。
オレ以上に。
「全ての獣人・亜人はそれを望んでいるのか?例え、自らの手で血に塗れ、他者からどんな目で見られようとも。正しいと胸を張って生きていけるか?」
オレの存在はもう正しいとはいえない。
ある意味で今の生は、夢・幻のようなものだ。
かといって死を選ぶわけにもいかないし、今を生きているのは間違い無く現実だ。
「それじゃあ、何も変わらないよ・・・。」
オレはゆっくりと剣を構える。
打ち合える回数も体力もほとんど残っていない。
でも、これはオレの責任でもある。
オレがもっと早く対応出来ていれば。
彼を説得する機会を見つけられていれば・・・だから、オレがやる。
「今なら何とか治められる。」
横にいる兄上が頷いている気がした。
もう剣を納めているのも。
「他の獣人や亜人が移り住みたいと望むなら、ヴァンハイト皇国、リッヒニドス領にて引き受けよう。」
これならば、二国間の戦火にも巻き込まれないし、選択肢も増えるだろう。
兄上もアイシャ姫も、ここにいる誰もが国というものに縛られている。
他の対外的な事ならば、兄上達がどうにかするだろう。
いや、してもらう。
「今回の件は、君だけで考えて実行に移した単独犯行。そうだね?」
彼以外の獣人・亜人は一切関係ない。
それで戦争が起きる可能性は減る。
たとえ迫害が起きたとしても、リッヒニドスで引き取る。
マール君にしてやれるのは、今のオレではこれが限界だ。
「・・・はい。」
「わかった。ヴァンハイト皇国第二皇子、アルム・ディス・ヴァンハイトの名において約束しよう。」
そしてオレ達は無言のまま、互いに一度だけその身を交錯させた。
「アイシャ姫。残念ながら大叔父様は亡くなられています。」
彼女に背を向けたままで、オレは言葉を続ける。
もうオレは、アルムだ。
そして人殺しだ。
彼女の顔を見る事なんて出来ない。
「事件はマール君の単独犯行。彼の言葉を聞きましたね?」
「私は・・・。」「うるさい。黙っていろ。」
それ以上は言うな。
お願いだから・・・。
「彼はただ。自分と同族に光を・・・自由を与えたかっただけなんだ。」
そうだ。
何度も言う。
想う事は悪くない。
思想くらいは自由だっていいだろう。
「彼は単独で犯行に及び、駆けつけた人間に切り捨てられた。それ以外は不明。いいですね?」
吐き気がする。
こうでもしないと・・・。
"誰かを犯人にして"全ての責任をなすりつけて終わりにしないといけない。
そういう事態の収拾の仕方しか出来ない国という存在が。
「これで治めて下さい。」
オレはゆっくりと倒れたマール君の身体を抱き上げる。
それでも、アイシャ姫がそれをするよりは、断然マシで・・・オレで良かったと思っている。
穢れるのはオレだけでいい。
「彼はオレが連れて行きます。」
悪いな、マール君。
送るのがオレで。
でもさ、これ以上、君の嫌いな国のヤツ等に触れられたくないだろう?
とうとう、【Y】まで到達しましたね。
次回、アルファベットタイトルの最後【Z】です。
果たして、皇子はこれからどうするのか?