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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Yourself! 皇子が皇子である為に。【後】

 沈黙が場を支配している。

誰も動く気配はない。

それが余計に酷く滑稽さを感じさせる。

どんな目的があるかは知らないが、世界から見れば彼もオレも存在としては甚だ滑稽だ。

「何時も中途半端だった。」

 ぽつりと呟くマール君。

「誰かに媚へつらって。欲しい物も自由に手に入らない!」

 キッとオレを睨む小さな少年。

「何をするにも、どちらかの国に属するしか選択肢がなくて!」

 あぁ、そうだな。

オレにも選択肢なんて用意はさていなかったよ。

寧ろ、選ぼうと行動する事、それ自体が許されなかった。

でもさ、それは程度の差はあれ、皆、ある意味でそうなんじゃないか?

オリエだってそうだった。

「都合よく使われて。だから、だから国が欲しかった!」

「一応、自治領だろ?」「違う!」

 遮る声には悲痛さえ感じられる。

「あんな、誰かの容認の下にある国なんかじゃない!自分だけの国だ!」

 可哀想に・・・。

彼は国というものを何か勘違いしている。

今の国は、決して自由という言葉と等しいわけじゃない。

そこには結局、支配する側と支配される側が存在していて。

「だから!」「だから殺しをするのか?力で排斥するなんて、大国のやり方と変わらない。」

 今度はオレが彼の言葉を遮る。

国と民の意識を変えたい。

その想いはオレも同じだ。

今の国なんて滅んでしまえと思ってしまうのも。

「それで変革をして、目的を達して何になる?」

 結果が良ければ、手段はどうあれ。

オレもそう思っている。

そう行動する時だってあったし、それによって自身が死ぬ事になるかも知れないと覚悟もしている。

動機がどうあれ、正しいならば同様の志を持つ者が続くだろう。

けれど、彼は少し短絡過ぎた。

オレ以上に。

「全ての獣人・亜人はそれを望んでいるのか?例え、自らの手で血に塗れ、他者からどんな目で見られようとも。正しいと胸を張って生きていけるか?」

 オレの存在はもう正しいとはいえない。

ある意味で今の生は、夢・幻のようなものだ。

かといって死を選ぶわけにもいかないし、今を生きているのは間違い無く現実だ。

「それじゃあ、何も変わらないよ・・・。」

 オレはゆっくりと剣を構える。

打ち合える回数も体力もほとんど残っていない。

でも、これはオレの責任でもある。

オレがもっと早く対応出来ていれば。

彼を説得する機会を見つけられていれば・・・だから、オレがやる。

「今なら何とか治められる。」

 横にいる兄上が頷いている気がした。

もう剣を納めているのも。

「他の獣人や亜人が移り住みたいと望むなら、ヴァンハイト皇国、リッヒニドス領にて引き受けよう。」

 これならば、二国間の戦火にも巻き込まれないし、選択肢も増えるだろう。 

兄上もアイシャ姫も、ここにいる誰もが国というものに縛られている。

他の対外的な事ならば、兄上達がどうにかするだろう。

いや、してもらう。

「今回の件は、君だけで考えて実行に移した単独犯行。そうだね?」

 彼以外の獣人・亜人は一切関係ない。

それで戦争が起きる可能性は減る。

たとえ迫害が起きたとしても、リッヒニドスで引き取る。

マール君にしてやれるのは、今のオレではこれが限界だ。

「・・・はい。」

「わかった。ヴァンハイト皇国第二皇子、アルム・ディス・ヴァンハイトの名において約束しよう。」

 そしてオレ達は無言のまま、互いに一度だけその身を交錯させた。

「アイシャ姫。残念ながら大叔父様は亡くなられています。」

 彼女に背を向けたままで、オレは言葉を続ける。

もうオレは、アルムだ。

そして人殺しだ。

彼女の顔を見る事なんて出来ない。

「事件はマール君の単独犯行。彼の言葉を聞きましたね?」

「私は・・・。」「うるさい。黙っていろ。」

 それ以上は言うな。

お願いだから・・・。

「彼はただ。自分と同族に光を・・・自由を与えたかっただけなんだ。」

 そうだ。

何度も言う。

想う事は悪くない。

思想くらいは自由だっていいだろう。

「彼は単独で犯行に及び、駆けつけた人間に切り捨てられた。それ以外は不明。いいですね?」

 吐き気がする。

こうでもしないと・・・。

"誰かを犯人にして"全ての責任をなすりつけて終わりにしないといけない。

そういう事態の収拾の仕方しか出来ない国という存在が。

「これで治めて下さい。」

 オレはゆっくりと倒れたマール君の身体を抱き上げる。

それでも、アイシャ姫がそれをするよりは、断然マシで・・・オレで良かったと思っている。

穢れるのはオレだけでいい。

「彼はオレが連れて行きます。」

 悪いな、マール君。

送るのがオレで。

でもさ、これ以上、君の嫌いな国のヤツ等に触れられたくないだろう?

とうとう、【Y】まで到達しましたね。

次回、アルファベットタイトルの最後【Z】です。

果たして、皇子はこれからどうするのか?


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